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絶体絶命の豚。

要望があったため、少し長めに書いて見ました。

「・・・ふぅ」


邪魔物を排除したディーは小さく息を吐く。

亭主に食事代の他に金貨と徽章を見せて口止めをしたため漏れることはないだろう。

しかしイレギュラー続きだった。

ディーはカウンター席に着きぬるくなった酒を煽る。

リディア様に冒険者を挫折してもらう為とは言え、オークの討伐に行けばそこは希少種や亜種の群れ。

更には緊急時のためにリディア様に仕掛けられた御守りも発動せず、危うく私の首が飛ぶところだった。


「しかし、あの魔物は・・・」


俺はあの魔物を思い浮かべる。

魔物というよりは獣に近い体躯に黒い奇妙な鬣。あの特徴的な下牙を見るにオークか(ブルファング)型の魔物の希少種、いや変異種か。

人語を理解するというのも奇妙な話だった。

居ないわけではないが、大抵そういう魔物は上位種であり、殆どが災害と称されるほど力を持った存在だ。

しかしあの魔物にそういうものは感じられなかった。

ネームド化しても先のオーク達とは勝負にもならないだろう。

何故あんな魔物が『極彩の森』という厳しい環境で今まで生きてこれたのかーー。


そこまで考えて、ディーは被りを振る。

もう考えても無駄なことだ。どうせあの魔物は二度と会うことはない。

この世界で三つしかないSランク認定ダンジョン、『魔神宮』に送ったのだから。


「さて、後はあの分からず屋のお嬢様にどうやって説明するか・・・」


切り替えるように新しい酒に口をつけるディー。

頭の中には例の魔物のことなど綺麗になくなり、現状の打開策で埋め尽くされた。


ーーーーーーー


俺の目の前で圧倒的威圧感を放つキマイラ。

至る部位から強者としての風格を醸し出し、俺自身も魔物であるからか、決して俺が立ち向かって勝てるような相手ではないと警鐘を鳴らす。


あ、駄目だわ。

狼の時は犬だけにワンチャンあったけど、これは無理。

下らない冗談を言うくらい精神的に余裕があるのが救いか。

若干空元気な気もするけど。


目の前に降り立ったキマイラは何をするでもなく自著俺を見据える。

それだけでジリジリと見えない重圧が俺を襲い、ガリガリと体力を削っていく。


まずいまずいまずい・・・!

戦っても絶対勝てない。じゃあ、逃げる?

無理だ。全力疾走しても余裕で回り込まれるんだぞ?

あたりに逃げ込めるような隙間もない。

いや、あったとして逃げ込んだところでブレスで焼くなり壁を壊すなりして容易に突破して来そうだ。


これ詰みじゃね。

いやいや、諦める気はないけどどう考えても状況的に無理すぎる。

前みたいに犠牲を払って食いちぎるか?

いや、一撃もらったら終わりなきがする。

だって足の太さが俺の胴体よりふた回りも太いんだぜ?

確実に食らいつくどころじゃないだろう。


俺が考え込んでいるのを察したのかキマイラは嘲笑ににた笑みを浮かべて喉を鳴らす。

その顔を見た俺は、グツグツとマグマの様な怒りがこみ上げ、ドクンと全身が波打った。


・・・そんなに知恵を絞っているのが滑稽なのか?

そりゃお前にしたら虫けら同然だろうが・・・

俺はお前如きが嘲笑を浮かべていい相手ではないぞ猫風情が!!


大きくなる鼓動に合わせて俺の身体が躍動する。

何故こんな感情を抱いているのかわからない。

こんな絶望的な状況に何故俺は何も考えずにキマイラに正面から突っ込んでいるのかもわからない。


しかし、俺は自分の行動を止めることができなかった。

飛び出した俺にキマイラは目を細め一層嘲笑を強める。


・・・だからその目をやめろ!!!


吠えながら地面を蹴ってキマイラの喉持ちに飛び込む俺。

それでもキマイラは動かない。

強者としての余裕を見せつけるように俺を見下ろしたままだ。


クソが!今に吠えずらかかせてやr・・・


首元まで残りわずかというところで視認できないほどの速度で前足が振るわれた。

凄まじい速度で吹き飛ばされた俺は、そのまま一直線に壁へと突き刺さる。


肺の中の空気が全て吐き出され意識が朦朧とするが、激しい痛みがかろうじて意識を留めてくれた。


いてぇ・・・。

攻撃も全然見えなかったし・・・マジで洒落にならんわ・・・。


キマイラの方を見ると、先ほどまでの嘲笑と打って変わりまだ俺が動いていることに驚いているのか、感嘆のような表情を浮かべ警戒しながら近づいてくる。


くそ・・・。

俺の事を舐めてたわけじゃないのかこいつ。

今考えれば冷静じゃなくなったのも状態異常かなんかだった気がするわ・・・。

・・・畜生、こいつの方が何枚も上だったってことか。


軋む体に鞭を打ち、再びキマイラと対峙する。

立ち上がるのが精一杯の俺にもう出来ることはほぼない。


だが、諦めるつもりもない。

死にたくなかった。


この状況で対抗できる唯一の手段は《暴食》の加護のみ。

キマイラを睨みつけながら体の状態を確認する。

幸いあと一回くらいは動けそうだ。

かといって、未だに警戒を怠らないキマイラに食らいつけるかといったら不可能に近い。


じっとしていても食われるだけか・・・。

ハハハ・・・食われるなんて、《暴食》も形無しだな。


乾いた笑いを浮かべる俺だったが、ふとある事に気付く。


喰われる?

あぁ、そうか。まだ手はある。

俺は自身の最後の力を振り絞り、自身の前足に喰らい付く。


スキルを持つ生物を喰らえば《暴食》は発動するならーー。



俺自身を喰えばいい!



いきなり目の前の獲物が自身を喰らい始めたことに困惑するキマイラ。


『《暴食》の加護の覚醒条件を満たしました!《※※※※※》を獲得しました!適合を開始します』



賭けに出た俺は、アナウンス音と共に意識を閉ざした。

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