10 ミッション開始
道中は順調そのものだった。
カノンの〈グリムリーパー〉が先行し、偵察を行う。索敵能力が高め、と言うだけあって、僕らの機体では探知出来ないような遠距離までカバーしてくれるし、更には隠密性も高いから、敵に発見される危険性も僕らより低い。索敵データは僕らにも転送してくれるので、彼女が発見した敵機の位置はこちらのレーダーにも表示される。敵機の種類等、詳しい情報までは分からないけど、十分にありがたい事
だ。
得られた情報を元に、戦うか迂回するかを決める。余裕があれば戦って、装備の生産に使ったり、売り払って資金となる素材をゲット。敵の数が多かったり、消耗――実弾兵装で消費する弾薬や、エーテル兵装で消費するエネルギー、特に近接武器に重要な装備耐久力、機体のAP等々――を抑えたいのなら、遠回りして戦闘を回避。
お陰で、僕とメイの二人だった時よりも、スムーズに目標地点まで移動する事が出来た。何しろ僕ら二人の時は、目標地点まで真っ直ぐ進んで、敵を見付けたら戦って……と、行き当たりばったりだったからなぁ……。
と言う訳で、今回のミッションポイントに到着した。
「……ただいま」
「で、どうだった?」
工場の敷地外の物陰に潜んで様子をうかがっていた僕らの元へ、偵察に出ていたカノンが戻って来た。
「……敷地内に、〈ゴブリン〉が十二体に〈リーゼ〉が二体いた」
〈ゴブリン〉は、MROの代表的とも言える雑魚敵だ。人間側の生産施設を奪った暴走機械達が最も多く量産しているギアエネミー《GE》で、ひょろりとした体格の人形兵器だ。数こそ多いもののあらゆる能力が大した事なく、動きも単調。初心者でも簡単に倒せる最弱の敵だ。
〈リーゼ〉は、中型ジェネレーター搭載型の敵で、設定ではかつての人類側の主力人形兵器だったらしい。バランスの取れた性能で、際立った特徴がない一方、任務に合わせて武装を選ぶ事で大抵の状況には対応出来る柔軟性を持つ。
「さて、どう攻めようか……」
報告を聞くに、数は多いようだ。一体一体なら問題なく対処出来る敵ばかりだけど、多数で攻められては中々に厄介な事になるだろう。当然、このまま真っ正面から突っ込むのは下策だ。
ここから見える限り、〈ゴブリン〉は三体。まず、あの三体をおびき寄せて倒すべきだろう。敵であるGEは、種類にもよるけどあまり相互連携をしてこない。一定の目的のために群れる事はあっても、各機がてんで好き勝手に行動をする。その性質を利用しよう。
まずは遠距離から撃つ。当たっても当たらなくても良い。不審に思った敵機を十分引き付けて他の敵機から離し、各個撃破する。
大体、こんな感じだ。これなら不要なリスクを背負わず、安全にミッションをクリアする事が出来るだろう。うん、これで行こう。
「……良し、突撃っ!!」
「ちょっと待てええええええっ!?」
そして、戦術などと言う考えを何一つ持ってはくれないのが、我らがクランの勇者様だ。物陰から勢い良く身を翻し、スラスターからブーストダッシュの青白い光を派手にまき散らし、そのまま敵陣へと真っ正面から突っ込んで行った。
当然、すぐに気付かれた。〈フリューゲル〉の姿を確認するや、〈ゴブリン〉達は手にした火器をめいめいに撃って来た。
「嘘……っ!? 見付かったの……っ!?」
「嘘……っ!? まさか見付からないとでも思ってたのか、このマスター……
っ!?」
多分『突っ込みゃ何とかなるでしょ!』……位の気分で突っ込んだに違いない。二階堂舞こと、メイ。その器の底は、余人では到底推し量る事が出来ないだろう。推し量る事が出来ない程、その器は縁と底との高低差がない。
「ああもうっ! カノン、援護お願いっ!」
「……了解」
こうなった以上、正面から撃破するしかない。愛機〈叢雲〉の右手にブレード
