空の上で、測り続ける
今は、どちらにも連れていかれず、自分で考える時間がほしい。
エノアは遺跡周辺で聞いた女性の声を思い返した。答えるまでの間も、声になった言葉も、ここで自分が聞いたものだった。女性と最寄りの兵、信徒を見てから、手元の紙へ視線を下ろす。
この声を、ほかの人から聞いた話に紛れさせたくなかった。
最初の面会には、エノアはいなかった。女性が自ら二人の前へ現れたことや、そのときの会話は、ラーメルトとフルメアから聞いている。二人の名を添えて、その面会を記した。
そこを離れたという話は、別の人から四人が聞いた証言だ。さらに別の現地の者から、特徴の合う人物を空側遺跡周辺へ向かう側で見たとも聞いた。その場で本人だと分かった話ではない。
エノアは行を分けた。遺跡周辺へ来てから、四人で女性本人の姿を見た。これには、自分も居合わせている。いま目の前にいることまでを記し、そこへ来た理由は足さなかった。
紙に残すと、同じ女性についての話でも、自分の目で見たことと、誰かの目を通して聞いたことが離れて見えた。
少人数の兵と信徒が、近くで警戒し合い、声を強めていたことは見聞きした。呼びかけに応じた最寄りの二人とは、話している間、距離を詰めずに言葉を交わせた。
兵から聞いた接近への警戒。信徒から聞いた、本人の意思を無視して連れていくことへの懸念。エノアはそれぞれの話し手を分けて残す。周囲にいる人々の全員が、同じ言葉を述べたわけではなかった。
そして、女性本人の希望。
エノアはその言葉を書き留めた。自分で考える時間を望んでいる。聞いた後、最寄りの二人はすぐに女性へ近づかず、連れていこうともしなかった。話に応じた二人の声も、その場では重ならなくなった。
「今、この場で」と添える。本人の言葉が届いたことは残したい。けれど、それをこの先の安全まで約束する言葉にはできない。
兵と信徒がなぜ向き合っていたのか。対立がこれからどうなるのか。女性の所属も、今後の行先も、まだ分からない。
書いた行の下に余白が残った。エノアはそこを眺めてから、もう一度女性と二人へ目を向ける。いま見えている姿を、紙にない答えにしなかった。
確かめられたことがある。その隣に、まだ確かめられないことがある。
空側で、ここまでが今わかっている範囲である。
そう記して、余白を残したまま筆を置いた。




