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世界は見たままの姿をしているか?  作者: 古代羊
第一章 魔術師失踪事件
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しばしの休息を

 部屋に、傷だらけのラーメルトが入ってくる。気づいたレオンハイトと、そして――退避の途中でレオンハイトが連れ戻したという、あの道案内の男が駆け寄り、両肩を貸して、床へ寝かせた。

 隣には、フルメアとエノアが横たわっている。ふたりとも、眠っているが、無事のようだ。

 ――フルメアの、腕の傷が塞がっている。

 ラーメルトが訝ると、レオンハイトが、疲れた顔で答えた。


「あの祭壇の部屋じゃあ、魔素が枯れてて、神聖術が発動しなかったんだよー。……あの、火の魔法のせいでねー。だから、一度この部屋まで運んで、応急手当だけして。魔素の戻ってきた頃合いを見て、ようやく治せたんだー」


 なるほど。あの火焔球(ファイアボール)が、皮肉にも――と、ラーメルトは思う。破壊のために魔素を奪った魔法が、奇跡の手を、一時、縛っていたのだ。

 ふたりの寝息を確かめた途端、張り詰めていた糸が、ふつりと切れた。体に、どっと重みがのしかかる。レオンハイトと男に礼を言い、そのまま、目を閉じた。


◇


 再び目を覚ますと、眠っている間に、レオンハイトが裂けた傷を塞いでくれていた。痛みと疲労は残るが、体は動く。すぐ間近に顔があった。滲んだ視界が、フルメアの輪郭を結んでいく。その瞳が、今にもこぼれそうに揺れていた。

 肘をついて起きようとした、その体に、フルメアが抱きついてきた。力が入らず、そのまま倒される。馬乗りになったフルメアが、ラーメルトの胸に頭を預けてきた。


「色々と……すみませんでした」


 フルメアは顔を上げず、静かに首を振った。


「無事で、良かった……」


 もう一度、その頭を撫でながら、ラーメルトは詫びた。


「んんっ、ごほん」


 レオンハイトの、わざとらしい咳払い。


「とりあえず、ここを早く出たいのだけどー……良いかなー?」


 いつもの調子だ。傍らにエノアが立ち、あの男が入口の方に控えている。――ラーメルトは、人数が足りないことに気づいた。


「四人で、来たのでは?」


「エリヴィラは、気がついたらいなくなっていたわ。レオンハイトは、何か知ってるかもだけど……」


 エリヴィラ。知らない名だ。

 ラーメルトが問うと、レオンハイトはびくりと硬直し、顔を引きつらせて首を振った。


「し、知らない。何も言わずに、立ち去っていったよー。聞こうとしたら、睨まれたんだよねー。ねー?」


 入口の男に同意を求める。男も、体を震わせて頷いた。


「は、はい。『もう大丈夫でしょう』とだけ言い残して……」


 片がついたのを見届けて、ひとりで発ったのか。よほどの手練だったのだろう。ラーメルトは、見ぬ恩人に、そっと感謝を捧げた。

 それから、入口の男へ向き直る。


「そういえば――お名前を、聞いていませんでしたね」


「申し遅れました。……ディート、と申します」

 ラーメルトは、その名を胸に刻んだ。

 ディートのことは、ドルフェンへ帰すと決めた。エリヴィラが「嘘はついていない」と言い、レオンハイトもそれを保証した。最奥部に立ち入ったことのないこの男に、直接の関与はない。知り得た限りのことは、既にこの場で聞き取り、書き留めてある。あとは父への報告に添えればいい。その弁護は、ラーメルトが引き受けるつもりだった。


「では――準備と体力が整い次第、出発しましょう」


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