17 装備を買いに行こう
『エクセラン』を後にした僕らは、続けてMRの装備を見る事にした。歩道を挟んで向かいにある店へと足を運ぶ。
店内には、愛機の強化に余念がない多数のプレイヤー達が思い思いに商品を眺
め、性能を吟味していた。
「おい、ERー30にするか?」
「マジかよ〜……。ここにもS型置いてねえし……」
「おっ、スコーピオンのA1型あるじゃん」
ショーケース内にホログラムで表示された装備品を眺め、手元のウィンドウに表示されたスペック表に目を通し、結果出て来た感想が自然と僕らの耳に入る。
当然と言うべきか何と言うべきか、MRの装備品の種類は多岐に渡る。一応の目安として、高価なものである程、高ランクのものである程、性能が高いとは言え
る。初期装備と高ランク装備を比べれば、多くの点で高ランク装備の方に軍配が上がるだろう。けど単純にランクが低い=使えない、とは言えないし、そもそも『性能の高さ』は、絶対的な基準だけで測れるものでもない。
例えば武器。威力が高い代わりに弾数の少ない武器は、長期戦には不利になる。近接武器だと、素早く振れて手数の多くなるナイフは射程が短く、長物相手には苦戦するかも知れない。性能が控えめな代わりにデータ化した際の容量が低く、メインストレージ容量を圧迫しない――乱暴に喩えれば『軽くて持ち運びやすい』武器もある。
例えば本体各部パーツ。心臓部であるジェネレーターは、高出力である程重くなり、ステルス性も下がる。MRの装甲は表面をエーテルでコーティングしていると言う設定であるため、他の部分にエーテルのリソースを割いていると、装甲が薄くなりがちになる。
その他、装備毎の細かいクセやプレイヤーの好み、受けるミッションの内容によって、良い悪いの基準は変わって来る。近接戦闘重視で射撃が苦手な僕にとって、ショットガンは凄く使い勝手の良い武器だけど、メイ曰く「何かこう、パッとしない」、カノン曰く「精密に狙えないのが嫌」、サラ曰く「射程が短いのが難です」……らしい。
僕が今見ている武器は、『雷電参型』と言うブレードだ。今使っている『FBー20』に比べて耐久性は落ちるけど、代わりに威力が高い。若干の攻撃力不足を感じ始めた今の僕にとって、魅力的な武器だ。
けど。
(高い……)
残念ながら、僕の財布の中身と釣り合わない。さっき服を買わなければ、などと言う理屈は、服装の値段は装備品に比べてかなり安く設定されている、と言う事実の前には通用しない。
「どう? 何か良いのあった?」
メイが話し掛けて来た。
「あるにはあるね。お金が足りないけど」
「まあこのゲーム、そこそこお金には苦労するしね……。あ、どうだった二人共」
僕らの元にやって来た二人に言う。
「……私は成果なし」
「私も、良い感じのものが見当たりませんでした……」
「参考までに、どんなの探してるの?」
「……私は、ステルス性能が高めのパーツ」
スナイパーであるカノンにとって、機体の隠密性は重要だ。存在に気付かれていないからこそ遠距離狙撃による奇襲が成立するし、位置を知られてしまえば、敵は対処――死角に身を隠すなり、優先的に狙うなり――がしやすくなる。
「それで、サラは?」
「私は敵機がなるべく派手に飛び散るのを……」
ビジュアル重視にも、王道と邪道があると思う。
「……え、えっと、それで、どうしよう? 別の店に行こうか?」
「そうですね」
「……お願い」
「まーのんびり買い物楽しみましょー」
そうして僕らは、数軒の店を尋ねた。
ある店に置いていないものが、別の店には置かれている事もある。今回のよう
に、捜し物のために複数の店を回る必要も出て来る。僕的には面倒臭いシステムであり、そもそも手元のオペレーターデバイスだけで買い物でも何でも全部出来るようになれば良いじゃん、と思うんだけど……。折角細部まで作り込まれたセレーネの街の中で、格納庫とセントラルタワーを往復するだけ――では、味気ないと言う人もいるのだろう。まあ、それは理解出来る。面倒だけど。
「見当たらないですね……」
何軒目かの入り口から出て、サラが言った。二軒目でお目当てのステルス装置を購入出来たカノンとは対照的な、憂鬱な表情だった。
「と言いますか、私の場合購入できる商品に制限が掛かっていまして……」
「それはランク制限ね。オペレーターレベルが一定以上でないと使用出来ない仕組みになってるの」
メイが説明する。
「そうですか……。つまり力量不足と言う訳ですね……」
「まあまあサラ。焦らずにやって行けば……」
「成長のためには、もっと敵《GE》を狩り続けなければ……。生贄を捧げる事で、力を手にする資格を得られるのですから……」
どこのダークファンタジーだ。
「ねえサラ。『設計』はやってみた?」
「いいえ。かじった程度に聞いた事はありますが」
「何だったら、そっちを試してみるのはどう? 大抵、入手時期のレベルに見合ったものが作れるから」
このゲームでMRの装備を手に入れる手段は、大きく分けて四つ。
店での購入。
GEとの戦いや、ミッション報酬での報酬。
他のプレイヤーからの売買や譲渡。
そして、設計。戦いの中で入手した素材を組み合わせて、新しい装備を作り出す事だ。
「設計でしか手に入らない装備もあるし、お金も店で買うよりは安上がりだし。どうかな?」
「そうですね……。新しい事には挑戦してみたいです」
