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あなたの好きなもの

 フルメアには、ラーメルトが話してくれた女性へ尋ねてみたいことが一つあった。紅い瞳も聞いた言葉も、まだ彼からの話でしか知らない。本人を前にしたら、まずその人自身を見ようと思っていた。

 ラーメルトと並んでいると、女性が二人の方へ歩いてきた。フードの下から紅い瞳が見える。ラーメルトが足を止め、フルメアも動きを止めた。


「……あなたでしたか」


 女性は彼を見て、それからフルメアへ目を向けた。ラーメルトの短い説明で、前に会った人だと分かる。だが、どうして来たのかは分からなかった。

 聞けば答えてもらえるかもしれないことが、いくつも浮かぶ。フルメアはそれをすぐ問いにせず、相手の顔へ視線を戻した。

 一歩前へ出ると、女性の目が動きを追った。そこで足を止め、息を整える。


「あなたとも、話していいかしら」


「ええ」


 返事は短かった。どこから来たのか、何を知っているのか。そう聞けば、分からないことへの答えを求める話になる。フルメアが今知りたかったのは、別のことだった。


「あなたが好きなものは、何?」


 女性はすぐには答えなかった。ラーメルトも口を挟まない。

 いきなり聞かれて困ったのだろうか。フルメアは同じ問いを、少し受け取りやすい形にした。


「楽しいと思うものでもいいわ」


 女性はフードの縁に指をかけたまま、こちらを見ている。答えを探しているかどうかも、その目からは分からない。フルメアは次の質問で沈黙を埋めず、待った。


「わたしが、好きなもの?」


「ええ。あなたが」


 女性の唇がかすかに開き、また閉じた。その声が、フルメアの耳に残る。


「今、答えなくてもいいわ」


 女性はフルメアを見た。フードの縁をつまんでいた指が離れる。フルメアはそれ以上尋ねず、返事のない間をそのままにした。隣へ目を向けると、ラーメルトも声を差し挟まなかった。


   ◇


 好きなもの。

 女は顔を下げ、今聞いた言葉を心の中に置いてみた。楽しいと思うもの。それを自分のこととして言おうとすると、続きが見つからない。

 何かが浮かびかけても、一つの名にはならなかった。答えのない間が過ぎても、フルメアは別の答えを求めてこない。

 フードから離れた指を見て、それから顔を上げた。フルメアがこちらを見ていて、隣にはラーメルトがいる。

 「あなたが」という声が残っていた。誰かのことではなく、自分に向けられた言葉だった。


「……好きなもの」


 口にすると、少し違って聞こえた。相手に返す答えを探すだけだった言葉が、自分へ向く。その後ろに続ける具体的なものは、まだない。

 女は口を閉じた。答えられないのに、問いの方は消えなかった。

 わたしは、何を好きなのだろう。

 何を望むのだろう。

 まだ答えを持たないまま、初めて自分自身へ問いを向けた。



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