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20 地下基地での戦闘

「メイ、弾が切れた! リロードの時間稼いで!」

『分かった! なるべく急いで!』


『……奥から更に三体出て来た』

『了解! 落ち着いて対処して!』


『あははははははっ!! あっははははははっ!!』

「メイ! サラがもう僕らの手に負えない状態になってる!」

『もう獣を野に解き放ったものと思って、好きにさせましょう!』


 四区画目――最初のエレベーター区画から見て南側の区画で、僕らは戦闘を続けていた。


 これまでに探索した三つの区画には、お目当ての設計データはなし。代わりに、お目当てじゃない〈カーカーラック〉からの歓待をたっぷり受ける羽目になった。


 数の多さだけが取り柄、と言うのは、今の僕らにとってもはや軽んじて良い情報ではなくなっている。なにしろ、数の多さこそが今現在の脅威の根元なのだから。


 とにかく、気付いたら何処にでもいる。目の前にいる。後ろにいる。足下にい

る。壁にいる。物陰にいる。頭上にいる。


 現れたら、わさわさ動き回ってこちらを攪乱かくらんする。冷静に止まっている時を狙えば良いけど、こうも間断なく襲われると気がはやって無駄撃ちする事も増えて来る。


 当てさえすれば簡単に倒せるけど、当然撃てば弾を消費する。積もり重なれば即ち、弾薬切れとなる。近接武器の耐久値の同様だ。


 攻撃手段も、威力の低いエーテルレーザーだけなんだけれども、喰らえば確実にAPが減る。何度も何度も喰らえば、撃破される危険性だって出て来る。無視して突き進む、と言う手段も取り辛い。


 結果として、じりじりと消耗して行く。一気に迫る危機であれば、早めに撤退するなり何なり、むしろ対処はしやすいけど、緩やかに迫る危機は引き際が分かりづらい分、質が悪い。気が付いたら、抜け出せない深みに腰まで浸かっていた――なんて事も考えられる。


 取り敢えず、今は目の前の敵に集中する。リロードを手早く済ませて戦線に戻

る。復帰第一発目の散弾をお見舞い。まとまって飛んで行く中で、少しずつ散って行った子弾が、二体の〈カーカーラック〉にカスリ判定を与える。一度に複数の敵機にダメージを与えた事になるけど、この場合そう喜ばしい事でもない。普通に当てれば一撃で倒せる相手なのだから、多少APを削っても大した意味はない。


 気を取り直して二発目。今度は動きを止めていた一機に命中、撃破。次に撃った散弾は、狙いを付けていた敵機には当たらなかったけど、偶然他の敵機に命中、撃破する。敵の数が多ければ、こう言うマグレ当たりも出て来る。


『しつっこい!』


 メイが叫びつつ、エーテルライフルを乱射。荒い狙いが床や壁を焦がす中、一発のビームが敵機を捉える。撃破。これで、僕らの視界に見える敵機はいなくなっ

た。


「……まだ来るか……?」

 呟きつつ、注意深く様子を見る。


『……レーダーに反応なし』

「ふー……」


 カノンの言葉に、思わず気が緩む。どうやら、この区画内の敵機は全滅したらしい。ここまでに一体何機の〈カーカーラック〉を倒して来た事やら。いい加減うんざりして来る。


『ああもう……。あいつら鬱陶うっとうしいったらありゃしないわ……』

『……思ってた以上に厄介……』


 みんなもあの数に嫌気が差しているらしく、げんなりとした声が通信チャットに乗って、僕の耳に届く。


『足りない……もっともっと潰して潰して潰し回って潰し尽くさないと……』

「メイ……。僕らの知る、あの穏やかなサラはもう戻って来ないのかな……」

『信じましょう……。時がいつか、あの頃の優しさを取り戻してくれる事を……』


 修正。修羅道に墜ちた一人のかけがえのない仲間は、底冷えするような声を通信チャットに乗せ、なおも敵の姿を探し求めていた。


『…………そ、それより早くデータの確認をしよう』

 カノンが言った。


 各区画にはそれぞれ一つずつ、人間が使っていた部屋がある。中央のエレベーター区画から離れるように伸びる、通路の奥だ。


 この通路内では敵機が進入して来ない、一種の安全地帯となっている。部屋に入るために、プレイヤーは一旦MRから降りる必要があるので、そのための措置だろう。逆にプレイヤー側も、安全地帯から外へ向けて攻撃を仕掛ける事は出来ないようになっている。


 全員でMRを降りて部屋の中へ。別に全員で行く必要なんてなさそうなものだけど、そこはメイの意向だ。


 曰く、


『だってだって、こーゆー重要アイテム入手の瞬間って、みんなで一緒に迎えるのが礼儀って奴でしょ!?』


 ……との事。そんな礼儀、初めて聞いた。当然、僕は外で待つと主張したんだけど、却下された。もうどうでも良くなって来たから、そのまま従う事にした。


 真っ白な床と、真っ白な壁で囲まれた部屋には、真っ白な天板のPC一体型デスクが並んでいた。その内の一つに、『Touch』と表示された赤い矢印アイコンが出ている。これに触れれば、PC内のデータを調べた事になる。


「んじゃー早速調べるわよ」


 返事も待たず、メイがアイコンに触れる。ちなみに他の三カ所でも、『あたしがやりたーい』と、メイが行っている。何と言うか、彼女の思考様式が手に取るように分かるようだ。


