持ち帰った真実
帰りの死の帯は来たときよりも重かった。風も、寒さも、同じはずだった。違うのは四人が背負って帰るものの重さだった。誰も口をきかなかった。ただ黙々と、あの凍える暴風の壁を抜け、討伐線まで戻った。
マルクラントの砦で一夜を明かす。だが、誰も眠れなかった。
「……ねえ、ラーメルト」
夜半。眠れぬフルメアがぽつりと言った。
「私たちが見たもの。……あれ、本当にあったのよね? 夢じゃないのよね?」
「夢では、ありません」
ラーメルトは静かに答えた。
「四人が同じものを見ました。……夢ではありません」
ラーメルトは自分に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を続けた。
「それにこれまで測ってきた数字があります。星から求めた距離と歩いて測った距離。そのずれは、中央では小さく、縁へ近づくほど大きくなっていた。あのときは、その意味がわからなかった。ですが――」
脳裏に雲の裂け目から見えた緑の大地が蘇る。
「今なら、わかります。数字は、この大地が平らではないことを示していた。そして私たちは、その下に別の大地があるのをこの目で見た。二つは、同じ答えを指している」
ラーメルトは膝の上で手を握った。
「私たちのいる大地は――空に浮いている。少なくとも、私はそう考えています」
沈黙が落ちた。やがて、レオンハイトがいつになく静かな声で言った。
「これ……どうするのー? この話」
軽い口ぶりだった。だが、その問いは四人の誰もが口にできずにいたものをそのまま突いていた。
この真実をどうするのか。
国じゅうに、いや、世界じゅうに告げるのか。「我々は浮いている」と。だが、そんなことを言って、誰が信じる。気が触れた、と思われるだけだ。あるいは――大混乱を招く。二百年、誰も知らずに暮らしてきた、その足元が実は空の上だと知れば。人々はどうなる。
「まずは……父に話します」
ラーメルトは決めた。
「宮廷魔術師である父になら。……いえ。父は、何か知っているかもしれない」
ラーメルトの脳裏にいくつもの断片が浮かんだ。
書庫の百五十年の空白。誰が記録を消したのか。
父が聞き覚えのあった「ヴォルトローネ」の名。
母がフルメアに託したあの護符。どこのものとも知れなかった意匠が、いまは妙に胸に引っかかる。この大陸では見たことのない造りの刀。旅の別名。
そして、王のあの言葉。『余には、急がねばならぬ理由がある』。
――皆、知っていたのではないか。父も、母も、王も。この大地が浮いていることを。だから、あの書庫の記録は消され。だから、王は急ぎ、この地図を作らせた。
ばらばらの点が今、ひとつの線になろうとしていた。だが、その線の全貌はまだ見えない。
「王都へ戻りましょう」
ラーメルトは立ち上がった。
「この真実を確かめに。……そして、なぜそれが隠されてきたのかを知るために」
東の空が白み始めていた。
浮遊する大陸のその縁で、四人は新しい一日を迎えた。
だが、その朝日すら、もう、これまでと同じには見えなかった。この光も。この空も。すべてが――あの下の世界から切り離された偽りの天空のものなのだ。




