表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/11

6.可愛さは譲れない

 元布屋から布が届いた。テオは蜜蝋ラップにした状態で届けると言っていたが、私が作ってみたいと手を上げたのだ。ケヴィン兄様、ソフィーは機会を逃しません。

 そんなわけで今日も厨房で作業である。湯煎のお湯がもくもくと湯気を上げているのを眺めていると、テオが蜜蝋を入れた小鍋を持ってきた。


「全て作られるのは手間ですので、何個か試すだけにしましょうね」

「わかったわ」


 届けられた布は思ったよりくすんでいた。一枚ずつ広げて、悩みながら選び出す。無地よりは、いいわよね。蜜蝋が溶けてきて甘い匂いが漂い始める。


「これとこれと……この辺が使えるかしら。足りない分は似たような柄で用意して欲しいわ。あと、こっちの無地の布はジャムの瓶の下に敷こうかしら。机、結構傷だらけだったわよね」

「はい。商品の下に布を敷くのは珍しいですが良いと思いますよ。……蜜蝋、垂らしますので刷毛で手早く塗ってみてください」


 とろりとした蜜が布に零れ落ちる。均等に塗るのって結構難しいのね。すぐ固まってきちゃう。テオがじっと隣で見ている。そんな失敗しないから大丈夫よ? 両面塗り終えて一息つく。大きな布がつるつるになった。楽しい。


「これを瓶のサイズに切ればいいのね」


 鋏で切り始めたが、厚みがあるからか、ガタガタになってしまった。テオがナイフを手に戻ってきて、一瞬動きを止める。それから無言で手を差し出された。ナイフでカットするものらしい。


 やることがなくなってしまった。うーん、ジャム瓶、もう少し可愛く出来ないかしら。厨房をうろうろしながら考える。思えばガラス、砂糖、味とずいぶん妥協してきたと思うのよね。厨房の隅で、ベニーが人参の皮を剥いている。お昼のスープに使うのかしら? ……あ。シーリングスタンプなんていいんじゃない? ほら、消しゴムハンコとか野菜ハンコとかあったじゃない。


「ベニー、野菜を見せて欲しいんだけど」

「なんでさぁ。今日はここにあるだけですよ」


 籠のなかを覗き込む。……芋はないのね。蕪でもいいか。


「一つもらっていいかしら」

「へぇ。お持ちくだせぇ」


 椅子に座って、ペンナイフを取り出す。それから布で拭って蕪に刺す。うん、いい感じ。まずは簡単なりんごから彫ってみようかしら。ベリー系は全部一緒で小さい丸でいいわよね。


「何を、野菜で遊ばれているのですか」


 いつの間にか背後に立っていたテオが、机に手をつけて覗き込んできて、どきっとする。


「野菜ハンコよ。蜜蝋の布にギュッと押すの。見てて」

 

 温めた蜜蝋を布に垂らして刷毛で伸ばし、蕪のハンコを押し当てる。……あんまりちゃんと絵柄が出ないな。首を傾げる。


「伸ばしたところに直接押すのではなく、さらに蜜蝋を垂らしたらどうでしょう」


 今度は厚みを作ってから押してみる。ちゃんと押せた。嬉しくてテオを振り返る。


「いいじゃないですか。見てすぐ何のジャムか分かりますね。平民は字が分からないものもいるので手に取りやすいです。野菜だと潰れてしまうので、ハンコは木で作りましょうか」


 テオは柔らかく微笑むと、かまどの方から木を持ってきて、小刀で彫り始めた。ふうん、そんな顔もするんだ。隣に座って指先が動く様子を飽きずに眺める。器用だなぁ。テオが木で作ったハンコは野菜ハンコよりも精緻で、しっかりと押せた。


「こうなると布の柄が邪魔になってしまうわね。蜜蝋だけのタグにしてぶら下げようかしら」


 タグにして、ぶら下げてみる。手に取って目の高さまで持ち上げる。半分透けた黄色い丸い印が、素朴な瓶を彩っていた。これなら目を引くし、絶対可愛い。うん。決定だね。


「これは……わかりやすいですが貴族の封蝋の真似と言われませんか」

「大丈夫よ。柔らかくて簡易だもの。……一応、お父様とおじ様に確認が必要かしら」

「はい。それが良いと思います」



 とうとうお店が使える準備が整った。出来上がった小ぶりの瓶も、蜜蝋封も揃っている。ドライフルーツもしっかり用意されているわ。

 もうすぐ開店できるのね。心なしかお店の中もすっきりして見える。テオは忙しいのか、今日はお店の確認だけしてくださいって言ってたけど、ベニーもいるし始めちゃおうかな。

 サラと3人でどんどんジャムを煮込んで瓶詰めしていく。大変だけど楽しい。先に作っておいたタグをつけて並べると、あぁ、私のお店が出来たんだなって感動してしまう。


「お嬢様、これ、どこまで作られるのですか」

「全部よ、全部。今日できることは出来る限り進めるわよ」



 後日、テオが並んだ瓶を見てがっくりと肩を落とした。


「ソフィアお嬢様? 一気に全部作ってしまわれたのですか。今度って言いましたよね? これでは数ヶ月で全部だめになってしまいますよ」

「大丈夫、大丈夫。すぐに売れるわよ」


 たぶん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