決意
「私、悪くないよね!? ね!?」
立ち上がり、胸元を掴んで顔を寄せてくるフルメアを、ラーメルトはなんとか宥め、席へ座らせた。潤んだ瞳、紅潮した頬。酔っていなければ、と場違いなことを思う。
――フルメアと酒場に来るときは、自分もエールを飲まないこと。固く、固く、誓う。
だが今回は、二杯目に手を伸ばしかけたフルメアの手を、ラーメルトが押さえた。
「もう、おしまいです」
「えー……」
不服そうに口を尖らせながらも、フルメアは素直に手を引いた。前の二度とは、違う。潰れる寸前で、踏みとどまったのだ。ほんの少しだけ――大人になったのかもしれない。
そのささやかな成長に、ラーメルトは、そっと目を細めた。
◇
酒場を出ると、宿はどこも満室であった。式典で、旅の客が溢れているのだという。
仕方なく、ラーメルトは酔いの残るフルメアを連れて、自分の家へ帰った。フルメアの魔結晶で明かりを灯し、椅子に座らせ、白湯を淹れる。少し落ち着いた頃、フルメアが、ぽつりと切り出した。
「あのね。……村に帰って、話を聞いて回ったの。結局、襲った連中のことは、わからなかったわ。でも、このままじゃまた襲われるかもって、皆で、別の場所に移る準備をしてた」
「村を、移る?」
「昔から、そうやって点々としてきたんだって。……それでね、私」
少しの沈黙。それから、意を決したように。
「私、村を、出てきたわ」
思わず、息をのんだ。次の言葉が、とっさには継げなかった。
「お父さんが、付いて来るのも来ないのも好きにしていいって。だから――」
フルメアは席を立ち、ラーメルトの前に立って、見上げた。
「一緒に、いさせて」
胸に、顔を埋めてくる。その体は、小刻みに震えていた。
ラーメルトは、そっと抱きしめ、静かに言った。
「お気持ちは、嬉しいのです。……ただ、胸のうちが、少し、込み入っていまして」
フルメアの体が、大きく震える。
「お断りする、という意味ではありません。ただ――年頃の娘が、素性もよく知らぬ男の家に住むのは、許したとはいえ、ご両親としては、心配でしょう」
少し引き離すと、その顔は、涙で崩れかけていた。ラーメルトは、その涙を、そっと拭った。
「ですので――村でなくてもいいので、今度、ご両親にお会いしても、よろしいでしょうか」
フルメアは、もう一度抱きついて、
「……うん」
と、短く答えた。




