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11 帰り道

6/20日追記

※※※ お詫び ※※※


サブタイトルを間違えて付けてしまいました。

以下の通りに修正させて頂きます。


11 新人お姉さん → 11 帰り道


12話目のサブタイトルが「新人お姉さん」です。

内容に変更はありません。


申し訳ありませんでした。

 すぐにカノンの救援に向かいたいところだけど、焦ってはいけない。まずは自機の補給から。そう判断した僕は、敵がいないか周囲を見渡し、安全を確認してからコクピットのコンソールを操作した。


 "メインストレージ”を選択。これは、MRの機能の一つで、弾薬や武装をデータ化して格納しておく事が出来る、いわば見えないかばんのようなものだ。もっとも容量には――機体性能によって差はあるけど――限界があるため、あれもこれもと無制限に持ち歩ける訳ではない。更に取り出しには多少の時間が掛かり、その間動く事が出来ないため、迂闊に実行すると多大な隙を晒す事になる。


 メイン、と言う事は当然"サブストレージ"も存在し、こちらは主にミッション中に得た素材等を格納するのに使用する。容量は無制限だけど、データ保護が不完全なため、機体の破壊時に失われてしまう可能性が存在する。


 弾倉を選択。

 空間に現れた淡いエフェクト光が、徐々に四角形に形成され、やがてショットガン用のボックス型弾倉となる。手早く〈叢雲〉のショットガンの弾倉を引き抜き、新しい弾倉と交換し、再装填リロード完了。時間経過でも自動でリロードは行われるが、そちらは完了までに時間が掛かる。周囲が安全であるなら、手動リロードを行った方が早く済む。


 ついでに、削られた自機のAPも回復しておく事にする。ストレージから"リペアユニットS"を選択。格納したものはまとめて出せないため、別個に取り出す必要がある。取り出すまでの実時間はほんの数秒程度ではあるが、一刻を争うこの状況では嫌に長く感じてしまう。早く救援に向かわなきゃ、と焦る気持ちを抑えつつ待った末に現れたのは、MRの片手に収まるサイズの、緑色の正六面体の物質――MRの損傷を修復するための、リペアユニットだった。


 早速、使用する。展開したリペアユニット内部から、修復用ナノマシンが機体へと散布され、〈叢雲〉を回復エフェクトが包み込む。


 減らされたAPゲージがSEと共に三割回復する。全快とまでは行かなくても、これで十分だ。


 スクリーンを確認。敵からの集中砲火が周囲を跳ね回り、土の柱が立ち上る中

で、必死になって回避運動を続ける〈グリムリーパー〉の姿が映し出されていた。


『……あ、あっち行って……っ!』


 スナイパーライフルでの反撃を行ってはいるものの、その狙いは精彩を欠いている。先程までの精密さは鳴りを潜め、弾丸は敵機の側面や頭上を虚しく通り過ぎて行く。回避の動きも乱暴で、カノンの焦りが手に取るように分かった。


 カノン機のAPゲージを見ると、既に三割以下まで減らされてしまっている。MROで自機が撃破された場合、まず機体の修理費が掛かる。入手した素材なんか

も、前述の通り一定確率でロストしてしまう。ミッションそのものは、基本的にチームが全滅しない限り失敗とはならないけれど、メンバーが減ればそれだけ失敗する確率も上がる。


 感情論を一切取り除いて、厳密な事実だけを述べるとすれば、仮にカノンが撃破されても、このミッションそのものをクリアする事は十分に可能だろう。が、まさか見捨てる訳にも行かない。ゲーム内外問わず、彼女からの信用を失う事になるだろうし、折角のクラン新メンバーが加入早々に離脱、と言う事にもなる。短期的にも長期的にも、損失しかない選択である。


