第二十五話 僅かなズレと大きな変化①
数日後。
現場。
規制線の向こうで、ありすは淡々と指示を出していた。
いつも通り。
問題なく回っている。
――はずだった。
(……静か)
一瞬だけ、そう思う。
何が静かなのか。
自分でも分からない。
(……いない)
違和感の正体に気づく。
千翠がいない。
それだけだった。
でも。
すぐに意識を戻す。
仕事中だ。
関係ない。
そう切り捨てる。
それでも。
視線の端で、無意識に探している。
あの距離も。
あの声も。
何もない。
(……静かすぎる)
小さく、違和感だけが残る。
「七沢」
橘の声で、思考が戻る。
「……なに」
一拍。
ほんの少しだけ遅れる。
橘はそれを見ている。
気づいている顔。
でも何も言わない。
「こっち、確認頼む」
「了解」
短く返して、動く。
余計なことは考えない。
そのまま仕事に集中する。
⸻
――終わり際。
部下たちの会話が、ふと耳に入る。
「最近さ、あの探偵、捜査二課の方にいるらしいぞ」
「え、マジ?」
「なんか詐欺の事件で呼ばれてるとか」
「へぇ……一課だけだと思ってたわ」
足が止まる。
無意識だった。
すぐに歩き出す。
(……そうなんだ)
それだけのはずなのに。
妙に、引っかかる。
(別に)
関係ない。
そう思うのに。
(……なんで)
理由が出てこないまま、残る。
⸻
帰り道。
静か。
いつもより、少しだけ。
(……何これ)
言葉にならない違和感。
近かったはずの距離が。
急に、現実から切り離されたみたいに遠い。
考えたくないのに。
一つだけ、心当たりがある。
(……いないからだ)
すぐに首を振る。
(違う)
(そんな理由じゃない)
すぐに打ち消す。
(……考えなくていい)
小さく息を吐く。
思考を止める。
でも。
完全には消えないまま。
夜が来る。




