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18 襲撃

 森の中から飛び出して来た中型ジェネレーター搭載型GE(ギアエネミー)二体が、真っ直ぐに僕らを目掛けて向かって来る。全体的に黒いカラーリングに、細身の体躯。各部の装飾と相俟って、どこか忍者を彷彿とさせる外見だった。


「敵の種類は!?」

『あれは〈サギリ〉ね! 素早いから注意して!』


『……私の〈グリムリーパー〉でも探知出来なかった』

『あいつはステルス性能が高い奴だからね。物陰に潜んで、近付いて来たプレイヤーに襲い掛かるってのがあいつらの手口よ』


 今まで襲って来なかったのは、恐らく向こうも僕らの接近に気が付かなかったからだろう。だけど、僕が地雷を起爆させたから、気付かれた。完全に僕のミスである。


「ごめんっ! 僕が余計な事した!」

『そう言うのは後! それより迎撃を!』


〈サギリ〉が右手に小刀を構える。見る限り、遠距離武器は持っていないようだ。


『あたしとコウが相手をするから! カノンは下がってガーンと撃って!』

『……うん』


『サラはバーッて撃って! 当たらなくても、邪魔出来れば良いから!』

『分かりました!』

『みんな、地雷には気を付けてね!』


 メイが各人に指示を飛ばす。相変わらず感覚的だけど、前に比べれば大分マシである。


 こうしちゃいられない。僕も吹っ飛ばされた〈叢雲〉の体勢を立て直させ、ショットガンを構える。


 まずは挨拶代わりの一発。〈サギリ〉は横ステップで射線から逃れる。川の水を蹴立て、僕へと向かって来る。


 後ろに跳んで距離を取る。視界の向こうでは、もう一機の〈サギリ〉が〈フリューゲル〉へと向かおうとするのを、〈モモちゃん〉のガトリング砲が抑えるのが見えた。


 僕は下がりながら発砲を続け、〈サギリ〉の迎撃を行う。数発はカスリ判定を取ったけど、右に左にと跳ねる敵機を上手く捉える事が出来ない。


 メイの言う通り、運動性能は高い。だけど、遠距離武器を持っていないなら、焦る必要もない。落ち着いて距離を取れば――


「……?」


〈サギリ〉が左手を腰の後ろへと回す。次に腕を伸ばした時には、小型のナイフが合計三本、指の間に挟み込むように握られていた。


「……って、もしかしてっ!?」


 僕が直感的に横っ飛びするのと同時に、〈サギリ〉は左手を振って、指に挟んだナイフを投げ付けて来た。まるで手裏剣みたいに。


 扇状に飛んで来るナイフの内の一本をガントレットで防御しつつ、回避に成功。判断が早かったおかげで上手く対処出来た。


 けど、それで攻撃は終わりではない。その間に〈叢雲〉へと接近し、小刀の間合いに捉えた〈サギリ〉が、右手を横に一閃する。のけ反るように回避させた機体の胸部を掠める。更に追撃の一閃。今度はブーストで一気に距離を取って回避。


『もうっ! すばしっこいんだからっ!』


 見れば〈フリューゲル〉も、動きの速さに手こずっている様子だ。そこそこ機動力は高い機体ではあるけれど、相手はそれを上回る。エーテルライフルによる攻撃も、上手く捉えられずにいる。


 この状況は、あまり好ましくない。数はこちらが上回っているし、負ける事はまずないだろうけど、撃破するまでに相応の弾薬類を浪費してしまう。目的地までまだ距離があるから消耗は避けたいし、長期戦になれば他の敵をおびき寄せてしまう可能性も高くなる。


 ここは、作戦を立てた方が良いだろう。


 だったら。


「みんな、僕が敵を引き付ける! 隙を突いて攻撃してくれ!」

『頼める!?』

「ああ!」


 メイと短くやりとりして、ショットガンを発砲。標的はメイを狙っていたもう一機だ。


 不意を打たれた〈サギリ〉に命中。ただ、距離は離れていたので大したダメージではない。更に撃って、気を引く。その甲斐あって、〈叢雲〉を標的と定めた〈サギリ〉がこちらを向く。もちろん、最初に僕が相手した一機からも引き続き狙われている。


 さて、ここらが入れたくもない気合いの入れどころだ。ショットガンを〈叢雲〉の左手に持ち替え、右手にブレードを握らせる。


 二機の〈サギリ〉が僕へと向かって来る。左手のショットガンを発砲して、迎撃する。ただし、今の僕の役割は囮だ。相手を引き付けるのが目的であって、狙いが多少荒くても問題ない。


 一機が〈叢雲〉へと接近して、小刀で斬り付けて来たのを、ブレードで受け流

す。その間にもう一機が投げたナイフが迫る。飛びすさって回避。最初に斬り掛かった一機が、僕を追って更なる一撃を加えようとする。ブレードで受け止める。もう一機が向かって来る。半身を返すようにして鍔迫り合いから抜け出すし、小刀の突きを何とか回避。


