空になった器
勝ち誇ったヴァルーカの詠唱が完了すると、その眼前で――大爆発が起こった。
ヴァルーカの、手の中で。
凄まじい熱と衝撃が、離れたラーメルトすら襲う。後方へ吹き飛ばされ、背中から壁に叩きつけられ、肺の空気を一気に押し出される。
「ぐっ!!」
前のめりに倒れ、額を打つ。熱く、ぬめるものが垂れる。全身が、悲鳴を上げていた。――痛い。痛いということは、まだ死んでいない。
四肢を確かめ、刀を杖に立ち上がる。頭に霞がかかり、視界も思考も、ひとつの像を結ばない。あの至近で純爆発を――いや。
追撃が、来ない。詠唱も、声も、聞こえない。
ラーメルトはよろめきながら顔を上げた。
――ヴァルーカと、男たちの姿がない。
痛む体を引きずり、魔法陣の中央へ近づく。台座は砕け、陣は削れている。
そして、そこに、三人は倒れていた。ひと目でわかるほどの、瀕死の傷を負って。男たちに至っては、どこまでが元の姿だったのか、もう判じようもない。ヴァルーカも、生きているのかすら、わからない。
だが――爆発は、陣の中央ではなく、ヴァルーカの手の中で起きていた。ヴァルーカを内側から焼き、男たちを爆発へ巻き込んだ傷が、それを物語っている。
ラーメルトは、ヴァルーカのそばに膝をついた。かすかに、声が聞こえた。
「……ぜ……。ヴォルト……ロー……さ……」
言い終えるより早く、その体から、力が抜けた。
ラーメルトは、遺体を検めた。手の中に、魔結晶はない。あるのは、粉々に砕けた石の破片だけ。腰の袋を探ると、もうひとつ――今は光を失い、ただの石となった、紅い純魔結晶があった。
と、そのとき。
道案内をさせた、あの男が伝えた司祭の言葉が、ようやく意味を結んだ。
――空になった器に、術は還る。
最後の魔法。ヴァルーカは、器の底を覗かなかった。怒りのあまり、覗き忘れたのだ。空の器では、術式は起動しない。だが、残る魔素を超える術を完成させれば、器が尽きた瞬間、行き場を失った術は――注いだ者へ、還る。
彼が誰よりも恐れ、だからこそ一度たりとも欠かさなかった、あの一瞥。それを、最後の一度だけ、怒りが奪ったのだ。
フルメアの持つ、淡く澄んだ石とは、まるで違う。血の色をして、血の臭いのする、おぞましい石であった。ラーメルトは砕けた石を腰の袋へ戻し、袋ごと遺体から外して、懐へ収めた。
カーデルクスの作り方と、この作り方は、同じなのか。違うと信じたい。だが、今はそれを問う時ではない。
フルメアは、無事だろうか。
ラーメルトは、痛む体を引きずって、部屋へと戻り始めた。