「だったらまず、『設計図』が必要になるわ。ちょうどこのミッション報酬が設計図なんだけど……」
メイがメニュー画面のミッション説明を表示させる。
「……『設計データ回収』、ですか」
「実は、あたしもこのミッションクリアしてないのよね。ちょうど良いかと思っ
て」
「なになに。……情報見る限り、そんな大した敵も出て来ないって感じだな」
せいぜい〈カーカーラック〉なる小型GEが出て来る程度だ。見る限り、数が多いだけで危険な敵と言う風でもない。
「どうかな、みんな。次これの攻略で良い?」
「良いんじゃない?」
「……うん」
「賛成です」
「良っし、じゃあ早速行きましょうか!」
次の目的が決まった僕らは、セントラルタワーへと繋がっているポーターへと向かった。
欧州の森林地帯に存在する、かつての人類の軍事基地。当該区域へと侵入し、内部に存在するデータを回収後、帰還しろ――。これが、今回のミッションのあらましだ。
と言う事で、僕らはセレーネの転送装置から欧州の地に足を踏み入れた。ポート周辺には、MRの背丈を上回る針葉樹が鬱蒼と広がっている。
その森の中を僕らチームは南下していた。
索敵、隠密能力に優れるカノンの〈グリムリーパー〉が先行して、周囲の警戒。今回は閉所での戦闘を考慮して、射程と威力が落ちる代わりに銃身が短めで取り回しが良く、速射性能の高いスナイパーライフルを装備している。
カノン機の後をメイの〈フリューゲル〉が続く。進行速度は、チーム内で最も足の遅いサラの〈モモちゃん〉に合わせる。僕の〈叢雲〉が殿を務めつつ、背後を警戒する。
これが、僕らが移動時に取るフォーメーションである。
森林の中を突っ切って行くルートなので、当然木々が邪魔になる。MRなら武器を使うなりして無理矢理切り倒しながら進む事も出来ると言えば出来るけど、やらない。それは僕らが森林保護活動に並々ならぬ関心を持っているから……などではなく、MROでは中世ヨーロッパの森林法よろしく倒木が軽犯罪に当たるから……でもない。弾薬、武器耐久力を消耗するし、第一目立つ。『プレイヤーがここを通ってまーす』と周辺の敵機に知らせるようなものだ。地味に着実に、木々の間を縫うように進んで行く。
時折、MRの姿に驚いた鳥達が、枝々から飛び立って行く……と言う事も何度かあった。リアルに考えれば、これが原因で僕らの存在に気付かれてしまってもおかしくはないけど、そんな事はなかった。流石にそこまで突き詰めては、難易度激高の鬼畜ゲーになりかねないだろうし。
『……異常なし。真っ直ぐ進めば川に出るよ』
カノンからの通信が入る。ここまで、敵との遭遇なし。順調である。
『りょうかーい。いっそこのまま川遊びでもしちゃう?』
「残念、水着持って来てない」
もしも生身の状態でGEの攻撃を喰らえば、一撃で倒されてしまう。そしてここは、GEがどこをうろついているかも分からない敵地ド真ん中。本気で遊ぶなんて提案が出る訳ないし、単なる冗談だと分かり切っている。
「何なら服脱いでインナー姿で泳ぐ?」
だから僕も、軽い調子で冗談を続ける。
『うわー……。スケベがここにいるわー……』
『…………えっち』
『あからさま過ぎるのはちょっとどうかと思いますよ……』
「待った。今もの凄く理不尽さを感じてるんだけど」
結果、僕は三人の女子からドン引きされると言う、人生における汚辱点を残す羽目となった。
「弁明の機会を要求する。特にメイに対して」
『認めましょう。どうぞ』
「冗談に冗談を返したらまさかのマジレスとか酷くない、とは言わない。男子一人に三人分の女子の理論で責めるとかちょっとどうかと思う、とも言わない。て言うか納得してない人相手に圧力掛けて謝罪を強要して"解決"って、それもう権力主義の一種ですよね、とも言わない」
『……コウから怨念を感じる』
「気のせいだよ。……僕が言いたいのはメイ、自分でスカートめくってインナー見せるのは良くて、何で服脱いでインナー見せるのは駄目なんだよ。同じようなものじゃんか。そこ凄く納得いかない」
『との事です。メイ、返答をどうぞ』
『分かってないわねぇ……』
露骨な程のやれやれオーラを通信越しに添えながら、メイは言った。
『ような、ってだけで、状況が違うと全然意味合いが違って来るわよ。似たような言葉でも、場合によって意味が違って来るみたいに。例えばそうね……』
少し考えるように間を置き、
『コウは今、病院にいます』
「うん」
『目の前に、白衣のお医者さんが注射を片手に持っています』
「うんうん」
『時刻は昼下がり。背後には順番待ちの人達が並んでいる』
「なるほど、それで?」
『ここでお医者さんがコウの手を掴んで一言、『大丈夫、痛くないですよー』。
……どう思う?』
「どうっ、て。別に何とも……」
『じゃあ次』
メイが言った。
『コウは今、墓場にいます』
「……うん?」
『目の前に、青白い顔の落ち武者が刀を片手に持っています』
「…………」
『時刻は丑三つ時。背後には、首のない人達が並んでいる』
「………………」
『ここで落ち武者がコウの手を掴んで一言、『大丈夫、痛くないですよー』。
……どう思う?』
「全力で抵抗して逃げだすわぁっ!!」
『でしょ!? つまり、それと同じようなもんよ!』
「そしてサッパリ分からんわぁっ!!」
そんなんで納得出来るかっ!
