21 地下基地からの脱出
『じゃあみんな、準備は良い?』
通路の先を見据える全機に対し、メイが確認の通信を飛ばす。スクリーンの向こう、先程まで戦闘を繰り広げていた区画内には、全滅させたはずの〈カーカーラック〉達が何事もなかったかのように、平然と闊歩している。
「うん」
僕は答える。現在の〈叢雲〉は、右手にエーテルソード、左手にショットガンを装備させている。帰りの事を考えブレードは左腰の鞘に収めて温存。〈叢雲〉はエーテル系武装の使用をあまり考慮していないので、EN量は少ない。まあ初期武装のエーテルソードは、威力も低い代わりにEN消費量も少ないから、取り敢えず脱出まで持ってくれるだろう。
『……うん』
カノンが答える。現在の〈グリムリーパー〉はスナイパーライフルをストレージ内に格納して、代わりにハンドガンを装備している。攻撃力は低いが、取り回しが良い。弾数は少ないが、オートリロードの時間も短い。何より、ストレージ容量を圧迫しない。そう言う武器だ。
『はい』
だいぶ冷静さを取り戻してくれたサラが答える。〈モモちゃん〉の装備は特に変更なし。
『じゃあ言った通り、無視出来る相手はとことん無視して突っ切りましょう。合図と共に突入ね。……三、……二、……一』
メイのカウントダウンが始まる。現在の〈フリューゲル〉は、エーテルライフルを引っ込め、代わりに実弾式のサブマシンガンを装備している。僕とは逆に、主力であるエーテル系武装を温存するためだろう。
『……行くわよ!』
予定通り、合図と共にブーストダッシュで突撃する。こちらに気付いた〈カーカーラック〉達が一斉に向き直る。
先手を打つ。進路上の敵機に狙いを定め、攻撃開始。
ショットガンの、サブマシンガンの、ハンドガンの、ガトリング砲の弾丸が、進路上を薙ぎ払う。銃撃の嵐に巻き込まれ、撃破された敵機もいれば、素早く範囲外へと逃れた敵機もいる。どちらにせよ、今は関係ない。開いた隙間を押し通り、一気に南東側区画へと続く通路に飛び込む。
『通路にも敵機多数! 後ろはどう!?』
「ばっちり追って来てる! 下手すりゃ挟み撃ちに遭う!」
『カノンにサラ! 後ろの奴ら適当に押し止めて!』
二人ははそれぞれに『……了解』『了解です』と答えて、背後に向き直る。カノンの〈グリムリーパー〉の機動力なら先行する僕らにすぐ追い付けるし、サラの
〈モモちゃん〉はホバー脚であるため、後ろを向いたままの移動は得意。そう言う機体の特徴から、殿を任された格好だ。
背後は二人に任せ、僕らは前方の邪魔者を片付けるのに専念する。立ち塞がる敵機を〈フリューゲル〉の銃撃が追い散らす。
その隙を突いて僕は突出し、エーテルソードを発振。光の刃を横薙ぎに振るい、一機の〈カーカーラック〉を両断する。返す刃で、別の一機に斬り掛かる。回避されるけど、向こうへ追い払う事は出来た。
僕に向かって、反撃のレーザーが飛んで来る。回避――したところへ、別の敵機からの攻撃。命中判定。
「ああったく!」
床から壁から天井から、あちこちから飛んで来るレーザーを、回避とガントレットの防御と床のバリケードで凌ぎつつ、行く手にショットガンを向ける。
四発撃つ。二発が壁に、一発が床に、一発が敵機に穴を開ける。
『今の内! 早く行きましょう!』
言葉と共に、メイ機が僕の横を駆け抜けて行く。カノン機とサラ機が後に続くのを確認して、僕も彼女らの背中を追い掛ける。
南東側区画に飛び込む。既にこちらに気付いている〈カーカーラック〉達から、一斉にレーザー攻撃を受ける。避けられるものは避けつつも、少々のダメージには構わずに突っ切る。立ち塞がる相手は、容赦なく排除。
