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11.続・可愛さは譲れない

 さて、ジャムはクッキーにすることになったけど、クッキーの模様だけでは私の可愛さ欲は収まらないわ。店の厨房で包み用のリネンを手に取って考える。チーズクッキーのときは限定だったから気にならなかったけれど、白いリネンに包んで渡すだけって安定感もないし、つまらないのよね。


「サラ、私の部屋から持ってきて欲しいものがあるのだけれど」


 しばらくしてサラが戻ってきた。自室から運んでもらったリボンや端切れを作業台に並べ、適当に選んで縛ってみる。うん、良いんじゃない。色々合わせているとテオが覗き込んできた。


「何をしているのですか?」

「白くてつまらないから綺麗な布で縛ろうと思って」

「——そんな贅沢あり得ません。この端切れだって相当な価値があるものですよ」


 あ、久しぶりのテオの完全否定。懐かしいわね。テオが布を回収してまとめていくのを恨めしげに見てしまう。


「だってジャムのタグは可愛かったのに使えないし、布に包むだけでは可愛さが足りないわ」

「タグは溶かせば再利用できますよ。縛るのは良いと思いますが麻紐とか別のものを使ってください」


 腰に手を当て、なだめるような口調で言ってきた。蜜蝋って再利用できるんだ。数、足りるかな?


「テオ、小さめの蜂って彫れる?」

「はい。出来ると思います」

「よかった。小さい丸の飾りにして麻紐を通したいの」


 麻紐のままだと素朴すぎるから色をつけたいわね。ジャムのように赤とか紫にならないかしら。家の厨房に行けば何かありそうね。

 そうと決まればすぐに行動よ。


「屋敷の方でハンコ作りと麻紐染めをするわよ」

「わざわざ染めるのですか?」


 やれやれ、と頭を振ってテオがついて来た。


 

 厨房で麻紐染めに使えそうなハーブや野菜を持ってきてもらう。今日は何を作るのかと期待して近づいてきた料理長は、草木染めと聞いてがっかりした様子で不満を口にした。


「ひどいですよ、お嬢様。先日はあちらの厨房で新商品作られたのですよね? 次はこちらで作ってくださいね。お願いしますよ」

「残っているジャムを処理しただけよ。機会があったらそうするわ。気になるようなら買いに来てね」


 ベリーやタイム、紅茶に玉ねぎの皮、と集めた素材をそれぞれ鍋で煮詰めて、下処理した麻紐を投入する。意外なことに玉ねぎが一番きれいに染まった。サラが言った通りだ。果物は色は出るのにベタベタして、とても使えなそうになかった。


「このあと灰汁で色止めして何度か作業を繰り返すと色がきれいに出ますけど、本当に麻紐を染めて使うつもりですか?」


 サラが何故そんな手間をかけるのかと不思議そうに聞いてくる。なんでって可愛くしたいからじゃない。


「色んな工程があるのね。魔法でパッとできたらいいのに」

「魔法は教会関係者とか上位貴族の一部しか使えませんよ」


 灰汁の準備をしていたテオが聞き咎めたように口を挟んできた。


「え? 魔法、あるの?」

「……なんでソフィア様は知らないのですか」


 なんでテオは知っているのよ。私みたいな男爵家の娘にはそんな情報入ってこないわよ?


「それより、その灰汁止めってしないとどうなるの?」

「2〜3日で色落ちして、くすんでしまいますね。」


 色落ちねぇ。きれいじゃなくなるのは良くないわ。だけど……。


「チーズクッキーもジャムクッキーも日持ちしないから、ちょうどいいんじゃないかしら」

「ちょうどいいとは?」

「色が落ちるまでに食べてくださいって目安になるでしょ?」

「しかし、色が落ちるものを売り物にするというのは商品としてどうでしょう」

「色落ちが目安って説明したら、それが売りになるじゃない?」

「……わかりました。ではそのように致しましょう」



 こうしてジャムサンドクッキーは、色々な味を複数枚ラッピングしたものに仕上がった。染めた麻紐で縛って小さな蜂の絵のタグをつける。看板は『蜂蜜ジャムとジャムサンドクッキーのお店』に変更だ。店内にはベリー系のジャムと一緒に白い包みが沢山並ぶ。


「また新しいクッキーを始めたの?」


 アリサが配るクッキーを珍しげに手に取ったお客さんが面白そうに聞いてくる。なんだか新しいものにお客さんも慣れてきたんじゃない?


「食べやすいジャムサンドクッキーですよ。麻紐の色が変わるまでに食べ切ってくださいね」

「チーズクッキーも美味しかったけど、甘いのもいいわね。このタグも可愛いわ」


 やった! 狙い通りじゃない?

 チーズクッキーが好評だったおかげか、ジャムクッキーも順調に売れていった。ジャムの時には売れなかった人参やエンドウマメのクッキーは、兵士たちに人気で、詰め合わせでなく野菜だけのクッキーが欲しいと言われるくらいだ。


 ——そして、ジャムの期限が来るまでに在庫をなくすことができたのだった。




「よくあの状態から持ち直したな。上出来だ。随分と赤字を抑えたじゃないか?」


 お父様の執務室で、カルロおじ様がテオからの報告書を確認しながら不思議なことを言ってきた。


「赤字? 最初の資金より増えてますよ?」

「……教えなかったのか?」

 

 おじ様がテオに視線を移して聞くと、テオは眉を下げて困ったように応えた。


「どこまでの成果を望まれているか分かりませんでしたので」


 なんでも店舗の賃料や光熱費、アリサやベニー、私たちの賃金を入れると利益が全然足りていないらしい……。材料費以外もかかるなんて聞いてないわよ!? 店舗はお父様が用意するって言っていたし、アリサだってベニーだって手伝いに来ましたって言ってたわよね? テオも……元々は補佐役だったのでしょう? 呆然としてお父様を見ると、自分は関係ないかのように首を振って否定してくる。


「まぁ、お前も良くやった」


 おじ様が笑いながらテオの頭を撫でようとして払われていた。それからこちらを向いてニヤリとする。


「ジャムに拘らなければもう少し結果は違っていたかもしれないぞ? やたらと売れていたのがあっただろう?」


 チーズクッキーのことね。

 だけど私たちはジャムを捨てないことを選んだのだ。テオと顔を見合わせクスリと笑う。


「なんだ、ずいぶん仲良くなったじゃないか」


 おじ様は私の頭も撫でようと手を上げかけて、フッと笑ってさげた。それから私がお店をやりたいと言い出したあの時のように、姿勢を正して真面目な顔で礼をする。


「お疲れ様でございました、お嬢様。——テオ、次の仕事に行くぞ」


 そう言って執務室を去っていくおじ様の背中を、テオは追いかけかけて立ち止まり、こちらを振り返った。


「ソフィアお嬢様、楽しかったです。……またいつでも呼んでください」

次回、最終回です。

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