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世界は見たままの姿をしているか?  作者: 古代羊
第一章 魔術師失踪事件
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空になった器

 勝ち誇ったヴァルーカの詠唱が完了すると、その眼前で――大爆発が起こった。

 ヴァルーカの、手の中で。

 凄まじい熱と衝撃が、離れたラーメルトすら襲う。後方へ吹き飛ばされ、背中から壁に叩きつけられ、肺の空気を一気に押し出される。


「ぐっ!!」


 前のめりに倒れ、額を打つ。熱く、ぬめるものが垂れる。全身が、悲鳴を上げていた。――痛い。痛いということは、まだ死んでいない。

 四肢を確かめ、刀を杖に立ち上がる。頭に霞がかかり、視界も思考も、ひとつの像を結ばない。あの至近で純爆発(エクスプロージョン)を――いや。

 追撃が、来ない。詠唱も、声も、聞こえない。

 ラーメルトはよろめきながら顔を上げた。

 ――ヴァルーカと、男たちの姿がない。

 痛む体を引きずり、魔法陣の中央へ近づく。台座は砕け、陣は削れている。

 そして、そこに、三人は倒れていた。ひと目でわかるほどの、瀕死の傷を負って。男たちに至っては、どこまでが元の姿だったのか、もう判じようもない。ヴァルーカも、生きているのかすら、わからない。

 だが――爆発は、陣の中央ではなく、ヴァルーカの手の中で起きていた。ヴァルーカを内側から焼き、男たちを爆発へ巻き込んだ傷が、それを物語っている。

 ラーメルトは、ヴァルーカのそばに膝をついた。かすかに、声が聞こえた。


「……ぜ……。ヴォルト……ロー……さ……」


 言い終えるより早く、その体から、力が抜けた。

 ラーメルトは、遺体を検めた。手の中に、魔結晶はない。あるのは、粉々に砕けた石の破片だけ。腰の袋を探ると、もうひとつ――今は光を失い、ただの石となった、紅い純魔結晶(ブランク)があった。

 と、そのとき。

 道案内をさせた、あの男が伝えた司祭の言葉が、ようやく意味を結んだ。


 ――空になった器に、術は還る。


 最後の魔法。ヴァルーカは、器の底を覗かなかった。怒りのあまり、覗き忘れたのだ。空の器では、術式は起動しない。だが、残る魔素を超える術を完成させれば、器が尽きた瞬間、行き場を失った術は――注いだ者へ、還る。

 彼が誰よりも恐れ、だからこそ一度たりとも欠かさなかった、あの一瞥。それを、最後の一度だけ、怒りが奪ったのだ。

 フルメアの持つ、淡く澄んだ石とは、まるで違う。血の色をして、血の臭いのする、おぞましい石であった。ラーメルトは砕けた石を腰の袋へ戻し、袋ごと遺体から外して、懐へ収めた。

 カーデルクスの作り方と、この作り方は、同じなのか。違うと信じたい。だが、今はそれを問う時ではない。

 フルメアは、無事だろうか。

 ラーメルトは、痛む体を引きずって、部屋へと戻り始めた。


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