第四十七話 扱い方②
夕方。
捜査三課。
ありすはデスクに向かっていた。
手は動いている。
思考も、この前よりまともに回っている。
そのとき。
「七沢課長」
声がかかる。
顔を上げる。
そこに立っていたのは。
捜査一課の課長だった。
一瞬だけ、周囲の空気が変わる。
「……どうしました」
ありすは立ち上がる。
「少し、いいか」
短い。
ありすは頷く。
⸻
廊下。
人の少ない場所。
足を止める。
一拍。
一課長が口を開く。
「神谷の件だ」
直球。
ありすの表情は動かない。
「……何かありましたか」
形式的な返し。
でも。
中では、理解している。
来るべきものが来た、と。
一課長は小さく息を吐く。
「結果は出してる」
最初にそれを置く。
「そこは問題ない」
一拍。
「ただ」
少しだけ言葉を選ぶ。
「周りがついていけてない」
はっきり言う。
ありすは黙って聞く。
「共有がない」
「動きが読めない」
「指示系統も、曖昧になる」
一つずつ、並べる。
「……正直、現場がやりにくい」
結論。
重くはない。
でも。
軽くもない。
ありすは小さく息を吐く。
(……そうなるか)
予想通り。
でも。
実際に言葉にされると、重みが違う。
「……申し訳ありません」
短く言う。
一課長は首を振る。
「謝る話じゃない」
一拍。
「お前に任されてるのは分かってる」
事実の確認。
「だから来た」
それだけ。
責任の所在を、正しく置いている。
ありすは視線を少しだけ落とす。
考える。
数秒。
そして。
「……調整します」
はっきり言う。
一課長は頷く。
少しだけ、声のトーンが変わる。
「能力はある」
一拍。
「だから余計に難しい」
ありすは黙って聞く。
「一人で完結する仕事なら問題ない」
「だが、刑事は一人じゃ動けない」
一拍。
「周りが動けるようにするのも仕事だ」
静かな声。
「神谷はそこが抜けてる」
一拍。
「……あいつは、人に合わせることが苦手だ」
「だが、お前には合わせてる」
ありすの眉がわずかに動く。
「三課にいるときだけだ」
「お前の言葉なら、あいつは一度止まる」
「……だから、お前にしか頼めない」
ありすは小さく息を止める。
(……そう見えてたんだ)
自分では気づいていなかった。
千翠が、自分の言葉だけは聞いていること。
自分の前では、少しだけ立ち止まること。
それを。
周りの人間は、とっくに見抜いていた。
「頼んだぞ」
一課長はそのまま背を向けて去っていった。
⸻
廊下に、ありす一人。
静かになる。
数秒。
動かない。
(……扱い方、か)
小さく息を吐く。
分かっている。
(あいつは、悪気があってやってるわけじゃない)
(だから余計に難しい)
でも。
(……私がやるって決めた)
責任の位置を、もう一度確認する。
視線を上げる。
迷いはない。
(……仕事と私情、ちゃんと分けないと)
ただ。
少しだけ。
(……めんどくさいことになったな)
本音が混ざる。
それでも。
足は止まらない。
ありすは歩き出す。
向かう先は、決まっている。