『えー? じゃあもう何て言えば良いか分かんないわよ』
「手詰まりになるの早過ぎだろ!? もうちょっと頑張ってくれ! 僕の理解と名誉のため!」
『まあまあ、落ち着いてコウ』
見かねたらしく、サラが口を挟む。
『例えば、自宅の脱衣所で着替える姿を他人に見られるのと、公衆浴場の脱衣所で着替える姿を他人に見られるのとは、ちょっと違うでしょう?』
「う〜ん……まあ、それなら……」
要するに、同じようなものでも状況が違えば感じ方も違う、と言いたい訳か。
今回の場合で言うと、メイにとってインナーはちょっと位なら見られて困るものではないけど、おおっぴらに全部を、ましてや屋外で見せるのは憚られる。自分で見せる分には、『ここまでなら大丈夫』と言うボーダーラインが理解出来ているから問題にはならないけど、僕にはそのラインが分からずに踏み越え、問題を感じ
た。多分、そう言う事だろう。
「分かった、悪かったよ」
『こちらもフェアじゃなかったです。ごめんなさい』
『……ごめん』
僕の謝罪に、サラとカノンの謝罪が返って来る。
『う〜……。ごめんなさい……』
最後にメイの謝罪が返って来た。
話が落着したところで、川が見えて来た。
『地図によると、ここを降りて川沿いに下流へと向かうみたいね』
「カノン、周囲に敵は?」
『……レーダーには何も』
『りょうかーい』
僕らは流れに沿って川岸を進んで行く。
『この調子なら、敵に出会わずに済みそうね』
何しろここは、視界が悪い。潜んでいる敵をレーダーで探知出来ずにいる可能性もある。少数だと思って仕掛けた結果、予想外の増援が現れてピンチに……と言う事態を避けるべく、極力敵とは出会いたくない。
『……油断は禁物』
カノンからの通信。
『……罠が仕掛けられている』
「罠だって?」
『……これ見て』
〈グリムリーパー〉が指さすところを注視する。河原の草の間に隠れるように、円盤状の物体が設置されていた。
『……地雷だよ。この上を通ったら、センサーが反応して爆発する』
『気付かなかったわ……。流石ね』
『……役割だから。それより、みんなも気を付けてね』
『分かりました』
確かに、カノン一人では見落としもあるだろう。それぞれに足元へ注意を払いながら、引き続き進んで行く。
『コウ、そこに地雷があります。気を付けて』
『分かったよ』
サラの指摘した位置に、地雷を確認。避けて通るため、川に入る。
まあ、カノンは注意深いし、他の二人が確認した後なら、そう神経質になる必要も――
そう考えるのと、日光に輝く水流の下に、地雷を発見したのは同時だった。
「危なっ!?」
うっかり真上を通ってしまう寸前、反射的に〈叢雲〉を横っ飛びさせる。か、完全に油断してた……。大して考えもせず、三人が通っていない川へと足を踏み入れたのが失敗だった――
「……あ」
飛んだ先の足元に、別の地雷が顔を覗かせているのが見えた。
起爆。
回避する間もなく、爆発に巻き込まれる。機体が大きく吹っ飛ばされ、A Pゲージが二割程減らされる。
『コウ、大丈夫!?』
「ごめん、ヘマした!」
『……レーダーに反応。八時方向』
カノンが言った方角――僕から見て南南東の森の中からから、二機の人型GEが飛び出して来た。




