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4.砂糖みたいに甘くはない

 というわけで、やる気を取り戻した私は再びテオと対峙していた。


「瓶は陶器にするとして、次は材料ね。砂糖と果物が沢山、欲しいわ」

「お待ちください。砂糖もガラス同様、ほぼ貴族のものですよ。お嬢様、平民向けなのですよね? 砂糖のジャムなど買えないでしょう」


 また? でもそうか。これまで平民の食生活なんて考えて生きてこなかったからなぁ。男爵なんて貴族の最下位じゃない? 前の私は上ばかり見ていたかも。

 口元に手をやって黙り込んだ私に、落ち込んでいると思ったのかテオから案を出してきた。


「平民は甘いものといったら蜂蜜なのです。それでも、たまの贅沢ですが」

「贅沢、ね。砂糖は使えないのか……でも蜂蜜も美味しいわよね。私はオレンジとかレモンの蜂蜜が好きよ」


「蜂蜜といえば蜂蜜で、そのような種類はありませんが——そうですね、まとめて調達するより、色々なところから少しずつの方が調達しやすく、安く済むかもしれません」


 本当に前世と違うことばかりだ。でも色々な蜂蜜って味が変わって面白そう。テオもこないだより協力的じゃない? 話しやすくてこっちのが好きだな。


「わかったわ。蜂蜜のジャムに決定ってことでいいわ」

「ジャム瓶の封用に、蜜蝋も一緒に調達するということでよろしいですか」

「蜜蝋ラップ! 作れるのね!」

「ラップ?」


 テオが首を傾げる。これぞファンタジーの世界じゃない? いや、前世でも流行ってたけどさ。作り方知らないから楽しみ。確か、可愛い布に蜜蝋を垂らして作るのよね。


「それから果物ですが、今の時期だと用意できるのはこれくらいになりますね」

「ちょっと少ないわ。生がなければドライフルーツがあるでしょ?」

「……色々思いつきますね。ドライフルーツは高くつきますよ」

「高くても沢山の種類を並べたいの。チートな知識で色んな種類のジャムを作るんだから」


 ここは譲れない。目に力を入れてテオを見る。


「何をおっしゃっているかわかりかねますが、沢山の種類を作るのは……どうでしょうね」

「選択肢は沢山あったほうがいいでしょう?」


 テオは軽く息を吐いて紅茶に口をつけた。ペンで紙をコツコツと叩く。またダメ出しされるのかしら。


「いくつか当てがあります。安く仕入れるルートを探しましょうか」


 やった! 意外と頼りになるわね。


「あとは……野菜。ヘルシーよね」

 

 人参ジャムとか、ずんだジャムとか、見た目もきれいじゃない? さすがに、あんこジャムは無理だろうから提案しないわ。


「修道院では人参ジャムなど作っていますが、一般的には馴染みがないのではないでしょうか」

「詳しいのね?」

「……教会、育ちですから」

「そうなんだ。でも作っているなら売ってもいいと思うの。人参とかお豆のジャムとか」


 テオが目をぱちりとして、それから肩の力を抜いたように口元が緩んだ。なにか変なことを言っただろうか。 


「なに?」

「いえ。野菜や果物は規格外や生食にできないものを主に探してきましょう」

「ジャム瓶は手のひらくらいの大きさにして。小さい方が、皆が買えるのでしょう?」

「そうですね」


 テオが初めて笑った。なかなかいい提案ができたんじゃない?


「色んな人に食べてもらいたいな」


 ——今回の話合いは、上手くいったと思うわ。



 何日かして、お店の候補が揃ったので見に行きましょう、との連絡がきた。お父様からは目立たない格好で行くよう言われている。


「サラ! 町娘みたいにしてほしいわ」

「はあ。普段からお嬢様は着飾っておりませんので、すぐに出来ますよ」


 さっとエプロンをかけられ、髪を緩く纏め直してくれる。お忍びみたいでワクワクするわ。

 馬車から降りてきたテオが、一瞬考え込むような顔をしたあとエスコートしてくれる。


「……目立たない格好と伝えられていませんでしたか?」

「ええ。上手く変装出来ているでしょう?」

「令嬢っぽさは消えておりません。道を歩くときは絶対に私から離れないでくださいね。馬車が店の前に止められないので少し歩きます。私の方で衣装を用意しておくべきでしたね」


 なんか不評のようね? まぁ、いいわ。窓から景色を眺める。あまり町中には出ないので楽しくて仕方がない。意外と歩いている人が多い。テオは馬車が揺れるのに何か書きつけをしていた。仕事熱心なことだ。


 最初に寄ったのは、中心からは少し離れるが、人通りも多い元布屋だった。奥に細長く、中にはまだ布地が置いたままだ。柄物などもあり、見ていて楽しい。


「こちらの布は処分される予定です。ジャムを並べるのにも、ちょうどいい大きさの店舗かと」

「そうね。だけど奥の方が薄暗いのが気になるわ」

「布は光が当たると駄目になりますから。次の場所にも行ってみましょうか」


 次のお店は、町の中心だが大通りから一本入ったところだった。先ほどより人通りは少ない。元飲食店とあって、こちらも机と椅子が置いたままだった。明かり取りの木窓もあってさっきより明るい雰囲気だ。


「売り場は先ほどの布屋と同じくらいの大きさですね。こちらの方が賃料は高いです」

「へぇー、調理場と食品庫があるのね。これならその場で作れるし、置いておけるからいいんじゃない?」


 机はそのまま商品載せるのに使うことになるかしら?クロスかけたいなぁ。あと窓にはカーテンよね。


「絶対、ここだわ。ねぇ、さっきの布屋さん、布地処分するって言ってたわよね? 安く買えるのかしら?」


 ふふ、私も段々節約が分かってきたわよ。


「そうですね。話してみましょう」

「可愛いのでお願いね!」

「可愛い……柄入りということですか。承知致しました」


 理想のお店に一歩近づいたわ。


「よーし、明日からさっそく試作して行くわ」

「試作? お嬢様がご自分で作られるおつもりですか?」

「もちろんよ」

 

 あったりまえじゃない! お父様に厨房使う許可を取らなくちゃ。

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