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12/12

12.成功したけど(終)

 ジャムクッキーを売り切ってしばらくした頃、1人のおじさんが首を捻りながら『蜂蜜ジャムの店』の看板を見ていた。


「どうしましたか?」

「ここはクッキーのお店じゃなかったのかい? 前に食べたしょっぱいクッキーを買いに来たんだけどな」

「あれは期間限定で販売してたのです。でも……そうですね。1週間後くらいにまた来ていただけたらご用意できますよ」

「そうかい、嬉しいねぇ。仲間内にも伝えておくよ」


 おじさんは大喜びで帰っていった。チーズクッキー、人気あったものね。そういえばテオともジャムクッキーの後に復活させる話をしてたわね。ついジャムに専念してしまったわ。……今度はちゃんと少しずつ作って並べているわよ?

 商会に連絡してチーズなどの材料を届けてもらう。テオは今、カルロおじ様と一緒に買い付けに行っている。おじ様の元に戻れて嬉しそうな顔をしていたわ。


 そういうわけでチーズクッキー再販売の日は、沢山の人がやってきた。男性客が多いわね。アリサさんの人気が高まってきたのかしら?


「お嬢様、いくら焼いても間に合いませんでさぁ」


 連日の作業にベニーが疲れ果てて椅子に座り込んだ。そこで、ジャムサンドクッキーの時の助っ人を呼び寄せ、麻紐染めは他所で行ってから運んでくることにした。チーズクッキーではタグは省略だ。

 実はジャムサンドクッキーも一部復活したのだ。野菜クッキーを行軍に持っていきたいという兵士達向けに、予約注文で扱っている。経営的には安定といったところかしら。



 試験前でしばらく店に行けない私は、気分転換にベニーを呼んで厨房に立っていた。


「お嬢様、また何か作られるんでさぁ?」

「試しに作ってみたいものがあるのよ」


 作業台に置かれているのは、貴族はあまり食べないというニンニクである。チーズクッキーの香りで、ガーリックパンとかポテトチップスを肴にビールを飲んでいた前世の記憶が蘇ったのよね。チーズクッキーにも絶対あうと思うわ。テオが驚いて、喜んで食べるんじゃないかしら。


「いつものチーズクッキーに、ニンニクのすりおろしとハーブを追加して欲しいのよ」


 窯で焼くとチーズクッキー以上にいい香りが漂ってきた。ニンニクの香りって食欲そそられるわよね。うん、出来立ては特に美味しいと思う。いくつかおやつに貰って、後は厨房で分けてもらう。このガーリックチーズ&ハーブクッキーもお店で売っちゃおう。アリサに連絡しておかないとね。……今度こそ試験に集中しなくちゃ。



 しばらくして店を訪れると、馬車を降りた途端ニンニクの良い香りがしてきた。お店に入るとお客さんがいっぱいいるけど、なんだかゴツい男性が多いような……?


「ソフィア様、ご無沙汰しています」

「テオ! いつ帰ってきたの?」

「少し前です。新しい商品を売り始めたと聞いておりましたが、大通りまで香りが届いていますよ」


 テオと一緒に店の裏側——厨房の方に入っていく。


「ねぇ。ガーリックチーズ&ハーブクッキーはもう食べてみたかしら」

「残念ながらまだ」

「ふふ、出来立てが美味しいのよ。ベニー、少しもらうわね」


 テオが食べる様子をじっと見つめる。一口かじって一瞬止まった後、一気にパクパクと食べてしまった。やっぱりね。気にいると思ったのよ。自然と口元が緩む。


「これは止まりません。ワインが欲しくなる味ですね」

「そうでしょう? 出来立てなのが特に——そうだ、数量限定で出来立てクッキーとワインを提供するのはどうかしら」


 厨房にはジャムクッキーで使ったジャムの、空き瓶と蜜蝋ラップがまだ残っている。これは使えるわ!


「ジャムの空瓶をワインカップの代わりにして、蜜蝋ラップにクッキーを挟んで出すの!」

「それは間違いなく売れますが……本当によろしいのですか?」


 ——テオの言葉の意味が分かったのは翌日だった。


「おじさんが、さらに増えてる!?」

「ワイン提供したら、こうなりますよ」


 やっぱり分かっていなかったか、という目でテオがこちらを見た。……分かってたなら、ちゃんと言ってよ! おじ様にも商才があると褒められたけど全然嬉しくない。このままでは、ゴツいおじさん達の店になっちゃうわ。

 なんとかしなくちゃ、と生ジャムと称して甘さ控えめのジャムを店舗での飲食限定で出してみたが、ニンニクの暴力的な香りには勝てない。


 ジャムの置き場も段々なくなってきた。ドライフルーツとマローベリーのジャムは高級ラインに生まれ変わり、商会で売られている。先日の買い付けは、その為だったらしい。悔しいのでテオを味方にしておじ様からライセンス料をとってやったわ。


 庶民の食べ物だけどお酒に合うから、と貴族がこっそり買いに行かせているという噂が立った頃、諦めて看板を『チーズクッキーの店。出来立てセット販売中』と直した。


「お嬢様、売れすぎて麻紐染用の玉ねぎの皮が足りません。どう致しましょう?」

「もう! なんでもいいわよ!」


 あぁ、でも玉ねぎの皮がコストがかからず一番よね。市場から貰ってくるのがいいかしら。

 はぁ。繁盛店になったけど目指していたのはこれじゃない。私の憧れの「オシャレで可愛くて素敵なお店」はどこにいってしまったの!?


(完)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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