13 またまた新メンバー追加
サラさんの〈モモちゃん〉を仕上げた僕らは、早速ミッションに出る事にした。今回は練習の意味合いも兼ねて、数体の雑魚GEを倒すだけの簡単なお仕事を選
び、再び地球へと降り立つ。
『うう、ドキドキして来ました』
『だいじょーぶ、だいじょーぶ! 一人でも余裕なミッションを、一チームの最大人数の四人で挑むんですから、失敗はまずあり得ませんよ。気楽に行きましょ
う!』
『はいっ!』
〈叢雲〉コクピット内に通信越しのサラさんとメイの会話が飛び込んで来る。現在は、目標地点までの道中。それぞれのMRに乗り込み、僕らは進む。ブーストゲージに余裕がある時は適度にダッシュを使用、減って来たらダッシュを止めて歩き
……と言った調子の移動である。
『……ところでですね。私の〈モモちゃん〉って、前とは歩き方が違うんですけれど、どうしてでしょう?』
「ああ、それが"ホバー脚"の特徴ですよ」
僕の〈叢雲〉を始め、一般的なMRの通常の移動は、人間と同じく二本の足を使った歩行であるのに対し、新生〈モモちゃん〉は脚部を地面からわずかに浮かせ、滑るように進むホバー移動である。
ホバーは通常の機体と比べてブースト時の最大速度は劣るけれど、ゲージ消費量が低くて長い時間ダッシュを続ける事が出来る。更に通常の機体は、前方向に比べて横や後ろへのダッシュ速度が落ちるのに対し、ホバーは前後左右の全方向へほぼ同じ速度で移動出来る。移動時の照準の安定性も高く、『動きながら撃つ』のも得意だ。
「装備しているパーツによって、機体特性が違って来ますから、しっかりと特徴を把握しておく事が大事になります」
「なるほど〜、勉強になりました」
『いや〜、覚えるべき事はまだまだ沢山ですよ。一人だと大変ですけど、頼りになる仲間達と一緒のクランに入って学ぶと、とても効率良く覚えられるってNASAも言ってました』
「メイ、君勧誘下手だろ」
とまあ、僕らがのんびり話をしているところに、カノンからの報告が入る。
『……みんな、十一時方向に敵が一機』
「種類は?」
『……待って。……これは〈ゴブリン〉だね』
「雑魚がたった一機か。練習にはちょうど良いんじゃない?」
『そうね。サラさん、あの敵を倒して下さい。チュートリアルと要領は同じです。照準を敵に合わせて撃つんです』
『が、頑張ってみますっ』
気合十分にサラさんは言った。
『……じゃあ、行きますよ』
カノンが発砲。わざと外して、敵の足元へと着弾。こちらに気付いた〈ゴブリ
ン〉が向かって来る。
「さあ、サラさん。落ち着いて狙って、それから撃つんです」
『は、はいっ』
そう言ってサラさんは〈モモちゃん〉右腕のガトリング砲を敵へと向ける。〈ゴブリン〉の動きは鈍く、単調だ。銃口を向けられても回避らしき動きを見せず、ただ真っ直ぐに向かって来る。
ガトリング砲は、束ねた銃身を回転させ、次々と弾丸を撃ち出す火器だ。極めて高い連射力を誇り、高い攻撃力を持った武器ではあるが、大きくて重いため、取り回しに難がある。照準の動きが遅く、標的を素早く狙う事は難しい。とは言え、
〈ゴブリン〉一体が相手ならまるで問題にならない。ちょっと撃てば、簡単に倒せるだろう。まずは実戦で敵を倒せた、と言う自信を持たせて、
『え、えいーっ!』
回転する砲身が、火を噴いた。砲口から、秒間ウン十発の勢いで銃弾が吐き出され、敵機へと殺到する。
命中。〈ゴブリン〉のAPゲージが、あっと言う間に空になる。
それでも轟音は止まない。敵機の全身に無数の風穴を開れ、ずたずたに引き裂
き、砕けた装甲片を地面にまき散らしてもなお、荒れ狂うガトリングの砲口が静まる事はなかった。
「あの……ちょっ……」
