打てぬ刀、作れる鎖
出立後の試験歩測を終え、いったん王都へ引き返したラーメルトたちは、王都の外れの工房へ向かった。出立の前に寄った鍛冶屋で、ラーメルトはある頼みごとをしていた。
旅の途中で立ち寄る――その約束のとおり、品を受け取りに来たのだ。近づくほどに、いつもの鎚の音が高くなる。開け放した戸口から、炭のにおいと焼けた鉄の熱気が通りへこぼれ出していた。
「グラディオさん」
「おぉ! ラーメルト。それに、フルメアも一緒か! 今日は、めでたい報告か!?」
「違います」
毎度のやり取りである。ラーメルトは苦笑して首を振った。フルメアは慣れたもので、もう赤面もしない。
「頼んでいた品を受け取りに」
「おう、できとるぞ! ……しかしお前さん、変なものを注文しよって」
グラディオは工房の奥からいくつかの品を運んできた。
まず、長い、鉄の鎖。ただの鎖ではない。一定の間隔ごとに、真鍮の環が目印として編み込まれている。
「これが、注文の『測る鎖』じゃ。環と環の間をお前さんの一歩に合わせて、きっちり同じ長さに揃えろというんで、往生したわい。鍛冶屋に、そんな細かい仕事をさせるとはな」
「ありがとうございます。これは、助かります」
ラーメルトは鎖を手に取り、環の間隔を確かめた。歩測が疲れや坂で狂うのに対し、この鎖なら、より安定して同じ長さを取り出せる。歩測の答えを確かめるための道具だ。
続いて、グラディオは木と真鍮でできた奇妙な扇形の器具を差し出した。半円に目盛りが刻まれ、中心から、細い腕が伸びている。
「こっちが、『角度を測る道具』とやらじゃ。図面どおりに作ったが……こんなもん、何に使うんじゃ?」
「星の高さを測るのですよ」
「星の……高さ?」
グラディオが素っ頓狂な声を上げた。ラーメルトは微笑む。
「ええ。詳しいことは、まだ私にも。……ですが、これがあれば、この世界の大きささえ、測れるかもしれないのです」
「はっはっは! 大きく出たな! ……まあ、お前さんが言うなら、そうなんじゃろうよ」
グラディオは豪快に笑った。それから、ふと真顔になる。
「そういやな、ラーメルト。お前さんの、あの刀じゃがな」
黒い刀身の、母から授かった刀。ラーメルトの腰に、今も佩かれている。
「儂はな、五十年、鉄ばかり打ってきた。……じゃがな。あの反り。あの地金の合わせよう。あれだけは、いまだに儂の物差しの外じゃ。何度この目で追うても、どう打ったのか、皆目わからん。……悔しいがな」
グラディオは腕を組み、唸った。
「あれは、この国のもんじゃない。……そう思うんじゃ。お前さんの母上は、いったい、どこであれを手に入れたんかのう」
ラーメルトは腰の刀にそっと手を触れた。
――母は、どこで、あれを。
問えば、決まって笑いではぐらかされた。この国のものではない、剣。この国のものではない、意匠の護符。旅のもうひとつの名。核心へ手が届く寸前で、母の笑みはいつも霧のように輪郭を失う。
点は頭のなかにいくつも浮かんでいる。けれど、それを結ぶ線はまだ一本も引けずにいた。
「さて、と」
グラディオが道具を布に包んで、差し出した。
「気をつけて、行ってこい。……次に会うときは、めでたい報告を期待しとるぞ! がははは!」
丸太のような掌がラーメルトの背を打った。たたらを踏むラーメルトの横で、フルメアがとうとう噴き出す。




