表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/10

9.幻の新商品

 お菓子にチーズは合わないと渋るテオの背中を押して、厨房まで連れて行く。途中、使用人が微笑ましそうな顔で見てたけど気にしてられないわ。早く思いついたことを試したみたくて仕方がない。


「場所、借りるわね」


 厨房に声をかける。料理人も慣れたもので、私が顔を出しても誰も驚かない。いつもの片隅で、追いかけてきたサラがエプロンをつけてくれた。よし、始めるわよ。


「さぁ、テオ。その岩クッキーはどうやって作るの?」


 腕をまくったテオがため息をつく。それでも作業台にボールや小麦粉を用意しながら説明してくれた。


「小麦粉と塩に水を入れて混ぜるだけですよ。脂があればもっといいですが基本はこれです。どの家でも簡単に作れるものですから売り物になるとは到底思えませんが」

「チーズ入りはないのでしょう? ともかくチーズを切ったのを入れてみましょう」


 チーズを包丁で切ったものを小麦粉に練り込んでもらう。塩分があるから塩はなしだ。大体チーズとか塩漬け肉とかの保存食には塩が沢山使われているのに、調味料としては貴重とかよくわからないわよね。

 成形は私も参加させてもらった。といっても丸めて延ばすだけだ。タネの時点でもう硬くて扱いにくい。窯で焼くといい匂いがしてきた。


「実際は保存食なので何度も焼いてカラカラになるまで堅めます。——熱いので気をつけてください」


 両手で持ってみる。乾パンみたいで美味しそうだ。口に加えて舐めて味見すると、チーズの塩っ気がいい感じに効いていた。ちなみに齧るのはサラに止められた。お嬢様の歯が欠けてしまうと泣かれたら流石の私もためらう。テオはしっかり奥歯の方で齧りついている。


「これはすごい。お嬢様、岩クッキーが食べられる味になりましたね。……固いのは変わりませんが」

 

 目を丸くしたテオは「惜しいなぁ」と残念そうに呟いて丸1枚食べきると、鉄板に残っている岩クッキーを見つめ続けた。その様子はいつもより幼く見えて、なんだか可愛い。ふふ、それなら私がもっと食べやすくしてあげるわ。鉄板のクッキーを皿にどかす。これは先程からこちらの様子を伺っている厨房の賄いにしてもらおう。


「テオ、次はチーズをもっと細かくして生地を薄く伸ばしてみて」

「これを、ですか?」

「ええ、お店で売るのだからどんな形でもいいでしょ。……水を増やさないと伸びないかしら」


 クレープの生地くらいのトロトロ感でいいんじゃないかな。水差しを持ち上げるとテオに身体で止められた。


「少しずつが良いと思います。お任せください」


 さっきまでため息ついてたのに、すごくやる気になってきたわ。ベニーが代わりましょうかと言うのを聞かずに綿棒で生地を伸ばしてる。水加減とか焼き加減が難しく試行錯誤を繰り返し、もう厨房の中はチーズの匂いでいっぱいだ。


「できた……!」

 

 完成した薄焼きチーズクッキーは、表面のチーズが焦げて美味しそうだ。サクッとした食感でいくらでも食べられそうだわ。


「これは……、薄焼き菓子のようですがエールにもワインにも合いそうな味です! どうしてこれまでチーズ入りがなかったのか不思議なくらいですね」


 テオの言葉にエールを入れたカップを持って料理人たちが集まってきた。ベニーがテオにカップを渡す。大試食大会の始まりだ。鉄板一枚分のクッキーをみんなで割って分け合う。楽しい。


「テオさん、配分と焼き加減を教えて下さいよ」

「商品にするのですから駄目ですよ」

「くっ、すぐに完璧に作って見せます!」


料理長が拒否されて悔しそうだけど、遠からずお父様たちのおやつに出てくることになりそうね。これだけ好評ならいけるんじゃないかしら。


「ソフィア様! これは必ず売れます! すぐにチーズを仕入れましょう」


 テオが興奮してるわ。うん、成功させよう。



 数日後、チーズと小麦粉が届いて今度は店の厨房に立っていた。屋敷の厨房で使ったものより安価なチーズだ。この店は元飲食店だったので窯も残っていてすぐに使える。


「ソフィア様、分かっていると思いますが、このチーズクッキーはジャム以上に保ちません。当日売れ残った分は処分することになります」

「今度は大丈夫よ。まずは1日に3回焼いてみたらどうかしら」

「そうですね。売れ具合によって増減していきましょう。用意した分で1〜2週間売れると思います」


 ジャムはそのままに、クッキーを置くスペースを用意する。適当に割ったクッキーを5枚くらいリネンに包んで完成だ。本当は型抜きにしたかったんだけどカップだと生地がくっついちゃうし、鋳型はお金も時間もかかると言われて断念したのだ。

 アリサと2人で看板を追加する。『薄焼きチーズクッキー限定発売中』と書いて焼き上がり時間を貼り付ける。ドキドキしながら店番をしていると、厨房で焼き上げている匂いに誘われてお客さんがやってきた。アリサが手に提げた籠から、小さく割ったチーズクッキーを配る。


「塩っ気があって食べやすくていいわね」

「日持ちしないので今日明日中に召し上がってください」


 おお、売れた。ジャムよりも試食から買うまでが早いわ。テオがあれだけテンション上がってたから当然かな? 私って天才じゃない? 1回めのクッキーはすぐに売り切れたので2回目は鉄板2枚分焼くことにした。


「評判聞いてきたのだけれど、もうないの?」

「次の焼き上がりはいつ?」


 二日目以降も順調にお客さんがやってくる。


「クッキーの人気すごいわ。甘いのもいいけど、塩味も美味しいものね」

「ジャムより値段が安いから買いやすい面もあると思います」


 アリサが笑顔で答える。どんどん売れて嬉しそうだ。

 こうしてチーズクッキーは1週間程度で売り切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