炉守
火山の麓の村。
その村外れにケルシウス家の当主が住まう館はあった。
貴族の館と聞いて、豪奢な造りを想像していたラーメルトだったが、目の前の建物はまるで違った。黒い岩を無骨に積み上げた、要塞のような館だった。窓は少なく、壁は厚い。貴族の邸というよりも何かに備えて身を固めた砦を思わせる。
その屋根の上に――天を突いて、巨大な金属の塔がそびえていた。何かを観測するための塔。ラーメルトはそう直感した。
「ようこそ、王命の使者殿」
迎えたのは白髭を蓄えた痩身の老人だった。落ちくぼんだ眼窩の奥で灰色の瞳はラーメルトを映しても、水面のように動かない。火を司る家の当主と聞いていた。だがその佇まいは炉の残り火よりも消えたあとの灰に近かった。
「アンデルス・ケルシウス、と申す」
「ラーメルトです。……失礼ながら、火の家のご当主とは思えぬ落ち着きようで」
ラーメルトが正直に言うと、アンデルスは口の端をわずかに上げた。笑ったのかもしれない。
「よく言われる。……火の家だからこそだ」
アンデルスは静かに続けた。
「火を扱う者が火のように猛っては身を滅ぼす。……我が家の家訓を教えよう。『熱は敵ではない。測らぬ熱が敵だ』」
――測らぬ熱が敵。
その一言が背筋を這い上がった。
わからないものが恐ろしいのではない。わからないまま、手をつけずにおくことが恐ろしいのだ。測り、知り、御する――目の前のこの男もまた、自分と同じ場所に立っている。火の家の当主は氷のように静かな声でラーメルト自身の信条を口にしていた。
「度量衡と地図だそうだな」
アンデルスは館の奥へと一行を導きながら言った。
「結構。この領地を測るがいい。……ただし」
彼はふと足を止め、あの屋根の塔を見上げた。
「ひとつだけ、測らせぬものがある。あの塔と――その下にあるものだ。あれには、何人たりとも触れさせぬ。それが条件だ」
問い返す隙はどこにもなかった。
ラーメルトはあの天を突く塔を見上げた。何を観測する塔なのか。その下には何があるのか。
訊いても、答えは返るまい。ラーメルトはその疑問を胸に留めた。
「――承知しました」
口では承知しながら、胸の裏では別の声がしていた。
火山のあの怒りと、この家が屋根の上に隠したもの。無関係のはずがない――理屈より先に、そう確信していた。まだ何ひとつ測ってもいないのに。




