祭壇への道
「ぐっ……」
背後からの爆風に吹き飛ばされる。それでも辛うじて受け身を取り、転がる勢いのまま部屋の外へ身を投げ出した。掠り傷ひとつ、負っていない。
立ち上がり、最奥部の方へ向き直る。
――あの部屋の魔素は、枯渇寸前だったはず。なのに、純爆発。空間魔素が足りずとも、純魔結晶があれば、魔法は撃てるのか。
ふと、洞穴の男の言葉が蘇った。
――空になった器に、術は還る。
器。空になった。……何かが、繋がりかけた。
だが、詰めている暇はない。ここもいつゴブリンが来るとも知れぬのだ。
周囲を確かめ、ラーメルトは考えた。ヴァルーカとあの女は、どうやって祭壇へ上がった。最奥部の部屋に、それらしき階段はなかった。とすれば、道は魔術師か、あの女の私室にある。誰でも立ち入れる場所には、作るまい。
一か八か、ラーメルトは手前の部屋へ駆け込んだ。生活感のない、殺伐とした部屋である。どちらの部屋かは、判じようがない。だが奥に、もう一部屋。人ひとりが通れる穴が、口を開けていた。
弓を背へ回し、短剣を抜く。狭い通路では、こちらの方が扱いやすい。
――が、穴の中は、暗い。何も見えぬ。ゴブリンに気づかぬまま鉢合わせては、命がない。
ラーメルトは鞄から、フルメアの魔結晶を取り出した。まさか、ここで役立つとは。
「光」
結晶が、光を放つ。――強すぎる。この明かりでは、祭壇の出口で待ち伏せされたら、いい的だ。フルメアの言葉を思い出し、精神を凝らして、ぎりぎりまで光を絞る。光は、指先のわずかな力みにも過敏に応える。息を殺し、汗ばむ手で、宥めるように魔力を細めていく。――やはり、書物だけでは届かない領域だ。
蝋燭一本ほどの明かりに落とし、穴を進む。分かれ道に出た。右へ。
しばらく進むと、前方に明かりが見えた。魔結晶の光を消し、覗く。
「違いましたか……」
魔導書の並ぶ、ヴァルーカの部屋であった。戻ろうとして――部屋の隅に、見慣れた影を見つけた。
「私のではないですか。ここに、あったのですね」
黒い刀身の刀であった。鞘を払うと、手の内にすとんと重心が落ちた。この重さを、掌が覚えている。
――帰ってきた。
刀を背負い、弓と短剣を握り直す。分岐まで戻り、今度は真っ直ぐ。上り坂になってきた。この先が、祭壇だ。
奇襲は、成るまい。だが今は、この手しかない。ラーメルトは短剣を握る手に、力を込めた。