〈モモちゃん〉の両肩に装備されたロケットランチャーが発射される。円筒形の砲身から白煙を曳き、飛び出した弾頭が地に沈んだ〈ゴブリン〉へと突き進む。着
弾。機体の全高を上回る爆炎が盛大に上がり、爆風が敵機の残骸を吹き飛ばした。
「サラさん!? もう敵倒してますんで! その辺で!」
最後は僕の<叢雲>で肩を引いて、ようやく〈モモちゃん〉は発砲を止めた。
『あ……倒したんですね。どうでしたか?』
どうかと問われ、スクリーンの向こうのかつて〈ゴブリン〉だったモノを見る。どれが本体で、どれが破片かさえ分からない程バラバラとなった残骸からは、ぶすぶすと黒煙が上がっている。砲弾が暴れ回った地面には弾痕が穿たれ、炎に舐め取られた草は黒々とした灰となり、風に攫われ散って行った。
「……えーっと。……まあ、大体そんな感じです」
我ながら、どんな感じかさっぱり分からない。
「ただまあ……弾薬の使い過ぎには気を付けて下さい。無限にある訳ではないですし、肝心な時に弾切れの恐れがありますので……」
『はい、分かりました。……でも……』
ふっ、とサラさんの声の調子が変わる。
「どうしました?」
『……いえ、何て言いますか……。私が撃って敵さんをやっつけたんですよね』
「まあ、それが目的ですから」
『ゲームの中とは言え、私が鉄砲を撃って、それでばらばらになって倒れて……。それって見ていて、何だか――』
ああそうか。サラさんは、敵を倒した事を気に掛けているのか。たとえゲームの中とは言え、たとえ相手が人類の敵とは言え、傷付き倒れる姿に心を痛めている。彼女はきっと、優しい人――
『――愉しいわね』
暗闇の奥底から這い出て来たような声に、周囲の空気が瞬間的に凍り付く。ぞっとする程の寒気が僕の耳から入り込み、神経の末端まで駆け巡って行くような心地だった。
「『『…………あの、サラさん』』」
『はい? どうしました?』
「『『…………いえ、何でもないです』』」
ごく穏やかな、サラさんの声色。数瞬前までと何ら変わらないはずの声に、僕らは込み上げる悪寒をこらえ、そう返した。
「着きましたよ。あれが今回の標的です」
平原をうろつく、四足歩行の機械兵器。小型ジェネレーター搭載型の敵GEである〈ウルフ〉が三体。名前で連想するであろうイメージから一ヨクトメートルたりとも離れない、オオカミのような敵である。
『あいつは、遠距離攻撃の手段を持たない代わりに、動きが素早いのが特徴です。まーそうは言っても、雑魚には違いないですから普通にやれば大丈夫です』
『き、緊張して来ました……』
『だいじょぶですって。それにクランに入れば、緊張を分かち合える頼もしい仲間も出来ますし、背も伸びますし、血糖値も下がります』
「メイ、君心底勧誘が下手だろ」
さりげないのか露骨なのか、はっきりして欲しい。
「ともかく。今回はサラさん一人で戦って下さい。まあ援護はしますし、本当に危なくなったら助けに入りますので、気張らずにどうぞ」
『分かりました』
サラさんが答え、〈モモちゃん〉を前に出す。同時に、僕らの機体を散開させ、いつでも援護に出られるように備える。
「では、どうぞ」
『い、行きまーす!』
サラさんの叫びと共に、〈モモちゃん〉は〈ウルフ〉達へと向かって勢い良く突進。MRの存在に気付いた〈ウルフ〉達が、一斉に首を向ける。
サラさんはガトリングの砲口を向けて、発砲。が、その前に〈ウルフ〉は大地を蹴って駆け出し、射線から逃れていた。
『あ、あれっ、当たりませんよっ?』
「実戦ではそう言うものです。ちゃんと動きを見て、狙いやすい時を待つんです」
