12 新人お姉さん
※※※ お詫び ※※※
サブタイトルを間違えて付けてしまいました。
以下の通りに修正させて頂きます。
11 新人お姉さん → 11 帰り道
12話目のサブタイトルが「新人お姉さん」です。
申し訳ありませんでした。
「どうも始めまして。あたしはメイです」
MRコクピットから降り、直接対面した僕らは、改めて自己紹介を行う。
「始めまして皆さん、先程はどうもありがとうございます。私、吉見咲良と申します。皆川女学院二年――」
「ストップ!? サラさんストップ!?」
丁寧なお辞儀と共に、ごく自然にリアルの情報を垂れ流し始めるサラさんを、僕は慌てて止める。
「……? どうかなさいましたか?」
「いやいやいや! リアルの個人情報をゲームで話したら駄目ですよ!」
「あら、そうでしたね、うっかりしてました。私あまりこう言うのには慣れていませんので……」
「ホントに気を付けて下さいよ……」
まあ、気持ちは分からなくもない。インターネットの存在が当然の前提である現代社会、個人のプライバシー管理の重要性は改めて言う必要はないだろう。これが画面越しのチャットであれば、こんなミスはしなかったんじゃないかと思う。
けど、『リアルに再現された仮想空間内で』『アバターを自分の身体のように動かす』VRゲームであれば、こんな"うっかり"が出て来る。いくら『これはゲー
ム』と認識していても、ふと気が緩んだ瞬間、現実と同じ立ち振舞いが顔を覗かせる。メイ曰く『慣れれば大丈夫』なんだそうだけど、僕も『コウ』である事を意識しておかないと、うっかり『昂介』が出てしまいそうになる。
「……って、皆川女学院? あの、この際ですので失礼を承知でお尋ねしますけ
ど、もしかして○×県立皆川女学院の事ですか?」
「はい」
「あたし達の高校と近いじゃないの……」
メイが隣で呟く。
「あら。そうなのですか?」
「ええ。もう言っちゃいますけど、僕らは全員、大鶴高校の一年生です」
皆川女学院は、僕らの通う大鶴高校とは隣町同士である。確かサラさんは『二
年』と言っていたから、僕らより一つ先輩と言う事になる。
「大鶴高校……確かに近いですね」
「偶然ってあるものなんですね……」
しみじみと言う。確かに理屈の上では、あり得ない事もない話ではあるけれど。偶然の女神の、粋なはからいと受け取っておこう。
「それよりも……サラさん、どうしてこの辺りに来たんですか?」
「あら。ここは来ちゃ行けない場所だったのですか?」
「そうではなくてですね。あなたはまだレベル1ですよね? 普通は初心者向けミッションをこなしてゲームのコツを掴むものなんですが、この辺りは初心者向けのミッションがありませんので、気になって……」
「そう言うものなのですか」
「そう言うもの、って……」
サラさんからの、実にのほほんとした回答。イマイチ会話が噛み合っていない気がする。
「あの。さっき『慣れてない』と言ってましたけど、もしかしてゲーム自体が初めてなんですか……?」
「ええ、そうですよ」
ああ、なるほど。合点が行った。
「何でも、VRゲーム機が注目を集めているそうでして。興味を覚えて、今日学校から帰った後に、Cosmosを購入してみたのです」
「MROを選んだのは?」
「お店のランキングによると、一番売れているそうでしたから」
おかしな話ではないように思えるけど、ちょっと信じられない。何しろCosmosは、結構値段が張る。確かに注目を集めているとは言え、ゲーム初心者が興味だけで気軽に手を出すにはまだちょっと敷居が高い。それなりにゲーム好きな僕ですら、誘われた当初に即断しなかった理由の一つとなる位だ。
とは言えサラさんの様子を見るに、到底嘘を吐いているようにも見えない。彼女の挙動のそこかしこに、『慣れていない感』が見て取れる。到底演技しているようには思えないし、第一たまたま出会った僕らを相手に演技しなければならない事情なんてのも、考えられない。と言うか、それら可能性が億に一つあったとしても、それ以上考えたくない。見抜いた結果、よんどころない事情に巻き込まれでもしたら大変面倒だから。
まあ皆川女学院と言えば、結構なお嬢様校だ。きっと、サラさんの家庭は裕福なのだろう。貯めていた貯金を思い切って下ろして、足りない分をご両親に一世一代のお願いをして――こんなところか。他人の事情を変に詮索するのも悪いし、これで納得しておこう。
「そうだったんですか。……ああ、そう言えばまだ名前言ってませんでしたね。ぼくはコウで、こっちの娘はカノンです」
僕とメイの後ろにいたカノンを紹介する。そう言えば彼女、さっきからずっと喋っていない。何やら一人でぶつぶつと呟いている。
そんなカノンを不審に思うよう素振りも見せず、サラさんは丁寧に挨拶を返す。
「始めまして、コウさん。それに、カノンさん」
