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世界は見たままの姿をしているか?  作者: 古代羊
第一章 魔術師失踪事件
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決意

「私、悪くないよね!? ね!?」


 立ち上がり、胸元を掴んで顔を寄せてくるフルメアを、ラーメルトはなんとか宥め、席へ座らせた。潤んだ瞳、紅潮した頬。酔っていなければ、と場違いなことを思う。

 ――フルメアと酒場に来るときは、自分もエールを飲まないこと。固く、固く、誓う。

 だが今回は、二杯目に手を伸ばしかけたフルメアの手を、ラーメルトが押さえた。


「もう、おしまいです」


「えー……」


 不服そうに口を尖らせながらも、フルメアは素直に手を引いた。前の二度とは、違う。潰れる寸前で、踏みとどまったのだ。ほんの少しだけ――大人になったのかもしれない。

 そのささやかな成長に、ラーメルトは、そっと目を細めた。


◇


 酒場を出ると、宿はどこも満室であった。式典で、旅の客が溢れているのだという。

 仕方なく、ラーメルトは酔いの残るフルメアを連れて、自分の家へ帰った。フルメアの魔結晶で明かりを灯し、椅子に座らせ、白湯を淹れる。少し落ち着いた頃、フルメアが、ぽつりと切り出した。


「あのね。……村に帰って、話を聞いて回ったの。結局、襲った連中のことは、わからなかったわ。でも、このままじゃまた襲われるかもって、皆で、別の場所に移る準備をしてた」


「村を、移る?」


「昔から、そうやって点々としてきたんだって。……それでね、私」


 少しの沈黙。それから、意を決したように。


「私、村を、出てきたわ」


 思わず、息をのんだ。次の言葉が、とっさには継げなかった。


「お父さんが、付いて来るのも来ないのも好きにしていいって。だから――」


 フルメアは席を立ち、ラーメルトの前に立って、見上げた。


「一緒に、いさせて」


 胸に、顔を埋めてくる。その体は、小刻みに震えていた。

 ラーメルトは、そっと抱きしめ、静かに言った。


「お気持ちは、嬉しいのです。……ただ、胸のうちが、少し、込み入っていまして」


 フルメアの体が、大きく震える。


「お断りする、という意味ではありません。ただ――年頃の娘が、素性もよく知らぬ男の家に住むのは、許したとはいえ、ご両親としては、心配でしょう」


 少し引き離すと、その顔は、涙で崩れかけていた。ラーメルトは、その涙を、そっと拭った。


「ですので――村でなくてもいいので、今度、ご両親にお会いしても、よろしいでしょうか」


 フルメアは、もう一度抱きついて、


「……うん」


 と、短く答えた。


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