そう言っている間にも、敵機はサラさん機を取り囲み、周囲をぐるぐると回る。獲物を見定めるように。〈ウルフ〉の特徴的な行動で、〈ゴブリン〉の単調な行動に慣れたプレイヤーにとって、まして初心者のサラさんにとって、戸惑う動きだろう。
『な、何だか私の周りを回ってるみたいですけど! どうすれば良いんでしょ
う!?』
『落ち着いてー。良ーく見れば、そんな怖い動きじゃないですからー』
緊張をほぐすように、メイはのんびりと言う。彼女の言う通り、慣れてしまえば〈ウルフ〉は決して怖がるような相手じゃない。〈ウルフ〉三体程度なら、すぐにやられる事もないだろうし、それより早い内に引き合わせて対処を教えておこう。それが、僕らの判断だった。
『良く見る……良く見る……』
念じるように呟くサラさん。だけど代わりに、動きが疎かになっている。その隙を突くように、一体の〈ウルフ〉が動いた。〈モモちゃん〉に狙いを定めて、飛び掛かる。
『ひゃんっ!?』
〈モモちゃん〉に回避行動を取らせる事も出来ず、まともに攻撃を喰らってしま
う。振動に驚いたのか、サラさんの可愛らしい悲鳴が上がる。
更に一体が襲い掛かろうと動くが、
『……させない』
カノン機からの狙撃が、〈ウルフ〉の眼前に着弾。跳ね上がった土に阻まれるように、敵は進路を変える。
「サラさん、大丈夫です。APはまだまだ余裕ありますから」
『は、はい』
サラさんは言った。
『それよりも、敵さんを良く見たお陰で、私分かりました』
「気付きましたか」
そう。どんな敵にも、その動きには特徴がある。それを見極め、適切な対応を取る事が、MRO攻略の基本である。
この〈ウルフ〉の場合、
『はい、肉球は付いてませんでした!』
「そっち!?」
僕も今始めて知ったよそんな事!
「そ、そうじゃなくってですね。ほら、動き方のクセとか……」
『……そう言えば、時々立ち止まる事がありますね……』
よ、良かった、本筋に戻れた。この〈ウルフ〉の場合、動きそのものはすばしっこいけど、威嚇動作のために、時々動きを止める事がある。電子的な唸り声を上
げ、身体をゆっくり沈めるその動作は、初めて見る人にとっては危険な攻撃か、と思わず身構えてしまいがちなものだけど、実際には攻撃のチャンスである。
「そうですそうです。そこを狙うのが、〈ウルフ〉と戦う上でのコツなんです」
『なるほど、分かりました!』
力強い返事を返して、サラさんは〈モモちゃん〉にブーストダッシュを掛けさせる。一箇所に留まらず、動き続けるのも基本の一つだ。一体の〈ウルフ〉が飛び掛かるも、動いていたお陰で今度は上手く回避出来ていた。
一体の〈ウルフ〉が威嚇のために動きを止める。獣の行動を真似たかのように。
『今ですねっ!』
しかし、知識を得た今のサラさんにとって、それは付け入るべき隙だった。迷いなく向けられた砲身が鋭く回転を始め、銃火が唸りを上げる。大気に爆ぜる轟音と共に放たれた弾丸が〈ウルフ〉の薄い装甲防御を貫き、鉄の獣を蜂の巣にする。
APがゼロになる。敵、一機撃破。
……が、それで止まる〈モモちゃん〉などではなかった。鼻先から尻尾、全身くまなく丁寧にガトリングの弾丸を送り付け、〈ウルフ〉の残骸をばらばらに分解してしまった。
『次っ!』
サラさんが叫ぶ。〈モモちゃん〉に発砲を止めさせず、そのまま別の〈ウルフ〉に狙いを定める。鳴り響く砲声が、嵐のように平原を駆ける。逃げる獲物に食らい付くように、後を土柱が追う。
「わあっ!?」
〈モモちゃん〉からの流れ弾が、僕の〈叢雲〉に被弾。ダメージこそないけど、衝撃が僕を揺さぶる。全く構わず、サラさんは攻撃続行。
追いすがる弾丸が、遂に〈ウルフ〉の後ろ足を捉える。敵機は体勢を崩し転倒。間を置かず、〈モモちゃん〉の両肩、二門のロケットランチャーが火を噴く。