ガシンッ、と〈叢雲〉に衝撃が加わる。恐らく、後頭部の辺りだろうか。何事かとサブウィンドウを開く。機体後方を映し出すカメラ映像には、一機の〈カーカーラック〉の腹部が映し出されていた。
どうやら、後頭部に張り付いているらしい。天井から落ちて来たのか、手近なコンテナから飛び付いたのか。いずれにせよ、このまま放っておけば至近距離からのレーザー攻撃を喰らい続けるだろう。大量に張り付かれれば、重さで動きも鈍るだろうし、無視する事は出来ない。
「誰か! 僕に張り付いている敵を何とかしてくれ!」
『待ってて!』
メイが言うと同時に、機体に衝撃。僕ごと敵機を撃ったらしい。ダメージはないけど衝撃でつんのめって、そのまま転倒。倒れ込んだところに、敵の攻撃が突き刺さる。
「ありがたいんだけど! もうちょっと優しく何とか出来なかったの!?」
『こんな状況で贅沢言わないでよ!』
『二人共、早く行って下さい!』
背後からの敵機を食い止めているサラから言われて、急いで立ち上がる。背後を見れば、かなりの数の敵が追って来ていた。
迫り来る敵へと向かって、〈モモちゃん〉の両肩部ロケットランチャーが発射される。合計二発の弾頭が〈カーカーラック〉の群れの中心に着弾。敵機とコンテナと残骸とを、まとめて爆炎で吹き飛ばした。
『両方とも残り一発です!』
『リロード完了したら言って!』
炎を突き破ってなおも迫る敵機を背後に、通路へと駆け込む。僕が先頭に立ち、ソードを振り回して敵機を追い払う。
『流石にブーストゲージが持たないわよ! ちょっとで良いから体勢を立て直す時間が欲しいわ!』
『……機体に引っ付いたの誰か取ってー』
『もうガトリングも完全に弾切れです!』
メイ達の報告に、しばし頭を巡らせる。
「次の区画で一旦立ち止まろう! メイ、肩のミサイルは使える!?」
『あと一回だけなら!』
「だったら、区画に入るなり使って! 後続は僕が食い止める!」
メイが『了解!』と返している内に、北東側の区画が見えた。残ったゲージを使い切る勢いで、〈フリューゲル〉がブーストで突入。指示通り、両肩に内蔵されたマイクロミサイルを一斉発射する。多数の小型弾頭がそこかしこに小爆発の花を咲き散らせ、〈カーカーラック〉達を巻き添えにする。
メイに続いて区画に突入した僕は、〈叢雲〉を反転させて通路出入り口に立ち塞がる。
「二人共急いで!」
〈グリムリーパー〉を追う敵機を撃ちながら叫ぶ。区画内に飛び込んだ二人は、素早くコンテナの影に隠れる。追いすがろうとする敵機をエーテルソードで斬り捨てる――が、APがわずかに残っている。命中判定のはずなんだけど……流石に初期装備の攻撃力の低さでは、直撃させなければ一撃で撃破は出来ないようだ。
倒し損ねた敵機は捨て置いて、次々に区画へと殺到する〈カーカーラック〉達
を、ショットガンで迎え撃つ。
五発撃ったところで、弾切れ。
間隙を突いて、一部が〈叢雲〉の脇を通り過ぎ、残りが僕にレーザーを浴びせて来る。ガントレットで防御。度重なる酷使に、遂に耐久値が底をつき、破壊されてしまう。
「まだなのか!?」
『もうちょっと! リロードもしとかなきゃ……!』
『……来てる、こっち来てる……!』
『そんなに潰されたいのかしらぁっ!』
好戦的な叫びと共に、敵機へと向かって〈モモちゃん〉の力任せの拳が叩き付けられる。それでもAPが残っていたので、更に足で踏み付けられる。重量級MRによって、例のアイツよろしくグシャグシャに潰された〈カーカーラック〉は、ぶすぶすと断末魔の黒煙を上げるただのガラクタと化していた。
