同じ線を測る
王都を出ると、まっすぐな街道の先まで日が射していた。
帳面を囲んだ会合のあと、四人は旧記録の確認と道具の準備を進めた。休息も取り、こうして街道へ出たのは日を改めてからだった。
ラーメルトは手帳を開きかけ、先に道へ目を戻した。隣を歩くフルメアも行く手を見ている。
「このあたりだったわね」
「ええ」
道の端へ寄って頁を開くと、720の文字が目に入った。前にこの区間を歩いて得た数だ。その隣には鎖で測った記録もある。
ラーメルトは手帳を開いたまま、かつて歩き始めた起点を確かめた。
「ここから始めましたね」
「そう。あそこまで。鎖を巻くころには、手が痛くなってたわ」
フルメアが示した目印へ視線を送る。赤くなった彼女の手のひらを思い出し、ラーメルトは自分の手帳を持ち直した。
「先に向こうも見ておきましょう」
鎖を取り出す前に、四人で目印へ向かった。エノアは帳面を閉じてついてくる。レオンハイトは歩きながら街道の先へ目を配っていた。
ラーメルトは歩数を数えず、道と記憶を辿った。前には、自分の測り方が使えるかを知りたくて歩いた。歩き終えるのを待ちきれなかったことまで、足を運ぶうちに思い出される。
目印に辿り着くと、フルメアが足を止めた。
「ここの手前? それとも、横までだった?」
ラーメルトは彼女の足元を見た。目印を見つけたところで、もう着いたつもりになっていた。
「鎖の端は、ここに置きました」
指したところへフルメアがしゃがみ、来たほうへ顔を向ける。
「私がこっちを持ってたのね」
「はい。歩き終えたのも、ここです」
鎖を手繰ったときの位置を二人で確かめる。フルメアが立ち上がり、その場から起点を振り返った。ラーメルトも彼女の隣に立ち、前に歩いた道筋を見直す。
エノアが手帳を覗き込んでから、自分の帳面を開いた。
「今のお話は、お二人が覚えていることとして残しますね」
「お願いします。今日、確かめた位置も一緒に」
エノアが書き終えるまで待って、起点へ戻り始めた。
ラーメルトはさきほどの位置から起点へ目で線を辿った。途中で脇へ寄っていなかったか。鎖をどちらへ延ばしたか。気になるところでは立ち止まり、フルメアと向きを確かめ直す。
「あなたがそっちにいて、私が引いてたのよね」
「ええ。こちらを向いていました」
彼女の立つ位置へ手を伸ばしてみる。手の中に鎖はなくても、引き合った重さは覚えていた。
起点まで戻ったラーメルトはいま辿ってきた道筋を手帳と照らした。
フルメアが鎖の包みを開いた。
ラーメルトは端を受け取り、彼女と向かい合ってほぐしていく。マギアードで揃え直した鎖の重さが掌にかかった。
「もう、引いていい?」
「少し待ってください」
折り重なったところを解き、環のつながりを指で追った。目印となる環も見直してから、端を持ち替える。
フルメアがこちらの手元を見て、ゆっくり鎖を延ばした。途中で重なりが残ると、二人とも手を止める。
「もう少しこちらへお願いします」
「こう?」
「はい」
足元へ下ろした鎖を見ながら、どこを端として読むかを合わせる。勢いよく引っ張ると、フルメアの手元まで動く。ラーメルトは引く手を緩め、彼女が持ち直すのを待った。
いま手にしている鎖を調べる間にも、前の手応えを探してしまう。だが、指が覚えている重さで環の間隔までは確かめられなかった。
ラーメルトはもう一度手元へ目を落とした。
「……何か、気になる?」
「前に使ったものを思い出していました」
「目の前のを見てよ。こっちは持って待ってるんだから」
「すみません」
フルメアは笑い、端を支え直した。
エノアもそばへ寄って、二人の読む位置を確かめる。ラーメルトは手元を示し、今使う道具について書き留めてもらった。
点検を終えた鎖をいったん街道の脇へ置く。
レオンハイトが道へ顔を向けた。
「僕は、こっちを見てるよー。測ってると、周りが見えなくなるでしょう?」
「助かります」
ラーメルトが答えると、レオンハイトは片手を挙げた。フルメアも鎖から離れ、歩く道筋を空けてくれる。
風が手帳の頁をめくりかけた。押さえた指の下から、古い歩数が覗いている。
ラーメルトはその指を外し、手帳をエノアへ預けた。
「歩いている間、お願いします」
「はい」
手が空くと、妙に落ち着かなかった。目印を見ているはずなのに、意識は自分の足へ戻ってくる。踏み出す前から、靴の中で指を強く曲げていた。
「ラーメルト」
フルメアに呼ばれて顔を上げる。
「そんなに構えて歩いてたかしら、前も」
思わず足元を見た。
「……いえ」
「でしょ」
彼女が笑う。ラーメルトも息を吐いて笑い、足の力を抜いた。
エノアは帳面を開いて待っている。レオンハイトの視線は街道へ向いていた。フルメアが目印のほうを見てからこちらへ頷く。
「では、始めます」
ラーメルトは起点に立ち直った。二人で確かめた目印へ向き、足を踏み出す。
靴底が道を踏むのに合わせて、唇が声にならない数を刻み始めた。