直撃。爆発。二機目撃破。
『脆いわねっ!』
……なんか、サラさんの闘争心に火が着いてるっぽい。実に嬉々と、生き生きと叫び声を上げ、最後の〈ウルフ〉へとガトリングの矛先を向ける。
しかし、
『え……弾切れっ!?』
そりゃさっきから、休みなくずーっと撃ちっぱなしだったから、必然だ。両肩のロケットランチャーは単発式で、自動リロードにも時間が掛かる。
『助太刀した方が良いわね。二人共、行くわよ』
「分かった」
『……うん』
サラさんの再装填の時間を稼ぐため、僕らが援護に出ようとするけれど、
「……って、ええっ!?」
それより早く、サラさんは動いていた。〈モモちゃん〉はガトリング砲を振り上げ、〈ウルフ〉へと突進する。
『ええいっ!』
勢い良く振り下ろされたガトリングの銃身が、〈ウルフ〉の頭部を打ち据える。命中判定。胴体へ更に一撃。装甲の破砕音。へしゃげる砲身。地に跳ね、転がる敵機。
…………。
…………いや、確かにやろうと思えば出来るけど。銃火器を、鈍器よろしく扱う事も出来るけど。
だけどサラさん。あなた、今日ゲーム始めたばかりですよね。さっきまで、基本の"き"も知らなかった初心者ですよね。一体何なんですか、その攻撃方面に対する飲み込みの早さは。
サラさんは火器を捨て去る。一歩踏み出し、〈モモちゃん〉の右手に握り拳を作らせる。大きく引き、倒れた敵機へと一気に振り下ろす。腕部耐久力と引き替えに〈ウルフ〉のAPを削る。ひしゃげる装甲。飛び散る破片と、打撃音。
右手を引いて、次は左手を振り下ろす。再び右。左。右。左。
繰り返す。繰り返す。〈ウルフ〉に覆い被さるような前傾姿勢で、ただただ繰り返す。
最後の右が振り下ろされる。APゲージ、ゼロ。力なくうめいていた〈ウルフ〉が遂には沈黙し、物言わぬスクラップとなって僕らの前に横たわった。
〈モモちゃん〉がゆっくりと身を起こす。無理な殴打を繰り返し、砕けた両腕をぶら下げて。
「『『…………』』」
『……これが、これがゲーム……』
呆然と立ち尽くし、戦慄に打ち震えていた僕らの耳に、サラさんの呟きが届く。
『……最高だわ』
……僕達は、目覚めさせてはいけない何かを、目覚めさせてしまったのかも知れない……。
「ありがとうございます、皆さん。勉強になりました」
セレーネへと帰還して開口一番、深々としたお辞儀でお礼を述べるサラさん。
「いやー、こちらこそ楽しかったですよ。また一緒に遊びましょうよ」
「また会えるんですか?」
「フレンド登録をすれば、ゲーム内で簡単に連絡を取り合う事が出来ますので、よろしければ」
「あら、それは便利ですね」
「ちなみに、クランって言うものに入ると専用のチャットを使えたり、共有のアイテムストレージが利用出来たり、色々とお得ですよ。風の噂によると『超最強無敵団』って言うクランがメンバーを絶賛募集中って話で」
「メイ。良いからもう普通に誘えよ」
と言うか、何故小細工にこだわるのか。
「では、私を『超最強無敵団』に入れて頂けますか?」
「えっ!? マジですか!? 本当に!?」
「はい。マジですし、本当にです」
ほんわか笑顔で、サラさんは答えた。
「皆さんとでしたら、私も楽しくゲームを続けられそうですし。学校が近いのも何かの縁と言いますか。お二人共、よろしいですか?」
「コウ、カノン! 良いよね!? 良いよね!?」
興奮を隠そうともせず、メイがグイグイ尋ねて来る。両の拳を突き上げる準備に早速取り掛かっている辺り、答えは分かり切っているのだろう。
「もちろんですよ。歓迎します」
「……これからよろしくお願いします」
芸術的と言える程のガッツポーズと共に、メイの歓喜の声がロビーに弾けた。




