問いを閉じる声
フルメアとの会話の後も、女の中には問いが残っていた。
あなたが好きなものは、何。楽しいと思うものでもいい。
今は答えなくてもいいと言われたのに、思い返すたび、その言葉の後ろに何かを続けようとしてしまう。けれど、具体的なものの名は浮かばなかった。
女は袖に触れていた指を止め、そばにいる一人へ顔を向けた。口を開きかけ、いったん閉じる。何を尋ねたいのか、自分でもまだうまく言えない。答えを教えてほしいのか、それとも、胸に残っている言葉を誰かに聞いてほしいのか。
相手へ向き直り、息を吸った。
「わたしは、何を好きなのかしら」
声にしてみると、フルメアから聞いたときとは違って響いた。自分について尋ねている。その先に置く答えはないまま、女は相手を見た。
相手もこちらを見ていた。女は言い直さず、返事を待った。
「その話は、ここまでにしておきましょう」
続きはなかった。理由を告げる言葉もない。相手の視線が女から離れ、向き合っていた姿勢が戻っていく。
女はもう一度、口を開きかけた。何か答えてもらえたわけではなかった。なぜここまでなのかと尋ねる言葉も、喉元まで浮かんだ。
けれど、声にはしなかった。唇を閉じ、袖に触れていた指を離す。相手へ向けていた顔も戻した。
どちらも次の言葉を足さず、会話はそこで区切られた。
女は、自分の指先へ目を落とした。
話すのをやめれば、口にした問いも遠ざかるのだろうか。そう思ってみても、「好きなもの」という言葉は胸に残っている。
何も答えられなかったことが気になった。何かを言うために名を挙げようとしても、それが自分の答えだと思えるものは出てこない。声にはしなかったが、考えることまで終わったわけではなかった。
「あなたが」と言ったフルメアの声を思い出す。誰かの好きなものではなく、自分のことだった。
女は顔を上げた。相手へ問いを重ねることはしない。そのまま、自分の内側に残っている言葉へ耳を澄ませた。
わたしは、何を望むのだろう。
答えはまだなかった。会話が終わっても、その問いは消えていなかった。