を、左手にショットガンを装備させ、僕もブーストで突っ込む。
〈ゴブリン〉が左正面に一機、右斜め前方に一機。時計の時刻で表現するところ
の、それぞれ十一時と二時の方向だ。
〈ゴブリン〉が撃って来る。パタタタタッ、と銃声が響く。こまめにステップして回避。
まずは左側から。左手のショットガンを片手で構え、発砲。吐き出された装弾か
ら、無数の子弾が前方に向かって飛び散る。この武器は射程が短い代わりに、近距離での威力が高い。精密な狙いが付けられない代わりに、命中率そのものは高い。僕にぴったりな武器だった。
〈ゴブリン〉に命中。ピガーッ、と電子音の悲鳴を上げてのけぞる。立て続けに数発。A Pゲージが空になった敵機は、爆発エフェクトを上げて動かなくなった。
右側の一機が発砲して来た。
回避。
お返しに、こちらも発砲。命中。同時に、素早く距離を詰める。
ブレードを真横に振るう。直撃判定。真っ二つに切り裂かれた〈ゴブリン〉の上半身が、軽い放物線を描いて地面に転げ落ちた。
二機撃破。
奥の建物影から、三体の〈ゴブリン〉が姿を現し、こちらへと向かって来るのが見えた。
一斉に発砲して来る。
この攻撃密度では、回避は難しいと判断し、左手のガントレット型シールドでガード。
シールドの使用時には、防御判定が行われる。適切なタイミングで防御を行え
ば、シールドに設定された防御性能を最大限発揮出来る。更にシールド耐久力――これがなくなるとシールドが破壊されてしまう――の減少も抑える事が出来る。タイミングが合わなくても――防御判定で言えば"小成功"の場合でも、ダメージ自体は抑える事が出来るけど、シールドの防御性能を完全には発揮出来ないし、耐久力も大きく削られてしまう。
現在〈叢雲〉に装備しているシールドは、小型軽量で取り回しが良く、防御の成功判定も出し易い反面、肝心の防御性能そのものは低い。結果として防御判定には成功したけど、それなりにAPを削られてしまった。
なおも〈ゴブリン〉達が迫って来る。このままだと、ちょっとまずいかも知れない。
「……任せて」
などと思っていると、カノンからの短い通信。
直後、飛来した弾丸が一体の〈ゴブリン〉の胴体ど真ん中に着弾する。直撃判定を食らった〈ゴブリン〉は、一撃で撃破。
更に弾丸が飛来。一体の〈ゴブリン〉に命中し、体勢を崩す。その隙を逃さず、〈叢雲〉は一気に接近。一機をブレードで切り捨て、一機をショットガンで片付けた。
射撃地点へと視点を移す。小高い丘の上で片膝を付き、スナイパーライフルを構えるカノンの〈グリムリーパー〉の姿があった。
「ありがとう、助かったよ!」
「……どういたしまして」
通信越しに感謝する。う〜ん、この連携してる感。実に心強い。
「カノーンっ! 早く、早くこっちも助けてっ! ……うぎゃーーーーっ!?」
対して、勝手に突っ込んで勝手にピンチに陥った我らがマスターは、通信越しに情けない悲鳴を上げている。スクリーンに映る〈フリューゲル〉は、純白に染め上げられた美しい体躯をジタバタと動かし、〈ゴブリン〉と〈リーゼ〉の群れからひたすらに逃げ回っていた。
「え……ええとカノン、メイを助けに行くから援護お願い」
「……うん」
指示を出して、僕は敵へと向かって行った。
レーダーを確認してみると、残る敵は〈ゴブリン〉が五機、〈リーゼ〉が二機。メイも一応、二機撃破していたらしい。
一機の〈リーゼ〉が、メイに向かってライフルを構えるのが見える。
させない。ショットガンを向け、発砲。
命中。少々遠かったので威力が落ち、その上カスリ判定だったので与えたダメージはまるで大した事ないけど、構わない。立て続けに撃ちまくる。狙いはかなり荒く、偶然カスリ判定が発生する程度だけど、目的はこちらへ注意を引く事だ。
