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第十八話 言葉と距離②

 現場。


 規制線の外で、最後の確認が進んでいる。





「このあと近隣もう一件だけ当たる」



 ありすが橘に声をかける。



「了解」



 橘が短く返す。


 現場はほぼ片付いている。


 千翠の役割も、もう終わっている。



「神谷はもういいぞ」



 橘が言う。



「助かった」



 区切るように。


 千翠は、少しだけ頷く。



「うん」



 一拍。


 でも、動かない。


 ありすは地図を受け取りながら言う。



「じゃあ行ってくる」



 歩き出す。


 足音が、一つ。


 後ろで重なる。


 ありすは止まる。



「……なんでまだいるの」



 振り返る。


 千翠。



「行くんでしょ」



 当然みたいに言う。



「……行くけど」


「同行しても問題ないよね」



 軽い。


 決めつけでも頼みでもない。


 ありすが眉を寄せる。



「いや、あんたもう終わりでしょ」


「終わってるよ」



 即答。



「じゃあ帰れば?」



 一拍。


 千翠は少しだけ考える。



「帰ってもいいけど」



 視線をわずかに動かす。



「優先順位が高くない」



 静かに言う。


 ありすが一瞬言葉に詰まる。



(……何それ)



「いや、そういう問題じゃなくて」


「もう一件ならすぐ終わるでしょ」



 被せるわけでもなく、自然に続く。



「所要時間は変わらない」



 淡々とした事実。


 橘が小さく息を吐く。



「神谷」



 低く呼ぶ。



「お前、帰れって言われただろ」



 一拍。


 千翠は橘を見る。



「聞いた」



 短く。



「でも別に問題ないでしょ」



 視線が戻る。


 ありすへ。



「支障は出さない」



 余計なことは言わない。


 でも引かない。


 ありすが息を吐く。



(……やりにくい)



 拒否はできる。


 でも。



(理由が弱い)



「……勝手にすれば」



 投げるように言う。


 そのまま歩き出す。


 隣に、自然に足音が並ぶ。


 千翠。


 合わせたわけじゃない。


 でも、距離は近い。



(……なんでついてくるの)



 視線を逸らす。


 千翠が横で言う。



「前の続き」


「……は?」


「まだ終わってない」



 淡々と。


 ありすが眉を寄せる。



「終わってるけど」


「事件はね」


 一拍。


「俺が確認したいことは終わってない」



 小さく言う。


 でも残る。



(……何それ)



「何が終わってないの」



 少し強めに言う。


 千翠は少しだけ考える。



「うまく言えないけど」


 一拍。


「この前の違和感」



 視線は前のまま。



「もう一度だけ見ておきたい」



 静かに落とす。


 ありすの思考が一瞬止まる。



(……は?)



 ただの観察の延長みたいな温度。



「……意味わかんない」



 小さく吐く。



「うん」



 千翠は頷く。



「俺も分かってない」


 一拍。


「でも帰るより、こっちを優先する」



 さらっと言う。


 理由になってない。


 でも嘘でもない。



(……なんなの)



 隣にいる気配が消えない。


 橘の時とは違う。



(でも)


(完全に拒めない)



「……もう、勝手にして」



 もう一度、同じ言葉を言う。


 千翠はそれ以上何も言わない。


 ただ、隣にいる。


 一定の距離。


 自然に。



(……ほんと、意味わかんない)



 そう思いながら。


 歩き続けた。





 一方で。


 橘はその背中を見ていた。



(……帰らねぇのかよ)



 小さく息を吐く。



(理由もねぇのに残らせるか……)



 目がわずかに細くなる。



(七沢も)


(本気で嫌なら)


(あいつはもっとはっきり断る)



 でも。


 視線は逸らさない。


 静かに、見ていた。

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