「始めましてこんばんはサラさんカノンですこっちにいるのがメイでこっちはコウですどうぞよろしくお願いします」
「気遣いはありがたいけど、僕らもう名乗ってるからね?」
この娘は予め文章を用意してないとスムーズな会話が出来ないのか。この人見知りの激しい同級生が、わざわざ僕らの紹介にまで気を配った事に、目頭が熱くなる思いだ。色んな意味で空振りしてる点が何よりも。
「話を戻しますと……いざ初めてみたは良いですけど、何をどうすれば良いのか分からなくて……。一応、チュートリアルと言うものはやってみたんですけど……」
まあ、そうかも知れない。ゲーム内でも色々と教えてくれはするけど、初心者が一度聞いただけですぐ理解出来る訳もない。ましてやゲーム自体が初めてなら、なおさらだ。MRに乗って動かせるだけ、マシな方だとさえ言える。
「それで、取り敢えずポーターを使って、こちらへとやって来たんです。……ですけど具体的な目的も分からず、足の向くまま移動してみたり、試しに鉄砲を撃ってみたり……。そうこうしている内に、うっかり敵さんと出会いまして……」
「もしかして、弾は試し撃ちで撃ち尽くしたから、敵と戦う事が出来なくなったとかですか?」
「おっしゃる通りです……。皆さんに助けて頂けなければ、やられていたところでした」
撃破された時の機体の修理費は、本体を組み上げる際に使用したパーツによって異なる。初期装備の機体であれば比較的安く済むとは言え、資金が潤沢とは到底言えない最初の頃では、痛い出費である。
余談ながら、このゲームには借金は存在しない(あくまで、ゲームのシステム的な意味合いで)。撃破された時、仮に修理費が足りない場合でも一応動かせる程度には修理されるので、最悪でも出撃不可能とはならない。けどその場合、到底万全とは言えない状態――具体的にはAPや各装備の耐久力が減った状態で出撃しなければいけない。初期に用意された装備に限って言えば、そう言ったペナルティはないけれど。
「そーだったんですねー。……サラさん、これからどうするんですか?」
メイが尋ねる。
「取り敢えず、一旦街の方へと戻ろうかと……」
「じゃあ、あたし達と一緒に行きませんか? こっちもちょうど戻るところです
し」
「よろしいんですか?」
「もちろんです。二人共、良いよね」
「ええ」
「……はい」
僕とカノンは同時に頷いた。
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせて頂きます」
惚れ惚れする程に丁寧なお辞儀で、僕らの好意を受け入れるサラさんだった。
そんなこんなで、僕らはセレーネへと戻って来た。転送用とは反対側にある、帰還用ポーター室を後にし、ロビーへと向かう。
当初の予定であれば、サラさんとはここで「じゃあ僕らはこれで」「ありがとうございます。助かりました」と言った内容の会話を行うところだったんだろう。
けど、実際には帰る途中に、
(サラさん、他に分からない事とかあります? せっかくですから、色々教えますよ?)
……とメイが申し出て、
(よろしいのですか? ですが皆さんにも今後の予定があるのでは……)
(へーきへーき、気にしないで下さいよ! 二人共、良いよね?)
(良いですよ)
(……うん)
……と言った風な会話を交わした末、
「……じゃあ、まずは"格納庫"へ行きましょうか」
メイの口からそのような発言が出る事と相成った。
(そしてあわよくば、我が『超最強絶対無敵団』への勧誘へと繋げて行って……)(……無理に勧めるのは止めときなよ?)
僕とカノンにこっそり語ったメイの上記会話も、追記しておく。
「格納庫ですね。では早速……」
「あー、サラさん待った待った。そうじゃなくってですね……」
ロビー玄関へと向かおうとするサラさんを声で引き留める。まあ『行く』と言うから、てっきり徒歩なり乗り物なりで移動して――と思うのも無理はないけど。
「格納庫へはメニュー画面から移動するんです。ほら、この項目……」
そう言って僕は、サラさんの隣で自分のメニュー画面を見せる。ホログラムで空中に投影される画面は、プライバシー保護のために現実のそれと同じく背面からは見えない仕組みとなっている。VRの場合、保護レベルを上げれば自分以外には全く見えなくする事も出来るけど、面倒なので僕は初期のまま調整していない。
「ここに、"格納庫"って項目があるでしょう? ここから"移動"を選択すれば、専用の空間へと転送されるって寸法です」
「なるほど〜」
「プレイヤーそれぞれに格納庫は用意されてるんですけど、今回はあたし達と一緒の格納庫に来てもらいますので、少し手順が違いますけどね。追々説明します」
サラさんとは反対側、僕の肩口からひょこっと顔を覗かせ、メイが補足。だから顔! 顔近いって!?
