第六十五話 広がる評価①
数日後。
警察本部。
捜査二課。
詐欺事件の捜査。
神谷の姿は、いつもと変わらなかった。
静かに資料へ目を通し。
関係者の話を聞き。
ふと、手を止める。
「……この送金先」
短く口を開く。
「違う会社じゃない」
近くにいた刑事が顔を上げる。
「名義は違うけど」
一拍。
「住所がどれも存在しない」
その一言で。
部屋の空気が変わった。
調べ直した結果。
複数の会社には、共通する不自然な点が次々と見つかった。
事件は、一気に前へ進んだ。
⸻
その日の夕方。
捜査二課。
書類を片付けながら、一人の刑事が口を開く。
「神谷さん、すごかったですね」
「本当にな」
「最初は探偵みたいな人が来るって聞いて、正直どうなんだろうって思ってましたけど」
「俺も」
少し笑う。
「でも、ちゃんと周りも見えてる」
「押しつける感じもないし」
「やりやすかったな」
「また一緒にやりたいですね」
その言葉に。
二課長の橘は、小さく口元を緩めた。
(……なるほど)
三課だけじゃない。
二課でも同じ。
なら。
もう偶然じゃない。
神谷自身の力だ。
⸻
数週間後。
警察本部。
廊下。
「聞きました?」
「神谷さん、今度は一課でも結果出したらしいですよ」
「二課でも評判よかったらしい」
「もうどこの課でも呼ばれそうだな」
「最初に一人で行かせたの、七沢課長だったらしいぞ」
「へえ」
「じゃあ、見る目あったってことか」
噂は、少しずつ広がっていく。
⸻
捜査三課。
デスクで書類を確認していたありすの耳にも、その声が届く。
手は止めない。
表情も変わらない。
でも。
(……そう)
二課でも、一課でも。
ちゃんとやれた。
事件が解決したことは知っている。
気になっていたのは、その後だった。
初めて一人で送り出した日。
現場で受け入れてもらえるのか。
周りと連携できるのか。
それだけが少しだけ心配だった。
でも。
聞こえてくるのは。
千翠を認める声ばかり。
(……よかった)
千翠自身が。
ちゃんと評価されている。
その事実に。
胸の奥の小さな不安が、静かにほどけていった。
⸻
刑事部長室。
「失礼します」
部下が書類を差し出す。
「神谷特別捜査員ですが、一課での応援捜査も無事終了しました」
東條は書類に目を通す。
三課。
二課。
一課。
それぞれの報告書には、同じような評価が並んでいた。
――周囲との連携に問題なし。
――判断力良好。
――現場対応も良好。
東條は静かに書類を閉じる。
(……上手く使えてるようだな)
最初は。
扱いづらいと思われていた。
刑事でもない。
特別捜査員という立場。
だからこそ。
現場に馴染めるかが課題だった。
だが。
もう、その心配はない。
小さく息を吐く。
「今後も、必要があれば各課で派遣するよう伝えろ」
「はい」
短いやり取りだけ。
東條はもう一度、机の上の報告書へ視線を落とした。
三課だけではない。
二課でも。
一課でも。
同じ名前が、評価の中に出ている。
神谷千翠。
東條は静かに書類を閉じた。