 そして感情論を述べれば、見捨てるなどと言う選択は最初っから思い浮かびもしなかった。


「落ち着いて、すぐ行くから!」

 通信チャット越しに叫んだ。急がないと、カノンがやられてしまう。


 ブーストダッシュを使用。急加速する〈叢雲〉。周囲の風景が高速で背後に流れて行き、疑似的に再現されたGが、僕の身体をシートに押し付ける。


 スクリーンの中で、徐々に拡大されて行く〈グリムリーパー〉の姿。脚部に被

弾。体勢を崩す。〈リーゼ〉がライフルの砲口を向ける。


「まずい……っ!」

 慌てて〈叢雲〉のショットガンを発砲。が、当たらない。照準以前に、まだ射程内に入っていないのだ。


 このままじゃ――そう思った瞬間。


『お待たせっ!』


 メイの通信チャットから一瞬の後、〈グリムリーパー〉を狙っていた敵機へとぶっといビームが突き刺さった。〈リーゼ〉は大きく体勢を崩し、手にしたライフルを取り落とす。


 あれは、明らかにエーテルライフルじゃない。威力も段違いで、一撃で〈リー

ゼ〉のAPを半分以上削ってしまっている。


 思わず視線をメイ機の方へと向ける。そこには、右脇に抱え込むように、両手で大型の火器を保持する〈フリューゲル〉の姿があった。


 エーテルランチャーだ。エーテルライフルより燃費と取り回しが悪い代わりに、高威力、長射程の武器である。ストレージから取り出した装備だ。


『吹っ飛んじゃいなさいっ!』

 そう叫ぶや、二発目を発射。今度はカノン機へと飛び掛かろうとしていた〈ゴブリン〉に命中。一撃でバラバラに破壊してしまう。


『コウ!』

「分かってるって!」


 時間を稼いでくれたお陰で、こっちも間に合った。


 手近な〈ゴブリン〉一機に、ショットガンを四発。撃破。


 残る三体の〈ゴブリン〉達の真ん中に突撃。一体をショットガンの三連射で片付け、一体をブレードで切り刻み、残る一体には散弾をお見舞いした後、ブレードで串刺しに。


『……コウ、後ろ!』


 カノンの声に振り向く。体勢を立て直し、エーテルソードを発振させた〈リー

ゼ〉がブーストで斬り掛かって来るのが見えた。


 素早く機体を振り向かせ、辛うじて斬撃を受け止める。だけど、その後の鍔迫つばぜり合いはその場で受け止めた〈叢雲〉よりも、ブーストで勢いを付けていた〈リー

ゼ〉の方に分があった。敵機の持つエーテルソードに、じりじりと押し込まれる自機のブレード。このままだと、押し切られてしまうかも知れない。


 が。


 MROでは、トランスポーターを中心点として"監視ゾーン"と呼ばれる地域が広がっている。地上からの妨害電波の影響が比較的少なく、月面セレーネからの観測が可能となっている――と言う設定で、この地域ではミッションの細かい情報も事前に把握する事が出来る等、人類プレイヤーにとって割と有利な――ゲーム的には、攻略がし易い地域となっている。


 ここでは、プレイヤー同士の攻撃が当たらない。正確には当たってもダメージ判定が発生しない。衝撃で体勢を崩されはするけど、同士討ち|や、いわゆるP K(プレイヤーキラー)の心配はほぼない(間接的にはあり得るけど)。


 そしてここは、監視ゾーン内である。


 つまり。


「メイ、やっちゃって良いよ」

『がってん!』


 スクリーンに大写しにされた〈リーゼ〉の奥に、エーテルランチャーを構えた

〈フリューゲル〉の姿が見えた。砲口は、ばっちりこちらへ向けられている。


 発射。


 一条の閃光が僕と敵機を仲良く飲み込む。衝撃で吹っ飛ばされる〈叢雲〉。スクリーンに映る景色がスロットのリールみたいに高速回転し、僕の座るシートがガタガタと揺さぶられる。


 もっとも、これはあくまでゲームだ。いくらリアルとは言え、馬鹿丁寧にプレイヤーをミキサーに掛けるような真似はしない。振動もあくまで臨場感を出す程度に抑えられているし、設定をオフにすれば全く揺れなくさせる事だって出来る。僕にしてみれば、少々出来の悪いアトラクションを体験した程度でしかない。


