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世界は見たままの姿をしているか?  作者: 古代羊
第一章 魔術師失踪事件
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食い違う記録

 家に帰り着いたラーメルトは、鞄を放り、寝台へ倒れ込んだ。

 ――ヴォルトローネ。

 書庫にも、国中の資料にもないはずのその名を、父だけが「聞いたことがある」と言った。あれは、どこで。

 考えても、答えは出ない。問いの輪郭が、じわりと滲んでいく。まぶたの重みに抗えず、ラーメルトはそのまま眠りに落ちた。


◇


 翌日、ラーメルトは魔術学院の書庫へ向かった。式典の準備で、国の施設は一部が立ち入り禁止になっていたが、宮廷魔術師の令息であり、此度の一件を父より直々に命じられた者だと告げると、書庫の使用は許された。

 調べたいのは三つ。純魔結晶(ブランク)、ヴォルトローネ、そして――カーデルクス。


 魔結晶に関する資料は、思いのほか少なかった。大半が、大戦後に冒険者が持ち帰った際の報告である。その中に、純魔結晶(ブランク)の記述もあった。ただし、色は――紅ではなく、薄く碧みがかったもの、とある。

 ヴォルトローネの、あの血のような紅とは、違う。

 やはり、あの女の作り方は、記録に残る純魔結晶(ブランク)とは、別物なのだ。ラーメルトは、そう判断せざるを得なかった。


 次に、カーデルクス家。

 建国記に、その名はあった。魔法大戦の戦犯として処刑された家系、と。だが同じ頁の、少し先。付与魔術師の家系が、大戦の混乱の中で群衆に虐殺された、という記述も見つかる。

 ――処刑と、虐殺。

 同じ家のことを語っているはずなのに、言葉が、ふたつある。国が裁いた「処刑」と、群衆が手を下した「虐殺」は、本来、別のものだ。どちらが本当なのか。あるいは――どちらも、半分だけ本当なのか。

 ラーメルトは、その食い違いを、記憶の隅に留めた。今は、それ以上を知る術がない。


 最後に、ヴォルトローネ。

 名前としても、家名としても、どこにも載っていなかった。他国の人間か。あるいは、記録ごと、消された家か。

 ――父は、どこで、この名を。

 問いだけが、また、残った。ラーメルトは書物を閉じ、書庫を後にした。


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