合わない数字
メトレール領を発ってから、ラーメルトは変わった。
旅の合間、宿に着くたびに手帳をひらいては、これまでの測量記録を繰り返し、繰り返し検め直した。歩測の数字。鎖の数字。そして、各地で測った星の高さ。
「ねえ、また、それ? 何をそんなに確かめてるの」
フルメアが覗き込む。ラーメルトは手帳から目を離さず、答えた。
「……合わないのです」
「合わない? 何が」
ラーメルトは手帳の二つの数字を指した。
「星で測った南北の距離と歩いて測った南北の距離がほんのわずかに合わないのです」
海の老人から学んだ、あの理屈。星の高さの差がわかれば、そこから南北の距離へ換算できる。ラーメルトは旅の各地でその両方を測ってきた。実際に歩いた距離と、星から求めた距離。二つは一致するはずだった。
王都のあたりではほぼ一致していた。だが。
「南へ行くほど――ケルシウス領のあたりから、ずれが大きくなっている。東のマギアードのあたりでも、同じようにずれている。……もし、これが大陸の中央から、縁に近づくほど大きくなる歪みだとすれば、まだ足を踏み入れていない北でも、同じことが起きているはずです」
最初は測り間違いを疑った。だから幾度も検め直した。だが、何度計算しても、同じだった。ずれは確かにそこにあった。しかもでたらめにではなく、ある規則を持って。
「星の測り方が下手だったんじゃないの?」
「私も、そう思いました。ですが、違う。もし私の腕のせいなら、ずれはあちこちでばらばらに出るはずです。ですが、このずれは――中央で小さく、縁で大きい。まるでこの大地が」
ラーメルトはそこで言葉を切った。喉が詰まった。
「――曲がっている、かのように」
フルメアが首をかしげる。
「曲がってる? 大地が? だって、大地は平らでしょう?」
「ええ。平らなはずです。……ですが、この数字は、そうは言っていない」
ラーメルトは手帳の上で二つの数字を睨み続けた。
もし大地がどこまでも平らなら、星から求めた距離と歩いた距離は常に一致するはずだ。それがずれる。しかも縁ほど大きく。何度考えても、ひとつの可能性へ行き着く。
――この大地は平らではない。緩やかに曲がっているのではないか。
だが、そんな馬鹿な。目の前の大地はどこまでも平らに見えるではないか。
いや。あまりに巨大なものはその一部だけを見れば、平らに見える。小さな蟻が巨大な球の上を歩いても、その足元は平らに感じるだろう。
ならば。この大地もまた、あまりに巨大な――
「確かめねば、なりません」
ラーメルトは手帳をぱたんと閉じた。
その音の余韻が消えるまで彼はもう何も言わなかった。
「この数字のずれが本当なのか。それとも私の思い違いなのか。……それを確かめられる場所は、ひとつです」
「まさか」
「縁です。大陸の果て。ずれが最も大きくなる場所。そこへ行けば――答えがあるはずです」