度重なる攻撃に敵の気が逸れる。一体の〈リーゼ〉と、流れ弾が当たった一体の〈ゴブリン〉が、こちらへと向き直った。
「メイ、早い内に体制立て直して!」
「あ、ありがとー!」
〈リーゼ〉の射撃を避けながら言う。スクリーンの〈フリューゲル〉は、両肩内蔵のマイクロミサイルをばら撒きながら後退する。追おうとする敵機を、〈グリムリーパー〉の狙撃が襲う。僕も後退しつつ、敵機をメイから引き離す。飛んで来る敵の弾丸は、ひたすら回避。ゲームによっては建物を盾にして攻撃をやり過ごす事も出来るけど、MROではあまり有効ではない。巨大ロボット兵器の攻撃は、工場の建物の壁程度なら簡単に破壊してしまう(|中には『破壊不能オブジェクト』と言
う、何をしても絶対に破壊出来ないものも存在するけど)。
十分引き離した辺りで、僕は反撃に転じる。温存していたブーストを使って、一気に間合いを詰める。同時に、ショットガンを発砲。
一発を〈リーゼ〉に、一発を〈ゴブリン〉に当てる。残弾は残り一発。敵の数を減らすのを優先、そう判断して〈ゴブリン〉に狙いを定める。
〈ゴブリン〉が撃って来るのをシールドで防ぎつつ、強引に突撃。
至近距離。ショットガンの銃口を〈ゴブリン〉の胴体に押し当て、発砲。外しようもない。直撃判定。上半身を吹き飛ばす。
そのまま動きを止めず、〈リーゼ〉との距離を詰める。
敵もエーテルソード――いわゆるビーム剣を取り出す。柄部分から、エーテル粒子で形成された刀身を展開させ、僕を迎え撃つ構えを見せる。
ブレードを振り下ろす。〈リーゼ〉のエーテルソードに防がれる。実体剣でビームの刃なんて切ったら、逆にこっちの剣が溶けて真っ二つになるんじゃないか、と思われるかも知れないが、実体剣は刃の部分にエーテルを流して切断力を増しており、そのためビーム刃とも干渉する、と言う設定のためそう言った事にはならな
い。
続けてブレードを下から上へと振り上げる。敵の右足をかすめる。敵は怯まず斬撃を繰り出して来る。
「うわ……っ!?」
盾での防御が間に合わなかった。命中判定を食らう。更に振るわれた一撃で、
〈叢雲〉のAPゲージが半分を切った。
距離を取りたいところなんだけど、ショットガンが弾切れとなった今、離れた方がむしろ危険だ。むしろ、強引でも押した方が良い。そう判断した僕は、残りのゲージを使い切るつもりで、ブーストを使用。
ブレードの切っ先を〈リーゼ〉へと向け、自機ごと体当たりをするような勢いで一気に突く。刃が敵機の脇腹をオレンジ色に灼熱させながら貫き、爆ぜ飛んだ火花が〈叢雲〉の装甲を叩く。
だけど、まだ〈リーゼ〉のAPは残っている。もがくように動き、エーテルソードの切っ先を〈叢雲〉に向けようとするのが見えた。
させない。
突き刺したブレードを握ったまま、〈叢雲〉の全身で敵機を押し込む。そのま
ま、背後のコンクリート製の建物へと叩き付ける。
轟音が響く。砕けた外壁の破片が飛び散る。衝撃でAPを削られ、体勢が崩れた敵機の手から、エーテルソードが落ちる。
僕は機体の左肩を押し当てたまま、ブレードを引き抜き、すぐさま胸部を突き刺す。とどめの一撃を加えられた〈リーゼ〉は、建物にもたれ掛かるような姿勢でその場に崩れ落ちた。
「〈リーゼ〉一機撃破! そっちどう!?」
「コウ! あたしは大丈夫なんだけど、カノンが狙われてる!」
「……ちょっとピンチ」
見れば、残った〈リーゼ〉と二機の〈ゴブリン〉が、〈グリムリーパー〉へと発砲している。度重なる狙撃が敵から驚異と見なされ、集中的に狙いを定められた
――いわゆる"ヘイトを稼いだ"ようだ。種類にもよるけど、スナイパーライフルは連射性能が劣る。近くの敵を相手にするには不利な武器だ。
「分かったけど、こっちも体勢立て直さなきゃ駄目だ! 何とか持ちこたえて!」
「……早くしてー」
カノンは言った。




