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一歩の長さ

「あなた、さっきからまた唇が動いてるわよ」


 街道を半日ほど進んだ頃、フルメアが言った。

 ラーメルトは歩きながら小声で歩数を数えていたのだ。


「歩数です。癖でしてね」


「知ってるわよ、それは。でも、今日のはなんだかいつもより真剣」


 鋭い。ラーメルトは苦笑した。


「王都で話していた歩測を、今日から実際に試しているのです」


 立ち止まり、ラーメルトは自分の足元を見下ろした。


「最終的な基準はまだわかりません。ですが、その答えが見つかるまで、旅の途中で使える仮の物差しは要る。距離を測り、地図を描くための、ね」


 ラーメルトは一歩踏み出した。そしてまた一歩。


「私の一歩は、母の教えでほとんど狂いません。何度測っても、同じ長さになる。まずはこれを仮の物差しにします。私が歩数を数えれば、道の長さがわかる。道の長さがわかれば、地図が描ける」


「じゃあ、今日からあなたの足で国じゅうの道を測って回るのね」


「そういうことになりますね」


 フルメアが呆れたような、感心したような顔をした。


「気の遠くなる話ね……」


「ええ。ですが、これにはひとつ大きな利点があります」


 ラーメルトは指を一本立てた。


「王の腕は、王にしかありません。町の物差しは、その町にしかない。……ですが、歩幅は、誰にでもあるのです」


 誰でも、自分の一歩の長さを一度きちんと測って、体に覚えさせれば、同じように距離を測ることができる。特別な道具も、王の権威も、要らない。歩ける者なら、誰でも。

 ――誰でも作れる方法。父が言った、あの言葉。その、最初の一片が、ここにある気がした。


「ただし、問題もあります」


「なあに?」


「私の歩幅が正確でも――疲れれば、乱れます。恐れれば、縮みます。上り坂と下り坂でも、変わる。だから、歩測はあくまで大まかな目安。それを、別のやり方で確かめる必要がある」


「別のやり方?」


「縄です。それと――星」


 ラーメルトは空を見上げた。まだ昼の空である。だが、その向こうに、夜になれば現れる無数の星々を思った。


「まずは、歩いて測り、縄で確かめます。星をどう使うのかは海の民に教わってからです。歩測や縄とは違う方法で測った結果を突き合わせられれば――より確かな地図を作れるかもしれません」


「三回も測るの? 面倒くさくない?」


「面倒です。ですが」


 ラーメルトは微笑んだ。


「面倒を厭わないことこそ、この仕事のいちばん大事な才能かもしれませんよ」


 その日から、ラーメルトの歩みは、それまで以上に均一になった。

 一歩、また一歩。乱れぬ歩幅で、白い街道を測るように進んでいく。

 その一歩一歩が、いつか、この世界の大きさを測る最初の一歩になるのだと――そのことの途方もなさを、今のラーメルトはまだうまく量りかねていた。


 傍らを歩くフルメアが真似をして大股で歩いてみせる。


「私も、測ってみようかしら。ほら、いち、に、さん――うわ、全然そろわない!」


 よろけるフルメアを、ラーメルトが笑いながら支える。

 旅はまだ、始まったばかりであった。


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