「じ、じゃあ先に行ってますから! メイ、後よろしく!」
逃れるように二人から離れ、"移動"を選択。僕の身体が、毎度お馴染みの転送エフェクトに包まれる。
次に視界が戻った時、そこはMR格納庫だった。
十メートル以上はありそうな高い天井と、周囲を鈍い銀色の壁に囲まれた空間。緑色の、ざらざらした感触の滑り止め加工が施された床は、白線で区切られたMR駐機スペースが、三つ分横に並んでいる。
ここは僕達『超最強絶対無敵団』専用の格納庫だ。格納庫は、ゲーム中の設定で月の地下空間に存在する、と言う事になっており、一人のプレイヤーに一つの格納庫が与えられる。与えられた格納庫は、この通りクランメンバー同士で統合する事が出来る。
僕の近くの床が、三カ所並んで青白く光り始めた。ここに転送者が出ると言う合図だ。転送エフェクトの中から、メイとカノン、それにサラさんが現れる。同時
に、駐機スペース横の壁が光エフェクトと共に消え去り、格納庫が横に一つ分広がった。サラさんの格納庫と、一時的に統合したのだろう。
「わあ、凄いです。こんな簡単に移動出来るんですね〜」
「そうですね。クランメンバー同士であれば、集合場所としても使えますし」
本日の集合場所をロビーに指定した理由は、カノンがまだ正式メンバーではなかったからだ。
「……こんなに広い格納庫初めて見た……」
「分かる分かる。感動モノよねぇ……」
当のカノンは、統合された格納庫の様子に目を輝かせていた。すぐ隣でメイがしみじみとしているけど、そんなものだろうか。まあ、始めてすぐにクランへ加入した僕と、これまで一人でやっていた彼女らでは感じ方が違うのも当然か。
「ここでは、機体のカスタマイズや、弾薬、エーテルの補給、機体の修復を行ったりする事が出来ます」
「それは、どうすれば良いんですか?」
「じゃあ、実際やって見せます」
そう言って僕はメニュー画面を操作し、駐機スペースに〈叢雲〉を出す。それから具体的な説明を兼ねつつ、〈叢雲〉の補給と修理を行った。
弾薬の補給や機体の修復を行うには資金が必要となる。資金はミッションのクリア報酬や敵の落とした素材の売却で得られるから、余程の事がない限り赤字にはならない。とは言え、決して無視出来ない出費ではあるし、無駄遣いは控えるに越した事はない。訓練や対人戦なんかではタダだけど。
「取り敢えず、サラさんの機体を出して見て下さい」
「はい……ええっと、こうしてこう……」
メイに言われた通り、サラさんはメニュー操作して、開いていた駐機スペースに桃色の愛機を出現させる。
「サラさん。この機体の名前は?」
「はい。〈モモちゃん〉です」
「……え?」
「〈モモちゃん〉です」
聞き返す僕に、一片の曇りもないまばゆい笑顔が返って来た。
……うん。確かに桃色ですしね。うん。
「それで……さっき説明した通り、このゲームでは武装や本体パーツを組み合わせて、自分だけの機体を作り上げる事が出来ます。それによって機体特性が変化し、自ずと戦い方も変わります。サラさんは、〈モモ〉をどんな機体に仕上げたいんですか?」
「〈モモちゃん〉です」
「……え?」
「〈モモちゃん〉です」
「…………それで、サラさんは〈モモちゃん〉をどんな機体にしたいんですか?」
ほんわか笑顔ながら、一切譲る気配を見せないサラさんに、改めて尋ね直す。
「可愛い機体が良いです」
「……性能的な意味合いで、どんな機体にしたいですか?」
いやまあ、性能に全く関係ない、外見を変えるためだけの装備も豊富に用意されているんだけどさ。メイの〈フリューゲル〉の角とか。
「……と言われましても。どんな風にすれば良いんでしょう?」
「だったら、取り敢えず予め用意されている装備を見て行きましょうよ。あたし達が色々と教えますんで」
「そうですね。お願いします」
サラさんは言った。
それから、少し時間が経った。
サラさんは、僕らのアドバイスに耳を傾けつつも、自分の意見を積極的に反映させた上で、初期に用意された装備を組み合わせていった。
そして。
「出来ましたよ、皆さん!」
新生〈モモちゃん〉。その機体特性は、一言でまとめると『火力、防御重視』である。
胴体パーツは、重量がある代わりに防御力が高いものを選んだ。脚部も、俊敏に動けない代わりに積載量が多いものを装備。エンジンも高出力で、パワーがあってメインストレージも多く取れるようになった。主な武器は、右手に持ったガトリング砲と、両肩に一つずつのロケットランチャー。
結果、重量系の機体に仕上がった。回避が苦手な代わりに、高い防御力とAPで攻撃に耐え、火力で敵機を圧倒する機体だ。ボリュームのある、どっしりとした体躯。もちろん、装甲は桃色に。
全体的に重々しく、物々しいシルエット。一つ目式の頭部と相俟って、サイクロプスのような威圧感を持つ機体を見上げながら、サラさんは、
「わあ、とっても可愛いです♪」
ご満悦な笑顔を浮かべていた。
……うん。
……可愛いんだったら良いよね。可愛いんだったら。