 対して、敵機はそうは行かない。僕が吹き飛ばされる直前、青白いエーテルの奔流が〈リーゼ〉の背面装甲を焼き尽くし、内部フレームを灰にする光景が見えた。


〈叢雲〉を起き上がらせて、確認。敵機を示すレーダー上の赤い光点は消え去っていた。さっきまで僕らがいた場所を見てみれば、相方を失い、いびつな断面からぶすぶすと黒煙を上げる〈リーゼ〉の下半身が地面の上に転がっていた。


「ふー……」


 敵機全滅。大きく溜め息をく僕の目に、スクリーン上の『ミッションコンプリート』の表示が飛び込んで来た。






『いやー、上手く行ったわー』

 トランスポーターへの帰還中。上機嫌なメイの通信チャットが僕の耳に届いた。


『ちょーっと危なかったけど、結果的に三人共無事だったし。最後のトドメもあたしだし。言う事なしだわ』

「僕からは言う事たっぷりあるんだけどね」


 危なかったのは、そもそもメイが一人で勝手に突っ走ったのが原因だし。ゲーム的には何の意味もない最後のトドメにこだわってるし。


『何よう。クリアしたんだから良いじゃない。最後のあの連携なんていかにもチームプレイって感じだったし』

「過程が悪けりゃ文句の一つも出るだろ。あれだって、これから先通用する手口って訳でもないし」


『味方ごと敵を撃つ』と言う行為が戦法として通用するのは、ここが監視ゾーン

――システム上、同士討ちが発生しない地域だからだ。これからどんどんミッションを進めて行けば、いずれは監視ゾーン範囲外の地域で戦う事になるだろう。そこでは味方の攻撃にもダメージ判定が発生するから、友軍誤射フレンドリーファイアにも気を使わなければならなくなる。今は有効であっても、今後の事を考えればあんな戦法に頼ってばかりと言う訳にはいかない。


『もうっ。ほんっとコウは小言が多いんだから』


「それはきっと、イノシシみたいに後先考えずに突撃してばっかりの、どこかの誰かさんのお陰だろうね」

『あら、そうだったの。道理で、教室じゃナマコみたいに動かない癖に口だけは良く動く、どこかの誰かさんだと思っていたら』


「あははははは」

『うふふふふふ』


 しばしの沈黙。


『言ったわねぇっ!』

「言ったなぁっ!」


 互いの怒声が、通信チャット越しに飛び交う。


『……あ、あの』

『最後に勝ってりゃ良いのよ! 何よ細かい事ばっか気にして!』

「あれが細かい事か!? どれだけおめでたい頭してんだよ!」


『……あの』

『大体コウは慎重過ぎるのよ! 行ける時は考える前に行くべきでしょ!』

「勢いだけで何とかなる訳ないだろ!」


『……あのっ』

『何よぉっ!』

「何だよっ!」


 ええい、この猪突猛進娘め! ろくに反省の色も見せやしない! 何時までもこんな調子でやられちゃたまらないってのに、一体どうしてくれようか! ここは一つガツンと――


 銃声。


 口論が中断される。僕の〈叢雲〉とメイの〈フリューゲル〉の間、足元の地面に真新しい弾痕が一つ。カノンの〈グリムリーパー〉を見ると、両手でしっかりと構えたライフルの銃口から、一筋の煙がたなびいているのが見えた。


『……あの、二人共良い?』

「『はい』」


 二人の声がぴったり重なった。


『……レーダーに反応あり』

「敵?」

『……それが、MRの反応もある。追われてるみたい』


 カノン機から送られたレーダー情報を見る。確かに、GE()を示す三つの赤い光点から、MRプレイヤーを示す一つの緑の光点が逃げているように思えた。


『様子を見てみましょうか』


 三機でその方向へと移動して、レーダーの示された場所をズームする。拡大されたスクリーンの映像に、三機の〈ゴブリン〉に追われている一機のMRの姿があった。何の変哲もない初期装備に身を固めた機体は、一際目を引くピンク色に染め上げられていた。


