しばしの休息を
部屋に、傷だらけのラーメルトが入ってくる。気づいたレオンハイトと、そして――退避の途中でレオンハイトが連れ戻したという、あの道案内の男が駆け寄り、両肩を貸して、床へ寝かせた。
隣には、フルメアとエノアが横たわっている。ふたりとも、眠っているが、無事のようだ。
――フルメアの、腕の傷が塞がっている。
ラーメルトが訝ると、レオンハイトが、疲れた顔で答えた。
「あの祭壇の部屋じゃあ、魔素が枯れてて、神聖術が発動しなかったんだよー。……あの、火の魔法のせいでねー。だから、一度この部屋まで運んで、応急手当だけして。魔素の戻ってきた頃合いを見て、ようやく治せたんだー」
なるほど。あの火焔球が、皮肉にも――と、ラーメルトは思う。破壊のために魔素を奪った魔法が、奇跡の手を、一時、縛っていたのだ。
ふたりの寝息を確かめた途端、張り詰めていた糸が、ふつりと切れた。体に、どっと重みがのしかかる。レオンハイトと男に礼を言い、そのまま、目を閉じた。
◇
再び目を覚ますと、眠っている間に、レオンハイトが裂けた傷を塞いでくれていた。痛みと疲労は残るが、体は動く。すぐ間近に顔があった。滲んだ視界が、フルメアの輪郭を結んでいく。その瞳が、今にもこぼれそうに揺れていた。
肘をついて起きようとした、その体に、フルメアが抱きついてきた。力が入らず、そのまま倒される。馬乗りになったフルメアが、ラーメルトの胸に頭を預けてきた。
「色々と……すみませんでした」
フルメアは顔を上げず、静かに首を振った。
「無事で、良かった……」
もう一度、その頭を撫でながら、ラーメルトは詫びた。
「んんっ、ごほん」
レオンハイトの、わざとらしい咳払い。
「とりあえず、ここを早く出たいのだけどー……良いかなー?」
いつもの調子だ。傍らにエノアが立ち、あの男が入口の方に控えている。――ラーメルトは、人数が足りないことに気づいた。
「四人で、来たのでは?」
「エリヴィラは、気がついたらいなくなっていたわ。レオンハイトは、何か知ってるかもだけど……」
エリヴィラ。知らない名だ。
ラーメルトが問うと、レオンハイトはびくりと硬直し、顔を引きつらせて首を振った。
「し、知らない。何も言わずに、立ち去っていったよー。聞こうとしたら、睨まれたんだよねー。ねー?」
入口の男に同意を求める。男も、体を震わせて頷いた。
「は、はい。『もう大丈夫でしょう』とだけ言い残して……」
片がついたのを見届けて、ひとりで発ったのか。よほどの手練だったのだろう。ラーメルトは、見ぬ恩人に、そっと感謝を捧げた。
それから、入口の男へ向き直る。
「そういえば――お名前を、聞いていませんでしたね」
「申し遅れました。……ディート、と申します」
ラーメルトは、その名を胸に刻んだ。
ディートのことは、ドルフェンへ帰すと決めた。エリヴィラが「嘘はついていない」と言い、レオンハイトもそれを保証した。最奥部に立ち入ったことのないこの男に、直接の関与はない。知り得た限りのことは、既にこの場で聞き取り、書き留めてある。あとは父への報告に添えればいい。その弁護は、ラーメルトが引き受けるつもりだった。
「では――準備と体力が整い次第、出発しましょう」