……うん、今度ナックルガード系の武器を勧めておこう。彼女なら、きっと使いこなせるはずだ。
メイ達の事は荒ぶるサラに任せ、僕は区画に進入する敵機を押し止めるのに専念する。一機ずつ丁寧に確実に、と言った考えは捨て、ガムシャラにソードをぶん回す。とにかく、近付けないのが最優先だ。
それでも、エーテルソード一本で完全に防ぎ切るのは無理がある。一機、また一機と脇を通り過ぎて行く。一部は〈叢雲〉に取り付いて、至近距離からレーザー攻撃。これまでにじわじわと蓄積して来たダメージで、遂にAPゲージは半分を切った。
『コウありがとう! 逃げるわよ!』
言うなり、メイが僕の機体にサブマシンガンを浴びせる。今度は文句を言う余裕もない。衝撃で床に倒れ込んだ勢いで〈叢雲〉を横向きに転がらせ、猛攻から逃れる。人間、追い詰められると思い切りが良くなるもんだと、我ながら感心する。
転がる勢いを利用して起き上がり、急いで三人を追い掛ける。
『……急いでっ』
僕に追いすがって来る敵機が、カノンからの精密な援護射撃で蹴散らされる。スコープの付いていないハンドガンでも、この精度。やはり彼女の射撃センスは高
い。
行く手の通路から、〈カーカーラック〉がわさわさと姿を現す。後ろからも、大量のお仲間。まともにこいつらの相手をしていたら、たとえ十全の状態であっても弾薬不足に陥るんじゃないか。
『……凄い追って来てる』
『振り向かないで! 急いで脱出するのよ!』
『あれ全部、基地ごと滅ぼしてやったらさぞかし気持ち良い事でしょうね……』
「状況的にもシステム的にも出来ないから! 逃げる事だけ考えてくれ!」
通信越しに騒ぎながらも、足は止めない。張り付いた敵機をぶら下げながらも、北側の区画へと到達。
『ゴールは近いわ! あとちょっと頑張ってみんな!』
『ロケットランチャー、リロード完了したわよ! いつブチ込むの!?』
「指示を出すから待ってくれ!」
サラお嬢様の言葉遣いが順調に壊れていく中、一心不乱にエレベーター区画へと続く通路を目指す。密度の濃いレーザーに晒され、張り付いた敵機から熱いベーゼを貰い、もうみんなAPが三割を切っている。
「ヤバ……ッ!」
一機が放ったレーザー攻撃が、〈叢雲〉の右腕をエーテルソードごと吹っ飛ば
す。
敵機が迫る。左手のショットガンは、まだリロード完了していない。
ショットガンを放り投げ、開いた左手で腰のブレードを逆手に引き抜く。切っ先を近付いて来た敵機に向け、そのまま串刺しにする。
『……もうハンドガンの弾がない』
『ぎゃーっ! もうさっさと離れなさいよーっ!』
『何でよっ!? 何で壁に叩き付けた程度でガトリング砲が壊れるのよっ!?』
仲間達の阿鼻叫喚を聞きながらも、通路に突っ込む。幸いにも、エレベーター区画側に敵はいないようだった。
……こうなりゃ、もうアレだ。
「みんな、サラの周りに固まって!」
『何でっ!?』
「良いから! サラは北側を向いて!」
順手に持ち替えたブレードを振りながら言う。
『これで良いのっ!? どうするつもりっ!?』
『……何かするなら早く。もうAPが限界』
二人の準備が出来たのを確認する。目前まで迫っている敵機の群れを見据えながら、僕は叫んだ。
「じゃあサラ! 残りのロケットランチャー、足元に向けて撃って!」
『『……え?』』
『派手に行くわよっ!!』
『『……え?』』
呆然と聞き返すメイとカノンを気に掛ける様子も見せず、サラは躊躇の欠片もなく、速やかに指示の内容を実行に移した。
〈モモちゃん〉の両肩から、ロケット弾頭が放たれる。