「……ん? よよ?」

「何だ、その珍妙な声は」

「うっさい。そして喜びなさい、当たりよ!」


 メイが言うのと同時に、僕達の前にデータの回収に成功した旨を告げるウィンドウが表示された。


「良かった、やっと見付けた……」

「……後は帰るだけだね」


 メイのテンションに反し、僕らは疲労混じりに安堵する。困難を乗り越えた、と言うよりも厄介な事が終わった、と言うのが気分的に近い。


「何を言っているんですか? この基地の掃除はまだ……」

「サラ、ゆっくりと大きく深呼吸して。それからミッション確認画面を開いて、湖面のように澄んだ心で今回の目的をじっくりと確認しよう」


 自分の目的を見失ってしまったかけがえのない仲間に対して、僕は真摯に向き合い、語って聞かせる。敬語が戻って来てくれた分だけ、先程よりマシになっているのかも知れない。


「あー……それなんだけどね……」

「ん? 何?」


「こーゆーミッションって、大抵目的のアイテムを回収したら、敵機が増やされる事が多いのよね……」

「…………つまり?」

「ここ出る時は覚悟決めた方が良い、って話よ」


 軽く目眩がして来た。


「い……いやでも、こないだメイと二人で受けた資源回収ミッションでは、そんな事なかったけど……」

「そりゃ、最初期の奴だからね。それにあのミッションの肝は、場違いな程強い敵機をいかに避けて進むかってところだったし」


「つまりあの時、君は肝が分かってた上で突っ込んだって事か?」

「だからみんな。MRに乗ったらまず、機体のAPとEN、残弾の確認をして。各機の状態を把握して、それから方針を立てましょう」


「……了解」

「了解です」

「了解。それから、上手く話を流せたと思っているのなら大間違いだからな? 僕の質問に答えるんだ」


「何よう。メイちゃんのこの曇りなきビー玉のようなおめめを見なさい。答えには十分なはずよ」

「確かに。さっきから僕の視線を全力で回避している目玉の動きを見れば、答えは一目瞭然だね」


「じゃあ、ここを出るわよ。乗ったらまず確認、良いわね?」

「話が全く終わってないって事は、後でたっぷり理解させるとして。了解だよ」


 部屋から出た僕らは、早速MRを呼び出して、搭乗する。


 乗ってすぐに状態を確認する。APは十分余裕あり。ただし、リペアユニットはもう使い切っており、手元にない。


 ショットガンの弾。残りの弾倉は、現在使用中のものを含めて三つ。ポーターへの帰り道の事も考えると、あまり余裕はない。


 ブレード耐久値。五割を切っていたので、武装耐久値を回復させるメンテナンスユニットを使用する。ほぼ全快したけど、これで使い切った。ガントレットの耐久値は三割を切っていたけど、これはもう諦める。


 他に装備している武装は、初期装備の一種であるエーテルソードと実体ナイフ。どちらも取り敢えず持っているだけで、決して攻撃力は高いとは言えないけど、

〈カーカーラック〉相手なら十分だろう。


 総合的に見て、まだ戦えはするとは言え、長期戦には向かない状態だ。戦闘を避けて進みたい。


『……で、みんなどうかしら?』

「うん……。僕はあまり余裕があるとは言えないかな」

『……私も』

『…………私もです』

『なるほど……あたしも似たようなもんね……』


 メイが言った。


『極力戦闘は避けて帰りましょう。状況によっては、ダメージ覚悟で突っ切るって事で。良いかしら?』

「うん」

『……うん』

『…………分かりました』


 一名、すっごい無念そうに言う。まあ、こちらの言う事を聞いてくれる状態に戻ってくれたと喜ぼう。


『……あいつらの姿、当分見たくない……』

『ほんっとそうよねー……』


 カノンの言葉に、メイが同意を返す。


『どんなところにでもいるんだから。一匹見たら百匹はいると思え、って感じ

で……』


 メイの言葉を聞いた瞬間、脳内でパズルのピースがカチリとはまるような感覚を覚えた。


 そう。ちょっと前から感じていたモヤモヤの正体。曖昧でおぼろげだった既視感が今、僕の脳裏で明確な像を形作り、鮮やかに浮かび上がっていた。


 色が黒くて、身体が楕円形で。足が六本で、素早くて。


 台所とかでたまに見かけて、一匹見たら百匹はいるものと思うような感じで、全人類規模で嫌われていて。


 間違いない。


 例のアイツ(・・・・・)だ。アイツ(・・・)にそっくりなんだ。


 …………。


 …………うわぁ……。


 …………気付きたくなかったなぁ……。


 僕の場合、特別苦手と言う訳でもないけど、かと言って到底愉快な気分にはなれない。どよんとした、陰鬱なものが、胸の中から湧き上がって来るようだった。


『コウ、どうしたの?』

「い……いや……帰りも大変そうだなって……」

『そうね……』


 メイが言った。


『事前に噂で聞いてはいたけど、これ程面倒なミッションとはね……。ましてや、敵のモチーフがモチーフだけに……』

「…………。メイ、気付いていたの……?」


 僕が言うと、溜め息が聞こえて来た。何処か悟ったような、憂いを帯びた溜め息だった。


『……いやほら。〈カーカーラック〉って、変わった名前だなーと思って。さっきちょちょいと検索掛けて。そしたら……ね』

「……そうか……」


『……? どうしたの二人共?』

『名前……がどうかしました?』


「『いや、何でもないよ』」


 余計な情報は与えなくても良い。知らない方が、心安らかでいられる事もある。 僕とメイは、口を揃えて答えた。


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