名を記して働く
王都での審理に臨み、フルメアは王の前に置かれた記録を見た。グレインが示し、四人で一部を確かめたカーデルクス家の公的記録だ。そこに家名を見つけたときの胸の詰まりを、いまも覚えていた。
「今日は、過去のすべてを明らかにする場ではない。いまの王権として、カーデルクス家への従来の処遇をなお続けるべきか――その根拠を確かめる」
王の言葉を聞き、フルメアは顔を上げた。過去を知りたいという問いも、現在の自分が家の名を名乗って働きたいという願いもある。今ここで尋ねられているのは、後者に関わる扱いだった。
グレインが、参照できる記録の範囲を示した。過去の判断と処分は記されている。だが、旧来の不利益な扱いを今後も維持するために必要な事実関係については、現存する記録だけでは十分確かめられない部分があると述べた。
四人が直接確認した内容も求められ、まずラーメルトが読んだ範囲を説明した。エノアもメモを頼りに、目を通した記載と未確認の点を整理して述べた。レオンハイトも、自分たちが確かめた事実について言葉を継いだ。
フルメアは仲間の声が終わるのを待ち、自分の言葉を探した。
「私が今作っているものについてなら、私自身が話せます。北では、その明かりを目印へ当てて使いました」
あの夜の杭を思い出した。照らし出した場所をラーメルトが確かめ、声を上げたのだ。自分の仕事として話せることはある。けれど、その実績から家の過去を証明することはできなかった。
「それで、昔の誰かの行いまで知っているとは言いません。ただ、私がこの家の名を名乗って働くことまで、昔の判断のまま妨げられるのでしょうか」
声にすると、胸の内にあった問いが王の前へと出た。家の名を外して技だけを話すのでも、技を理由に過去を消してほしいと願うのでもない。ただ、今の自分が受ける扱いについて、答えがほしかった。
王はフルメアへ向き直り、静かに口を開いた。
「過去の裁定に至るすべての事実も、祖先たちの行いのすべても、ここで明らかになったとは言わぬ」
フルメアは息を吸った。もっと確かな答えを聞きたいという望みは残る。だが、それだけを求めて、次の言葉を聞き落としたくなかった。
「そのうえで、現在の王権として断を下す。いま確かめられる記録と証言からは、カーデルクス家への旧来の不利益な処遇を、このまま保ち続けるだけの根拠は認められぬ。余は、その処遇を維持せぬ」
重ねていた指が、わずかに動いた。維持せぬ――過去のすべてが覆ったのではない。けれど、いままでと同じ不利益な扱いは続けない、という判断だった。
「そちは今後、カーデルクスの名を公に名乗るがよい。その名を理由に、いま行っている仕事を妨げる扱いも、これよりは続けぬ」
グレインが今回の裁定として残す範囲を確かめ、短く記した。フルメアは筆が止まるのを見てから、ラーメルトたちへ顔を向けた。三人が先に声を出すことはなかった。
「フルメア・カーデルクスです」
自分で名乗った声を、自分の耳でも聞いた。もう一度説明を重ねようとは思わなかった。家の過去に残る問いは消えていない。それでも今の自分は、その名を脇へ置かずに、作ったものを自分の仕事として話せる。
北で使った明かりを思い浮かべ、フルメアは自分の手を見た。次にこの手で作るものにも、いま口にした名を添えられる。




