王都基線
旅の本番の前に、ラーメルトはひとつ、試しておきたいことがあった。
王都を出てすぐの、まっすぐな街道。その一区間を選び、自分の考えた「測り方」が本当に使えるのかを確かめるのだ。
「まず、歩測します」
街道の起点に立つと、ラーメルトは歩幅を殺して歩き出した。声には出さない。唇だけが一、二、三、と数を刻んでいく。目印まで来て足を止め、踏んだ歩数に己の一歩ぶんを掛け合わせる。
「歩数、720。私の一歩は、およそ……この長さですから」
ラーメルトはその積を手帳に書きつけた。
「次に、鎖で確かめます。フルメア、手伝ってください」
ふたりはグラディオの作った測る鎖を街道に伸ばした。端まで伸ばしては手繰り、また継ぎ足し、何回ぶんになるかを数えていく。汗ばむ、単調な作業だった。真鍮の環が食い込むのか、フルメアの手のひらがみるみる赤くなる。
「うぅ、重い……。ねえ、歩数だけじゃ、駄目なの?」
「駄目です。歩測は、狂うかもしれない。鎖の方が、ずっと狂いにくい。……ですが、鎖は、時間がかかる。だから、鎖で正しさを確かめておいて、あとは歩測で手早く進める。両方のいいとこ取りをするのですよ」
鎖を数え終え、その数字も手帳に書く。
――歩測と、鎖。ふたつの数字は。
手帳の上で、ラーメルトは二つの数を並べた。指が、無意識に頁を押さえる。ほとんど、重なっていた。わずかな差は残るが、それは誤差と呼べる幅だ。
「合ってる……のよね?」
「ええ。合っています」
抑えたつもりの声が、それでもわずかに弾んでしまう。
「私の歩幅は、信じていい。この区間の長さも、信じていい。……ふたつの、まったく違うやり方が、同じ答えを出した。それが証拠です」
だが、と、ラーメルトは空を見上げた。
「本当は、もうひとつ。星を使う、別の測り方も確かめたい。……もっとも、まずは海の民に、その方法を教わらねばなりませんが」
歩いて測り、鎖で確かめる。まずは、この二つが揃った。星を使う別の測り方は、ハンザールで海の民に教わってからだ。
ラーメルトは手帳を閉じ、満足げに頷いた。
小さな、本当に小さな一区間。だが、これは、この世界を測る、最初の「一本の線」だった。この線を少しずつ繋いでいく。町から町へ、領地から領地へ。やがて、それは世界の輪郭を描き出すはずだ。
「なんだか、あなた、すごく楽しそうね」
フルメアが鎖を巻き取りながら、呆れ半分、微笑み半分で言った。
「ええ。……楽しいのですよ、これが」
ラーメルトは素直に認めた。
数字が合う。まるで示し合わせたように、二つのやり方が同じ一点を指す。魔法書の一行を解いたときとも、木剣が吸い込まれるように決まったときとも違う。もっと静かで、そのぶん深いところで灯る熱があった。
――こんな喜びが、この世にあったとは。
背に負ったはずの王命が、気づけばいくらか、軽くなっている。




