第六十ニ話 隠しきれない気配③
昼休み。
人気の少ない休憩スペース。
ありすは芹塚といつものように話していた。
缶コーヒーを片手に。
何気ない会話が続いていた。
ふと会話が途切れた瞬間。
芹塚が、ありすの顔を見る。
「で?」
「何かあった?」
ありすの手が、わずかに止まる。
「……」
視線を逸らす。
少しだけ、言いづらそうに。
「……昨日さ」
芹塚の目が、ほんの少し細くなる。
何かを察したような顔。
ありすは小さく息を吐く。
「東條部長に見られた」
芹塚がコーヒーを飲む手を止める。
「何を?」
少しだけ言いづらそうに。
「……手、繋いでたとこ」
一拍。
芹塚は数秒黙って。
「……そりゃ気まずいわ」
ありすは思わず肩を落とす。
「でしょ」
少し間。
芹塚が何気なく聞く。
「なんか言われた?」
「部長に呼ばれてたみたい」
「仕事に持ち込むなって」
「あと」
一拍。
「私が余計なことで評価を落とさないようにって」
芹塚がふっと笑う。
「ほら」
「やっぱり」
「……やっぱり?」
「東條部長ってそういう人」
「恋愛どうこうじゃなくて、仕事ちゃんとしろってだけ」
ありすは少しだけ安心したように息を吐く。
そこで芹塚が少しニヤッとする。
「でもさ」
「昨日だけじゃないよ」
ありすが首を傾げる。
「え?」
「橘」
「この前わざと距離詰めてた」
「……は?」
「神谷試してた」
「反応見るため」
ありすの思考が止まる。
(……知らなかった)
「で」
芹塚は笑う。
「見事に引っ掛かった」
「そんなに分かりやすかった?」
「うん」
即答。
「あんたは気付いてなかったみたいだけど」
「神谷、ずっと橘見てた」
ありすが頭を抱える。
「……最悪」
芹塚は楽しそうに笑う。
「いや、安心しな」
「仕事にはちゃんと集中してた」
「だから問題にはなってない」
一拍。
「でもね」
少しだけ真面目な顔になる。
「隠せてると思ってるの、あんたたちだけ」
「…………」
「東條部長は気付いてるでしょ」
「橘も知ってる」
「私はもちろん」
一拍。
「たぶん他にも何人か」
ありすが静かに額を押さえる。
「……そんなに?」
「そんなに」
即答。
「バレてないんじゃない」
「みんな言わないだけ」
「……なんで」
芹塚は肩をすくめる。
「仕事ちゃんとしてるから」
「そこ崩れてないなら、わざわざ首突っ込む人もいない」
一拍。
「でも」
「神谷、あんたのことになると分かりやすすぎ」
ありすは思わず笑う。
「……私も?」
芹塚は迷わず頷く。
「同じ」
「あんたも十分」
「お似合い」
「……芹塚」
照れ隠しみたいに睨む。
芹塚は笑いながら立ち上がる。
「ま」
「周りに気付かれてるのが嫌なら、もうちょっと頑張んな」
「でも私は今くらいの七沢の方が好きだけど」
二人は笑い合いながら、それぞれの課へ戻っていった。




