測られる国
ドルトン領での測量を終え、一行はいよいよ国境を越えた。
マギアード公国。七賢家に連なる古い魔導の国である。
だが――その迎えられ方は、これまでとはまるで違った。
キーロイス王国内では王命の威光でどの領地も一行を丁重に迎えた。だが、ここは他国だ。王命は及ばない。国境の関所で一行は長い詰問を受けた。
「王命で地図を作る、だと?」
関所の役人はあからさまに警戒の色を浮かべた。
「他国の者が我が国の土地を隅々まで測り、地図にする。……それがどういうことか、わかっておるのか」
その鋭い問いはラーメルトの胸の奥を冷たく突いた。
地図を作る。それは便利のため。そう疑いもせず思っていた。だが――正確な地図はその国のあらゆる姿を明らかにする。どこに村があり、どこに道が通り、どこが攻めやすく、どこが守りにくいか。
地図とはその国の裸の姿を描き出すもの。それを他国の者に作らせるということは。
「――軍事の機密を明け渡すに等しい」
ラーメルトは思わず目を伏せた。
ただ、知りたいという一心で測ってきた。だが――測られる側の目には、それは刃にも映るのだ。
「ご懸念はもっともです」
ラーメルトは深く頭を下げた。
「私どもの目的は、あくまで長さと重さの統一された基準を探ること。そのために各地の測り方や単位の違いを調べております。決して貴国の軍事を探る意図はありません」
だが、役人は容易には信じなかった。当然だ。言葉だけならいくらでも繕える。
押し問答の末、一行の入国はひとつの条件つきで許された。
「よかろう。ただし――道中、常に我が国の監視役を同行させる。貴殿らがどこを何を測るか。すべて見張らせてもらう。それが嫌なら、引き返すことだ」
役人の目が一瞬エノアで止まった。
「そちらの娘は……ハンザールの身なりだな。キーロイスの使者になぜ他国の民が」
「記録の係として雇っております。彼女の国とは無関係です」
ラーメルトが答えると、役人はしばし睨み、それ以上は追及しなかった。
監視役。
ありがたくはない。だが、断ればマギアードの測量はできない。この国の単位を調べられない。ラーメルトはその条件を呑んだ。
こうして、一行にマギアードの兵が数名付き従うことになった。彼らは常に一行から少し離れて、その一挙一動を鋭い目で見張っていた。旅の空気はこれまでの和やかなものとは一変し、張り詰めたものになった。
「背中に視線が刺さって、かなわないわ」
フルメアが監視の兵を横目にぼやいた。
「仕方がありません」
ラーメルトは努めて平静に答えた。
「私たちは、この国にとっては得体の知れぬよそ者ですから。……信じてもらうしかないのですよ。数字と態度で少しずつ」
だが、ラーメルトの内心では別の警戒も芽生えていた。
――マギアード。
フルメアの村を襲った襲撃者がこの国の貴族と繋がっているかもしれない。以前得たわずかな手がかりがそう告げていた。この国のどこかに村を灰にしたその糸を引く者がいるのかもしれない。
監視されているのは、こちらだけではない。こちらもまた、この国を見張らねばならなかった。




