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世界は見たままの姿をしているか?  作者: 古代羊
第一章 魔術師失踪事件
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司祭の魔結晶

 隣室の入口から、通路を覗く。ゴブリンが、群れをなして移動していた。


「あちらは、入口の方だと思います」


 入口。さきほどのゴロツキの声への、出迎えか。それにしては、数が多すぎる。

 ラーメルトは、男へ問いを続けた。


「ここにいる人間は、全員が、あの首飾りを?」


「いえ。連れてこられた人は、持たされません。代わりに、部屋の入口に札のかかった個室へ、入れられます」


 逃げられぬよう除けは持たせず、しかし放っておけばゴブリンに食われる。だから、部屋の側に札を。――つまり、連れてこられた者たちは、理由があって「生かされて」いる。生きたまま、最奥部へ運ぶ必要が、あるのだ。


「魔術師と、その司祭様は?」


「わかりません。ですが、おふたりはゴブリンと話せますので、要らないのかも……」


 会話ができるからといって、妖魔が従う道理はない。何か、仕掛けがある。

 それより――。ラーメルトは、鞄から魔結晶を取り出し、男の眼前へ突きつけた。


「あなたは、これを『司祭様の』と言いましたね。どういうことです」


「一度……これと同じものを、司祭様がお持ちなのを、見ました。手に取ったわけではありませんが……同じものだと、思います」


 嘘の気配は、ない。だが、なぜ司祭が、フルメアと同じ結晶を?

 冒険者の拾い物との、見間違いか。現物を見ぬことには、判じようがない。この状況で、迂闊な結論は毒だ。ラーメルトはその考えを、一度、頭から棄てた。

 結晶を鞄へ戻し、再び武器の山へ向かう。


◇


 一方、ゴロツキを先頭に進んでいたフルメアたちは、洞穴の奥から響く多数の足音に、警戒を強めていた。

 やはり、あの大声で気づかれた。フルメアは、前を行く背中を忌々しく睨む。


「多分あいつ、何かを呼んでる」


 小声で告げると、エノアも剣を握り直した。足音が、近づく。


「きたわ!」


 前方に、ゴブリンの群れ。松明に照らしきれぬほどの数である。この狭い通路で、全部は、相手にできない。振り返ると――後方では、既にエリヴィラが、数体を地に沈めていた。


「挟み撃ち?! どこから現れたの!?」


 挟撃のゴブリンを片づけ、一息ついたエリヴィラが、ゴロツキを指差した。


「前からは来ない理由が、あるわねー。その男、何か隠してる気がするわー」


 言われてみれば、前方のゴブリンは威嚇するばかりで、一定の距離を保ったまま、襲ってこない。


「レオンハイト、その男が何か持ってないか調べて!」


 叫んだ瞬間、ゴロツキが駆け出した。走る先のゴブリンたちが、何かに弾かれるように割れていく。三人が後を追う。――が、フルメアの背後から、気配がついてこない。振り返れば、エリヴィラは、ゴブリンの群れに囲まれていた。


「追いかけなさい。後で行くわー」


 群れの中から、いつもの声。エリヴィラなら、きっと大丈夫。フルメアは「後で来てね!」と叫び、前の二人を追った。

 だが、洞穴は想像以上に入り組んでいた。造りを知り抜いた者に、追いつけるはずもない。レオンハイトとエノアはゴロツキを見失い、遅れて追いついたフルメアは、両膝に手をついて肩で息をした。


「あの方は、大丈夫だと思いますがー……ここに立っていては、いつ襲われるかもわかりませんねー。どこか、安全な場所を」


 通路の先、部屋のような入口がいくつか並んでいるのが見えた。

 ひとつめは、空。ふたつめは、争った形跡と、乾いた血痕。そして、みっつめ――入口に、札がかかっていた。

 レオンハイトは、その札から、異様な禍々しさを感じて顔をしかめた。紋様に、どこか見覚えがある気もする。中は、卓代わりの岩と、椅子代わりの岩。隅に、誰かの荷物が無造作に積まれているほかは、不審な点もない。

 三人は部屋に入り、中央の岩を入口へ動かして、簡易の障害物とした。


「これで一気には入られませんが……逃げづらくも、なりましたねー」


 この部屋に、他の出口はない。追っていたはずが、追い込まれた形である。

 落ち着かず歩き回るフルメア。そのフルメアを目で追っていたエノアが――部屋の隅の荷物の山に、目を留めた。

 見覚えのある、鞄。

 手に取った指先が、震えた。呆然と、立ち尽くす。声が、うまく出てこない。


「これ……私の、荷物です……」


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