7.思ってたのと違う?
いよいよ開店だ。私は気合いを入れて店に立った。今日は新緑色のリボンを髪に編み込み、蜂蜜色のドレスを着た完璧な女主人である。ドレスはテオが町に馴染むようにと送り付けてきたものだ。
整然と並んだジャムに胸が高鳴る。瓶につけたタグがきらきらと輝いて見えた。とうとう出来たのね。私の憧れの、オシャレで可愛くて素敵な店が。
「今日が一番、人が集まりますから売り上げを伸ばしたいところですね。アリサ、中を頼みます」
テオが告げる。売り場には私と店番に商会から派遣されてきたアリサが、外にはテオが立って準備万端だ。アリサはテオと同い年くらいで、スラリとしていてオシャレなお店の店員さんって感じがして好印象だなと思う。
商会やお父様からも宣伝をしてくれたようで人が集まってきた。みんな沢山のジャムに驚いているわ。ふふ、凄いでしょう。
ジャムを見ているお客様たちを眺めていると、ラウル兄様のお友だちの騎士が3人で来てくれた。ラウル兄様が宣伝してくれるとは思わなかったわ。
「こちらはジャムの専門店です。お好きな味のジャムをどうぞ」
「色々ありすぎてわからないな。恋人に買って行きたいんだが」
物珍しそうにタグを見たり持ち上げたりしている。こんなに沢山あるんだもの、全部気になるわよね。
「ありがとうございます。小さくて可愛いのでお土産にぴったりですよ! 北から取り寄せたコランベリーや、ドライフルーツのジャムも珍しくておすすめです。あとは人参やエンドウマメのジャムも、滋養があっていいと思います」
せっかくなので色々お薦めしてみる。だけど首を捻ってなかなか決められないみたい。アリサがやってきてラズベリーの瓶を手に取った。
「迷われているならベリー系がよろしいのではないでしょうか?」
「じゃあ、そうしようかな」
少しほっとした様子で、3人のうちの1人がラズベリーのジャムを買って行ってくれた。
「ありがとうございました!」
やった! 初めて売れたわ。アリサにハイタッチしそうになって、深呼吸してごまかす。
「ねぇ、アリサ。どうしてベリー系を薦めたのかしら?」
「味が分かるほうが安心されるかと思いまして。——こちらは少し珍しいジャムが多いですから決めかねたのでしょう。他のお客様も興味は持ってくれるのですが迷われていますね」
そうか。食べたことないなら手を出しにくいか。うーん、味の説明をしても伝わらないってこと? それなら、と店の外に出てテオに声をかける。
「テオ! パンを買ってきてちょうだい」
「お腹が空かれたのですか? でしたらサラさんと一度、屋敷に戻られたほうがよろしいかと」
「違うわよ! ジャムの試食——味見用のパン! スプーン代わりにしてそのまま食べてもらうの」
「あぁ、なるほど。用意しますのでしばらくお待ちください」
テオが買ってきたのは、ずっしりしたパンだった。小さいかけらにして山盛りにする。その周りに全種類のジャムを開けて並べてみた。うん。いい感じじゃない? 試食を出したら人も更に集まってきたわ。ジャム瓶を眺めてる女性に声をかける。
「タグに描いてある絵のフルーツや野菜を使っています。興味のある味をあちらで試せるのでいかがですか」
「まぁ、嬉しいわ。……本当に沢山種類があるのね」
「はい。どれも美味しいですよ。パンにもヨーグルトにも紅茶にも肉にも、何にでも気軽に使えますよ」
ぎこちなく頷いて、しばらく試食を眺めてからマーマレードを手に取る。
「ええ、……美味しいと思うわ」
それから、少し困った顔をして「また来ます」と帰っていった。ふと周りを見ると試食コーナーに人は沢山いるのに、売り場のジャム瓶があまり減っていない。お店を覗いていく人は多いけど、「綺麗だね」って褒めてくれるけど、なんでだろう? 買って行ってくれるのはお父様や商会の知り合いばかりだ。
「テオ。値段が高すぎるんじゃない?」
「加工費もありますし、これより安いと利益が出ませんよ?」
「みんな興味深そうに見ていくのに、あまり買ってくれる人がいないわ」
試食に開けたジャムの瓶を見ながら、顎に手を当てて考え込んでいたテオが顔を上げた。
「お嬢様は沢山のジャムを並べたいのですよね」
「ええ、そうよ?」
「でしたら一週間はこのまま様子を見てみましょう。その間、お嬢様はちゃんと学校に行っていてくださいね。こちらには顔を出さないように。旦那様が心配されていましたよ」
「……わかったわ」
どうしてよ。私も毎日様子を見に来たいのに。でも、これ以上サボっていると、カルロおじ様にも何か言われそうだから仕方ないか。
——そして一週間後。
売れ行きは相変わらず良くないままだった。
「なんで売れないの?」
いや、全然売れていないわけではないんだけど。全体的に商品の減りが少なくて、ベリー系だけ、机に隙間ができていた。
「やはり種類の多さが問題だと思います。お嬢様の提案された試食でも、結局ベリー系にされる方が多かったので」
「そうなの? 色々食べてもらえれば美味しいって分かるのに」
「まぁ、新し物好きの貴族と平民は違いますから、中々手が出しづらいのではないでしょうか。——そこで提案なのですが、一度数を絞ってみてはいかがでしょう。お金の限られている平民が沢山の中から一つだけ選ぶのは難しいのです」
えー、せっかく沢山作ったのに減らしちゃうの? 私は全部好きなのに。ジャム瓶を一つ一つ手に取ってみても、どれを減らしていいか分からない。困っているとアリサが助け舟を出してくれた。
「ベリー系は種類に関係なく売れているので残した方がいいと思います」
ベリーはストロベリー、ラズベリー、ブラックベリー、カシス、北から取り寄せたコランベリーとマローベリーか。結構あるわね。
「それならこの6種類と日替わりで2種類。それで試食も継続するということでどうかしら?」
「それがいいと思います。では、撤去するジャムの代わりにベリーの瓶は多めに並べておきましょう」
テオが頷いて、早速並べ直しを始める。私はアリサと一緒に看板を描くことにした。『日替わりジャムの店』として曜日ごとのジャムの味と絵をのせ、大きく試食あります、と書いてみた。これで買ってくれる人、増えるといいなぁ。
そうしたら不思議なことにベリー系以外のジャムもポツポツと買われるようになってきた。
「なんで?」
まぁ、いいか。売れてよかった!




