妨害
異変は測量の三日目に起きた。
その日、ラーメルトは体調を崩したエノアを宿で休ませ、レオンハイトに看護を任せていた。測量にはラーメルトとフルメアのふたりで出た。監視役の兵もいつものように少し離れて付き従っている。
昼過ぎ。測量の道具を一時、監視役の兵の目が届く街道脇に置いて、二人が少し離れた丘の上から地形を確かめていた、そのとき。
「――道具が!」
フルメアの叫び声。
振り返ると、街道脇に置いた測量の道具が――グラディオの作ったあの測る鎖と、角度計が何者かに無残に壊されていた。鎖は断ち切られ、角度計は踏み砕かれている。
「なんてこと……!」
フルメアが駆け寄り、砕けた角度計を両手で拾い上げる。掌の中で部品が乾いた音を立ててこぼれた。あの星を測るための道具。グラディオが精魂込めて作ってくれた代わりのきかない品。
「監視の兵は!?」
ラーメルトが鋭く問う。だが、いつも付き従っていたはずの兵の姿がない。この肝心なときに限って。
――仕組まれたのか。
その疑いが頭をよぎった。監視役が犯人を見逃した。あるいは監視役そのものが。
やがて、姿を消していた監視の兵が慌てた様子で戻ってきた。
「な、何ごとだ!……道具が壊されている、だと?」
その驚きようは、演技には見えなかった。少なくともこの兵は直接の犯人ではないらしい。
「あなたがたは、どこへ?」
ラーメルトの問いに兵はばつが悪そうに答えた。
「い、いや……その、近くの村の者がぜひ話があると我々を呼びに来て……。それで、少しの間離れて……」
――呼び出された。
わざと監視の目を逸らすために――犯人はその隙を突いた。手際が良すぎる。行きずりのいたずらなどではない、明確な意志を持った妨害だ。
「フルメア。……犯人の心当たりは」
「わからないわ。でも……」
フルメアが壊された道具の周りを注意深く見回した。そして、地面のある一点を指した。落ちていた小さな金属の飾り。誰かの服からもぎ取れたものか。
「これ……マギアードの貴族の紋章じゃない?」
ラーメルトはその飾りを拾い上げた。マギアードのある貴族家の紋章。だが、なぜ貴族がわざわざ、こんな測量道具を壊すような真似を。
――と、そのとき。ラーメルトは思い出した。
トリスタットの黒服の男。記録を写したあの侵入者。あの者たちは私たちが測量を続けることを望んでいるのではないか――もし、そうだとするなら。この道具を壊す妨害はその者たちの仕業ではない。
つまり――私たちの周りには、二つの手が伸びている。
測らせたい手と測らせまいとする手が。
顔も見せずに。
「わからなくなってきましたね……」
ラーメルトは壊れた道具を見つめ、呟いた。この紋章の貴族家は本当に私たちの測量を妨げようとしているのか。だとすれば、なぜ。そして、あの記録を写した者はなぜ、続けさせたいのか。
二つの意志が私たちを挟んで、交錯している。
そのどちらの糸の先にも――フルメアの村を灰にした真相が繋がっている気がしてならなかった。