『……どうする?』

「どうするって……」


 つまり、助けに向かうかどうか、と言う事だ。こう言う場合、敵の数や質、自分達の目的や消耗の度合いを照らし合わせ、総合的に判断を下す。万全の状態で挑みたいミッションの前であれば、他人の援護をする余裕もあまりないし、善意だけで闇雲に向かった結果、ミイラ取りがミイラになってしまっては何の為の救助か分かったものではない。見捨てる、と言う選択を取る事もあり得るし、逆に自分達が同じように見捨てられたとしても、それは仕方がない事だと受け入れるだろう。そこに恨みは残さない。互いの事情、プレイスタイルを尊重する。こう言う、多人数が関わり合うゲームだからこそ、必要なものである。


『じゃあ行きましょう!』

 そして、即断で決定する我らがマスター殿の、この勇姿よ。


「だからちょっとは考え……はあ。分かったよ」


 反論するのも馬鹿らしくなって来た。そもそもそれなりに消耗した戦闘後とは言え、助けに向かう程度の余裕はあるし、相手も大した数と強さでもない。僕としては、反対する理由は何もないのだ。


『それでこそコウ。あたしの事助けてくれた時みたく、格好良く行っちゃいなさ

い』

『……格好良かったんだ』

「い、行くなら早く行くよ!」


 救助に向かうと言うより、全く予想外に飛んで来た評価から逃げる心地で、ブーストダッシュ。みるみる内に大きくなる、〈ゴブリン〉とMRの姿。


「そこのプレイヤーさん、援護が必要ですか!?」


 まずはオープン回線で確認の呼び掛け。『横殴り』と言って、他のプレイヤーが戦っている敵を、無関係のプレイヤーが攻撃を仕掛けるのは一種のマナー違反となる。ピンチに陥っていると僕らが勝手に勘違いして、結果的に手柄の横取り行為に――と言った事態を防ぐために必要な事だ。


『お、お願いします!』


 切迫した女性プレイヤーの声が返って来た。許可が出たのなら、遠慮する必要はない。僕とメイとカノン、それぞれで一体ずつの〈ゴブリン〉を相手にする。何ら特筆すべき点のない、実に手早く一方的な戦闘の末に勝利を収めた。


「大丈夫でしたか?」

『は……はい。ありがとうございます』


 安堵の空気を漂わせる、相手プレイヤーのお礼の言葉を聞きながら、相手の名前を表示させてみる。

 プレイヤーネームは『サラ』。オペレーターレベルは……1。つまり、普通に考えれば今日始めたばかりの新人さんと言う事だ。つい三日前始めたばかりの新人である僕には良く分かる。


「仲間はいないんですか?」

『はい。私一人です』

「サラさん、ゲーム始めたばかりですよね。どうしてこんなところに?」


 この辺りはポーターからそれ程離れてはいないとは言え、ゲーム開始直後の初心者が受けるミッションの舞台とはなっていない。


『え……? 私名乗りましたっけ? それに何で始めたばかりって……』

『オペレーターデバイス使えば、名前とかレベルとか表示出来ますよ? メニューからでも、MRのコンソールからでもOKです』


 僕の代わりにメイが答える。


『そうなんですか〜。……ああ、そう言えばそんな事言ってた気がします。……ええっと、メニューのどれを……』

「あー、じゃあ直接教えます。カノン、周りに敵いない?」

『……うん』


「サラさん、すみませんが降りて頂けますか? 降り方は分かります?」

『あ、はい。何とか』


 サラさんが答えてから少し間を置いて、桃色のMRの胸部ハッチが開く。


 その奥、コクピット内部から出て来たのは、機体と同じ桃色の長い髪を、ツーサイドアップに束ねた女性プレイヤー。


「ええっと、確かこれを……」


 少々もたつきながらも、サラさんは光エフェクトで形成されたリフトを降ろし、地面へと降り立った。


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