8.余ったジャムどうしよう
店が開店して1ケ月が経った。種類を絞った甲斐もあり食品庫の在庫も少しずつ減ってきた。
「依然、ベリー系が強く、8割を占めていますね」
「他の味は好まれないってことかしら」
「マローベリーやドライフルーツのジャムは人気がありますが、価格が高めなこともあり富裕層が中心で、数が出ておりません」
店の厨房でテオからの報告を聞く。北から取り寄せたマローベリーは、前世でいうブルーベリーだ。間違いなく美味しいのに、輸送費で高くなるのは残念だ。富裕層はこんな町中の平民向けのお店にはそうそう来ないからね。
「りんごとかマーマレードは?」
「……詳しく説明して宜しいので?」
テオが真面目な顔を作って、ずいと距離を詰めてきた。覚悟が必要ってこと? 耳を塞ぎながら頷く。
「まず、マーマレードですが皮入りというところが受け入れにくいようです。どこかの料理人が肉や紅茶にも合うと聞いて買って行きましたが、それくらいですね。いちごは少し熟しずぎているものもあったようで、微妙な味のものがありました。試食の前に味見して駄目だったものは処分しています。りんごは残念ながら変色していて見た目が悪く、試食が裏目に出ました。味は良かったのですがね。それから人参と——」
「ちょーっと待って。ストーップ! もう分かったから。あぁ、最初にまとめて全部作ってしまったのが悪かったのよね?」
上目遣いでテオを確認すると、重々しく頷かれた。
「結果論ですが、そうなりますね。私もここまで受け入れられないとは思っておりませんでした。ただ種類を絞ってからは売り上げは伸びましたし、一定の成果は出ています。時間があれば人伝てに良さも伝わると思いますが、ジャムは後2ヶ月ほどしか持ちません。このペースで行くと売り切れる前にジャムを処分することになります」
頭を抱えたくなる。過去に戻ってどんどんジャムを煮込んでいた私を止めてきたいわ。奥の食品庫のジャム瓶に目を移す。さっきまでは在庫の減りに目がいっていたのに、今は在庫の山として肩に重くのしかかる。しょせん前世で2〜3年しか社会人をしていない私が、経験もなしにお店をやるのは無理だったのかしら。激しく落ち込んでいると、厨房の壁がコンコンと叩かれた。
「何を一丁前に落ち込んでいる?」
振り返るとカルロおじ様がいた。そのまま壁に持たれてフンと笑う。いつから聞かれていたの?
「商会長、いつこちらに?」
テオも驚いたように近づいていく。
「ん? 少し前だ。正確にはベリー系が8割のあたりかな」
……全部じゃない。がっくりと頭を下げる。クツクツと笑い声が聞こえた。
「まだ終わりじゃないだろ? あがけよ?」
それだけ言うとテオの肩を叩いて、おじ様は出て行った。テオと2人で目を見合わせ、同時にため息をつく。
「……もう少し考えましょうか」
「……そうね」
気分を変えるため、場所を屋敷の居間に移すと、サラがお茶とクッキーを持ってきてくれた。本当はテオを通すのは応接室が正解なんだろうけど、落ち着きたかったのだ。厨房にも出入りしてるし、居間でもいいよね。
「とりあえず、今時点の利益を元手に何か別の商品を考えてみますか?」
「別のもの……。アクセサリーとかかしら。うちに鉱山とか——」
「ありません。ご領地、平地でしたよね」
間を置かずに否定される。ええ、うちの領地は見晴らしがいいわよ。何にもないもの。川の水はキラキラして綺麗だけどね。
「言ってみただけよ」
「真面目に考えてください。大体、食品のお店でアクセサリーは方向性が違いすぎます」
テオが呆れたように言う。ちょっと現実逃避したい気分だったのよ。目を逸らしてクッキーを一口、齧る。うちの料理人が作ったクッキーは、ほろほろと甘くて美味しい。何となく、手に持ったクッキーを眺める。
「甘いクッキーっていいわよねぇ」
思わずこぼれた言葉に、テオの眉がピクリと動く。
「分かっていると思いますが、砂糖は高いですし蜂蜜はもうありませんよ」
「クッキーにしようとは言っていないじゃない! それに砂糖が使えなくても胡椒クッキーとかあるでしょう?」
「お嬢様、胡椒は砂糖以上に貴族の食べ物ですよ」
「じゃあ胡椒を使わない、甘くないクッキーはどうなのよ」
「保存食の岩クッキーのことでしょうか。お嬢様では齧れないくらい硬くて美味しくはないですよ」
なにか話がずれていってる気がするけど、お互い止まらなくなっていた。上手くいかない苛立ちが溜まっていたのかもしれない。思わず立ち上がって言い合いを続ける。テオも組んだ手を机に乗せ前のめりになっていった。
「そんなに硬いなら、パウンドケーキみたいに日にち置けばいいでしょ」
「柔らかくなったらもう腐っていますよ!」
「もう! 何ならいいのよ! 胡椒が高くてダメなら硬いクッキーにチーズ入れればいいじゃない」
あ。……いい考えかも。チーズなら平民も手に入るわ。ストンと椅子に座る。急に落ち着いた私を不思議そうな顔でテオが見た。
「チーズはお菓子ではなく食事で使うものですよ?」




