死の帯
討伐線までは辺境の冒険者たちが案内してくれた。
道中、妖魔の襲撃もあった。だが、ラーメルトの刀と、レオンハイトの神聖術、そして辺境の男たちの腕でなんとか切り抜けた。
マルクラントの妖魔は確かに内側の森のものより獰猛で、数も多かった。
そして、討伐線にたどり着いた。
「ここまでだ」
案内の冒険者の頭が言った。地面に朽ちかけた石の標が並んでいる。これより先へは行くな、という無言の警告。
「本当に行くのか。……この先は、地獄だぞ」
その視線の先。
なだらかに続く荒野の遥か彼方に、白い壁があった。
地から天まで左右、見渡す限り。一面の白。それが絶えず渦を巻き、うねっている。近づくにつれ、風の音が聞こえてきた。低く轟くような、地鳴りにも似た風の音。
「あれが……縁?」
フルメアが呆然と呟いた。
「ええ。……あれが大陸の果てです」
案内の男たちと別れ、一行だけでその白い壁へと進んだ。
近づくほどに様子が変わっていく。まず、寒さが来た。夏だというのに、吐く息が白い。地面には霜。やがて、風が強くなる。まっすぐ立っているのが難しいほどの暴風。そして、あの白い霧があたりに立ちこめ始めた。
「く……息がしづらい」
エノアが胸を押さえた。ラーメルトも感じていた。空気が薄い。深く吸っても、肺が満たされない。まるで高い山の頂にでもいるかのようだった。
足がもつれ、崩れ落ちかけたエノアをレオンハイトが咄嗟に支える。戦い方など知らない娘にはあまりに過酷な道のりだった。
「全員、離れないで! 縄で体を繋ぎます!」
ラーメルトは皆の体を鎖と縄で互いに結わえた。この暴風と霧の中でははぐれれば死ぬ。視界は数歩先も見えない。
毒の霧、と人は呼んでいた。だが、ラーメルトにはどうしても毒だけが原因とは思えなかった。恐ろしく寒く、風が強く、空気が薄い。今、体を蝕んでいるものの多くは、それだけでも説明がつく。あたかも天空の高い高い場所をそのまま地面に貼り付けたような。
――なぜ、縁だけがこうなのか。
その問いすら、この極限の環境では頭に浮かべる余裕がなかった。ただ、一歩、また一歩。凍える体を引きずり、風に抗い、薄い空気にあえぎながら、白い壁の奥へと進む。
「もう少し……もう少しです! この壁を抜ければ!」
根拠などなかった。だが、こう叫んででもいなければ、足のほうが先に止まってしまう。
どれほど歩いたか。永遠にも思える時間の後、
ふいに、風が弱まった。
「――抜けた?」
霧が薄れ、凍える暴風が凪いでいく。
そして、一行の目の前の視界が開けた。