 二機分の鋭い斬撃を、ひたすらに耐える。数度、刃先に装甲を捉えられる事はあったが、いずれもカスリ判定に留まっている。ただただ、回避に専念する。


 気を引くためにも、隙を見てショットガンで反撃する。ようやく命中。それでも怯む様子も見せず、〈サギリ〉は〈叢雲〉へと接近――


『……行ける』


 カノン機からの狙撃が、僕に迫る〈サギリ〉を捉える。命中判定。〈グリムリーパー〉へと矛先を向ける〈サギリ〉を、今度はサラ機のガトリング砲が押し止め

る。


『良い位置ね』


 動きを止めた〈サギリ〉へと、エーテルソードを構えたメイの〈フリューゲル〉が斬り掛かる。斬撃が敵機に命中。敵APは残りわずか。


 更に一撃を加える。今度は防がれ、鍔迫り合いに。


 だけど、機体の出力はメイ機の方が上だった。その上、最初の一撃で体勢を崩されている。端から見ても、〈フリューゲル〉が押している。


 当然、その隙を見逃す訳がない。もう一機をショットガンで抑えつつ、僕はブーストダッシュで一気に距離を詰め、ブレードの切っ先を〈サギリ〉の横腹に突き入れる。


 直撃判定。〈サギリ〉の機体が力なく崩折れ、浅い川の流れに倒れ込んだ。


「一機撃破! すぐ行くから!」


 叫んで、僕とメイはもう一機の〈サギリ〉へと向かう。それぞれにショットガンとエーテルライフルの銃口を向け、発砲。カノン機とサラ機も同様に。


 いくら素早いとは言え、四機分の狙いから逃れる事は至難の業だ。数発が〈サギリ〉に命中する。


 それでもなお動き続け、こちらへ向かって来る〈サギリ〉。左手に投げナイフを握る。狙いは僕だ。


『……コウ、向かって左にあいつを追い込める?』

「……? やってみる」


 砲口を向ける。カノンからのリクエスト通り、〈サギリ〉の左側――僕から見れば右側――を狙う。


 発砲。


 サイドステップで回避される。〈サギリ〉は前進しながら左手を振りかぶり、


 ――瞬間、敵機の足元がぜた。〈サギリ〉は爆風に巻き込まれ、前のめりに吹っ飛ばされ、激しく水を跳ね上げながら転がり回る。


 そうか、地雷の位置を覚えていたのか! プレイヤーに対する罠を逆に利用したんだ!


 もがくように身を起こそうとする〈サギリ〉には、まだわずかにAPが残っている。当然の事ながら動く敵機を見逃す理由もなく、僕は容赦なく敵機にブレードを突き立てる。


 二機目撃破。






『みんな、大丈夫? 弾薬とか足りる?』


 メイが確認を取る。全機で周囲の警戒を行ってはいるが、幸いにもこれ以上の敵はいないようだった。


『……うん』

『私もです』


「僕も。……それより、みんなごめん。僕がうっかりしてた」

『そんな事気にしなーい』


 実にあっけらかんと、メイは言ってのける。


『コウにはいっつも助けられてるんだから。あれ位のミスなんて帳消しにしてお釣りが出る程に』

『……それに、コウのおかげで大した消耗もなく切り抜けられたし』

『そうです。気にしなくて良いですよ』


 三人が言った。


「ありがとうみんな。次は気を付けるよ」

『それで良し。これはゲームなんだし、クヨクヨするより楽しく行きましょうよ』


 多分、それがメイのゲーム――むしろ物事に対するスタンスなのだろう。楽しければそれで良し。失敗を責めて雰囲気を悪くする位なら、大らかに受け入れた方が得をする。ごく当然のように、そう言う思考をしている。脳天気に見えて、実のところ度量の広い人物なのかも知れない。


 とは言え、仲間達の善意に甘えてばかりもいられない。反省はしておこう。失敗を改める際に重要なのは、自分の行動に対して分析を行う事だ。


 今回のケースは、罠の仕掛けられた場所で、迂闊に仲間の通っていないルートを選んだ。結果、本来なら無視出来たはずの罠に引っ掛かった。今後は仲間の通った――つまり安全が確認されたルートを選ぶようにしよう。


 良し、反省終了。気持ちを切り替えて、攻略に集中だ。






 以降は、大した問題もなく進んだ。


 強いて特筆点を上げれば、途中で三体の〈ゴブリン〉と出会って戦闘になった位か。もしこの出来事に悲観的な目線を向けるのであれば、ごくわずかな弾薬とブレードの耐久力を消耗した点を大いに嘆き悲しむべきかも知れない。が、生憎僕はこの戦いで得た資金と素材の方が、利益として多い点を無視出来る感性を持ち合わせていなかった。


 つまり、無問題である。


 周囲を警戒し、罠に気を配りつつも、みんなでのんびりと疑似ヨーロッパ森林ツアーを楽しむ程度には、精神的にも機体コンディション的にも余裕があった。


 川に沿って南西へと進んで行く。途中、目印の橋が掛かっている辺りから、道路沿いに南へ。


 そうしてたどり着いた今回の目標ポイント。森林を開いた場所に作られた、かつての人類の軍事基地だ。長い年月を野ざらしの中で過ごした結果か、コンクリートはあちこちがひび割れ、崩れ、鉄製のシャッターはペンキが剥げ落ち、サビ付いている。建物を這い回るように伸びたツタは、たくましくも図々しく、主不在の土地を我が物顔で占拠していた。


『カノン、周囲の様子はどう?』

『……敵影なし』


 メイの言葉にカノンが答える。敷地内にはいくつかの施設があるけど、今回はそれらに用はない。目的のデータは地下空間内のどこかに存在しており、エレベーターで地下に降りて探索しなければならない。


『全く敵がいない、と言うのも不自然に感じますね』


 サラが言った。確かに、人っ子一人ならぬ機械っ子一体見当たらない。事前情報では〈カーカーラック〉と言う雑魚敵が出ると聞いていたけど、それらしき姿もない。不気味な程に静まり返っている。


「多分……地下にいるんだろうね。取り敢えず、降りる前に機体のチェックをしておこう」


 めいめいに確認を行う。僕は罠と戦闘で削られた〈叢雲〉のAPを回復させるために、リペアユニットを使用しておく。弾薬も確認。十分に余裕はあるだろう。


『よーし、準備は良いわね? じゃあ早速中に降りましょー!』


 引き続き周囲を警戒しつつ、僕らはエレベーターへと向かった。


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