表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/12

10.全部混ぜちゃえ

「チーズクッキーの利益はかなり出ましたよ」

「良かったわ!」

「ええ。今回は材料費も安く済みましたしね。そこで今後のことですが……」


 テオの視線が食品庫のジャム瓶に向いた。依然、在庫が山積みである。あれをどうにかしなくちゃいけないのよね? うう、今回のチーズクッキーは気分転換だったと思って正面からジャムと向き合わなくては。なんとか売れる方法を探さないと、と考えているとテオがジャムの瓶を一つ手に取った。


「こちらは処分する方向でよろしいでしょうか」

「え?」

「この状況でしたら損失を確定しても問題ないかと」


 なにを、言っているの? 処分ってどういうことよ。固まって驚いている私を、テオも驚いた顔で見てくる。


「どうして? あと2ヶ月保つって言ったじゃない。捨てるなんてありえないわ」


 ——食べられるのに捨てるなんて。それなら何かに利用しないともったいないじゃない。私の言葉にテオが自分の髪をくしゃりとして俯いた。それから息を吐いて顔をあげる。


「失礼しました。ソフィア様はジャムを出来るだけ処分しないで売りたいというお考えですね?」


 頷く私に、テオの目が細められる。

「個人的にはその考えに賛成です。なんとか考えましょう」



 食品庫のジャムの瓶を一つ一つ確認しながら、使い途を挙げていく。

「ジャムの使い方は、パンに塗る、ヨーグルト、紅茶に淹れる、お肉にかける、でしょ。他に何かあったかしら」


「そうですね、パンと似ていますが先日、旦那様方は薄い焼き菓子にワインジャムをつけてましたよね」


 あぁ、あのワイン盗難事件ね。遠い昔のことのように感じるわ。お父様たちも今はチーズクッキーの方を好んで食べていると聞くけれど……。何か思いつきそうで口に手を当てて考える。


「——チーズクッキーみたいにジャムを混ぜちゃう?」

 ぱっと顔を上げてテオを見る。テオも目を開いて頷いた。


「いいかもしれません。試してみましょう」


 

 厨房に戻り、岩クッキーの材料にジャムをそのまま練り込んでみる。

「なんだかベタベタしてるわね」

「水分が多いのかもしれません。小麦粉を増やしましょう」


 そうして焼き上がった薄焼きクッキーは、ほんのりジャムの色に染まって上品な味がした。見た目も味も食感も悪くない。だけど、小麦粉に対してジャムの減りが少なすぎる。


「商品としては有りですが、これだとジャム消費の目的が果たせませんね」

「ジャムをもっと煮詰めてみる? 益々甘くなりそうよね」


 煮詰めたジャムを手の甲に乗せてテオが舐める。軽く咳をしてすぐに手を洗って口を濯いだ。相当甘かったらしい。甘いジャムを舐めたのに顔が渋くなっているわ。笑いを堪えていると、わざとらしくじろりと睨まれる。


「岩クッキーがほとんど味がないので、これでいいと思いますよ」


 えー、嘘でしょ。半信半疑で今度は生地の中にジャムを入れて丸めて焼いてみる。見た目はシンプルだけど、半分に切ったらジャムがキャラメルみたいに出てきた。テオがつまんで口に入れる。


「外側の生地の硬さと中の柔らかさの差が面白いですね。味もちょうど良いです。冷めて時間が経つとまた食感が変わりそうですね。ただ丸めたぶん厚みがあるのが難点です。小さくすると手間がかかりますし」

「薄い生地にジャムをのせて焼いたら焦げちゃうわよね。上からも生地で押さえてみる?」

「やってみましょう」


 鉄板に広げた生地にジャムを塗り、上からも生地で押さえる。それからフォークで斜めに生地に線を引いてみた。


「何をしているんです?」

「模様よ。食べやすくなるんじゃないかしら」


 テオも一緒になってフォークで模様を書く。器用なテオの線は真っ直ぐ引けていて悔しい。自慢気な顔で見られたけど、私のだって味わいがあるわ。

 クッキーが焼けたら包丁で切り分ける。ジャムが入っているのでチーズクッキーみたいにパキンとは割れないのだ。きれいな模様入りの四角いサンドクッキーが出来上がった。味も食べやすさも上々だ。


「これに決定ね!」

「はい。良いと思います。 ——ソフィア様、チーズクッキーの方はどうされますか」

「そうね、匂いが混ざっちゃうからジャムが売り切れるまでお休みかしら」

「残念ですがそれが良さそうですね」


 テオってば本当にチーズクッキーが気に入ったのね。ジャムクッキーもチーズクッキーみたいに売れるといいな。


「売り方だけど、クッキーを並べて好きな味を取ってもらうのはどうかしら」

「あまりおすすめはできません。一日置いている間に湿気ってしまいます」

「ジャム入りだからってこと? ——あ。大変なことに気づいたわ。ジャムが見えると選り好みされちゃうわ」


 そうよ。定番以外のジャムは売れ残っていたじゃない。頑張ってジャムクッキーにしたけど意味なかった?


「それは……、大きな問題ですね。しかしクッキーになっていると抵抗感は薄くなるのではないでしょうか」

「そう、かな? じゃあ色んな味のクッキーを合わせて、5枚組くらいで売る?」

「良い方法だと思います。あとは売れ行きの良いジャムはそのままでも売れるよう、幾らか残しておきましょう」 


 ジャムもクッキーも全部混ぜて、問題は全て解決ね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