着弾。紅蓮の炎が瞬間的に膨れ上がり、迫り来る敵機と、張り付いている敵機
と、僕らの機体とを等しく飲み込む。
『うぎゃああああああああっ!?』
『ぴにゃああああああああっ!?』
轟音が基地内に反響する。爆炎が群がる敵機を焼く。爆圧が僕らを吹き飛ばす。〈モモちゃん〉は北側の区画を向いていたから、その背後――つまりエレベーター区画側に。
「早く立って! 今の内に急いでエレベーターに!」
〈叢雲〉を起き上がらせ、倒れている仲間達に言う。よろめきながらもメイ機とカノン機は立ち上がり、よたよたとエレベーターへ向かう。燃える炎の向こうから、生き残った敵機が足音を立ててしぶとく迫る。
まろぶようにエレベーターリフトへと乗り込む。全員が乗ったのを確認してか
ら、叩くように昇降ボタンを押す。
押し寄せる〈カーカーラック〉達を眼下に取り残し、エレベーターは地上へ向かって上昇して行った。
『……って言うか、最後のアレは何なのよぉっ!?』
〈叢雲〉のコクピット内に、メイの怒声が響き渡った。
『結局、自爆作戦じゃないの! 『これから先通用する手口じゃない』って言葉
は、今頃何処をほっつき歩いてるのかしら!?』
『……やるなら予め言って欲しかった』
地上へと帰還し、周辺の安全を確認し終わってから、次に僕はメイとカノンからのクレーム処理に取り掛かる羽目となった。
「わ、悪かったとは思うけど! 仕方なかっただろ状況的に!? 有効は有効だったんだし!」
『ミスならとか許せるけど! 確かに仕方なかったし、有効だったけど! だからって、予告なしでド派手にやられちゃ流石に文句の一つも出るわよ! 何!? コウは痛いのとかウェルカムな趣味嗜好の持ち主なの!?』
『……そ、そう言う趣味は、私にはまだちょっと……』
「風評被害だ!?」
何言い始めちゃってんだこの二人!?
反論しようかとも思ったけど……結局、僕の口から出て来たのは、深くて長い溜め息。正直言って、何かを言い返す気力も湧いて来ない。
「……はあ。悪かったよ、もう……」
『……そうね。何かもう、どうでも良くなって来たわ……』
『……広い心で許す』
「そりゃどうも……」
それぞれ、気が抜けたように呟く。あの狂乱から無事に逃れた安堵と疲労感とが今になってどっと押し寄せ、やる気がみるみるしぼんで行くような心地だった。
『それより、まだ帰りが残ってますよね。大丈夫なんですか?』
すっかり元の口調に戻ったサラが尋ねる。
『……まあ、徹底的に敵を避けて進めば大丈夫でしょ。レーダー効くようになってんだし。カノン、よろしくね』
『……どんと来い』
「頼もしいよ……」
家に帰るまでがミッションです、と言う言葉が心の何処かで自己主張を始めるのをうんざりと受け流しつつ、僕らは帰路に就いた。
慎みを重ね、慎重に慎重を重ねて進んで行った結果、幸いにも敵との交戦を一切避けて、ポーターまで辿り着く事が出来た。
無事に『セレーネ』への帰還を果たし、無事にミッションの成功報告を完了さ
せ、無事にお目当ての設計データを入手。
お陰で、無事にサラは〈モモちゃん〉の新装備を入手する事が出来た。
「四連装ミサイルポッド……。素敵です……」
うっとりとした瞳で、敵機が派手に飛び散る兵器を眺める女の子の姿に、色々と思うところがなくもないんだけど……。
まあ、めでたしめでたしって事で。
短編投稿しました。
よろしければどうぞ。
ネオ陰陽師~決戦ッ! セイメイVSドーマン~
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