63章 ボクが守りたい街
「Mr.シルバー…。」
華凛は颯とミストに両腕を掴まれ、デュラハン・パークの遊園地エリアが見える次元の裂け目まで運ばれて来た。
華凛は下を見て置き去りにして来たMr.シルバーとラゴウの身を案じた。
「華凛、老紳士殿の事なら心配ない、大丈夫さ。」
「せや。あの人、結構ガッツある方やし。な?」
「う、うん。そうだね…。」
華凛は颯と素子に励まされ、気を取り直す事にした。今はMr.シルバーの想いを無駄にしないためにみんなを安全な場所に脱出させる事が最優先だ。
「この裂け目、狭いから一人ずつしか入れなさそうやね…。」
素子はそう言うと右手だけ次元の裂け目に突っ込んで何度も上下させた。
「よし、運動神経がなさそうな者から優先しよう。まずはぎっくり腰の後遺症がある八雲パイセンからだな。」
「ね、年長者としては何だか不服でしょうや…。」
八雲はそう言うと恐る恐る次元の裂け目の中へと入り、姿を消した。
「よし、確認。」
颯はそう言うと恐れもせずに頭だけ次元の裂け目に突っ込んだ。
「大丈夫だ、八雲パイセンはちゃんとパークに戻れてるぞ。」
「こ、こういう時は颯ちゃんの恐れ知らずぶりが何だか頼もしく感じるわ…。」
「こういう時だけではない、こういう時だけでは。」
素子の褒め方に不満を感じた颯は思わず突っ込みを入れた。
華凛たちは一人ずつ、急いで次元の裂け目に入った。
「ほ、本当に元の世界に戻れた…。」
華凛は周りを確認するが確かにデュラハン・パークの遊園地エリアの前にある広場だった。
いきなり華凛たちが姿を現したので周りにいた人たちもきょとんとしている。
「…!? 激!勇者丸が…!?」
「リスペクトゲールも?」
颯が持っていた激!勇者丸とリペクトゲールが光の玉になってスマホに戻った。
「多分、現実世界に戻って来たからデュエル・デュラハンの三分だけ実体化ルールが適応されて戻ったんだと思う…。」
「なるほど、そういう事か…!」
「なぁ、みんな。これで一安心…かと思ったんやけど、この裂け目ってどうやって閉じるん?」
「えっ?」
素子にそう言われ、華凛は次元の裂け目がある方を振り返った。
「これをどうにかして閉じへんとあの子供と化け物が追って来るんとちゃう?」
「た、確かに…。しまった、老紳士殿に聞きそびれた…!?」
颯は両手で頭を抱えて焦り出した。
「いや、あの緊迫した状況じゃMr.シルバーに聞けなくても無理はないよ…。そこはもう済んだ事だから、今はこの裂け目をどうやって閉じるかを考えよう?」
華凛は颯たちにそう言うと顎に右手を当てて思考を始める。
「ゴーストはもうヘッドチェンジを使い切っちゃったけど…まだ、リスペクトゲールやルフォーゼの力を借りればヘッドチェンジはできる…。けど、この裂け目に対してはどうしようも…。」
華凛がそう考えていると次元の裂け目から巨大ゴーレムの顔が急に映った。
「…!?」
華凛が驚いて後ろに下がると無数の植物のムチが次元の裂け目からたくさん出て来た。
「華凛!」
ミストがナイフを取り出して振り回し、向かって来る植物のムチを斬り刻むがキリがない。
その時、次元の裂け目から急に巨大ゴーレムが姿を消した。
「な、何…?」
困惑する華凛たちだったが、颯が顔を次元の裂け目に突っ込んで様子を確認してくれた。
「ラゴウだ!ラゴウが今、戦ってくれてる!」
「ラゴウが…?Mr.シルバーは!?」
颯はまた次元の裂け目に顔を突っ込んでMr.シルバーの姿を確認してくれた。
「…いや、見当たらない…。」
「そんな…。」
Mr.シルバーに次元の裂け目の閉じ方を聞こうと思ったが、無理そうだった。もうやられてしまったのだろうか?という不安や心配が華凛の頭によぎる。
「颯さん、もう頭を入れない方がいいでしょうや!異次元の裂け目がじわじわと小さくなっているでしょうや?」
「えっ?」
八雲は次元の裂け目をじっと見てくれていたようでいち早く変化に気が付いた。
「間違いないでしょうや!」
「じゃあ、このまま放置していても自然と消えるって事…?でも…もし、消える前にあの化け物が入って来たら…。」
「逆に巨大ゴーレムがこの世界に入って来てしまい、暴れ回ってしまうでしょうや…!」
華凛が危惧していた事を八雲が先に話してくれた。
今この場にいる人たちが巨大ゴーレムに襲われる。華凛は想像したくもなかったが、せざる負えない状況なのでぞっとした。
「ラゴウはもうヘッドチェンジを使い切ってるし、Mr.シルバーももう見当たらない…!もし、ラゴウがやられてこの裂け目からあの化け物が入って来たら…。」
「…華凛、ボクが行く。」
「…ゴースト?」
「この裂け目が消えるまでボクがアイツらの足止めをしてみせる…!」
ゴーストはそう決心すると胸の顔に右手を当てた。
「でも、ゴースト、どうやって…?」
「華凛と素子、この裂け目からデバイスを持った手だけを出すんだ。あの世界ではデュエル・デュラハンに実体化の制限時間はない。それでルフォーゼとリスペクトゲールを実体化。ルフォーゼの身体を借りてボクも実体化。リスペクトゲールの残り一回のヘッドチェンジ回復をボクに与えるんだ。ルフォーゼがいれば疑似的にボクもヘッドチェンジできるけど、一応念のため…ね?それなら、ボクが何分か足止めできる。」
「ゴースト、でも…。」
華凛はゴーストの身を案じ、不安そうにゴーストを見た。
「大丈夫、ボクは元々死んでる身だしね。これ以上どうなりようもない…。この世界の時系列ではまだディサイド・デュラハンはトワマリーしか目覚めてないんだ…。ディサイドヘッドがまだ使えない状態のトワマリーがね。その前にあの化け物が暴れ出したらこの街は大変な事になる…。ボクは華凛たちが暮らすこの街を守りたいんだ。」
「ゴースト…。」
「お願いだ、華凛…!ボクに行かせてくれ…!ボクに大切なミンナを守らせてくれ…!」
華凛はゴーストの胸の顔と見つめ合った。
「…わかった。ゴースト、一度言い出したら聞かないんだから…。いい?ちゃんと私たちのところに戻って来るんだよ?」
「大丈夫!きっとこの騒動もSolve the caseして見せる!それじゃあ!」
ゴーストはそう言うと次元の裂け目に飛び込んだ。
「素子ちゃん!」
「おし、来た!」
華凛が右手に持ったデバイスを、素子は左手に持ったデバイスを異次元の裂け目に突っ込み、ルフォーゼとリスペクトゲールを実体化させた。
「また身体を借りるよ、ルフォーゼ!」
「よしなに。」
ルフォーゼがそう言うとゴーストは憑依し、姿を変化させてゴーストの見た目となった。
「行くで、リスペクトゲール!最後の回復や!」
「はい!」
素子は一旦左手を異次元の裂け目から抜き、スマホを操作してまた入れ直した。
リスペクトゲールは姿を変え、スペアプラスリスペクトゲールとなった。
「受け取って、ゴースト!」
「ありがとう、リスペクトゲール!」
ゴーストにヘッドチェンジ回数を回復させたスペアプラスリスペクトゲールは元の姿に戻り、素子のスマホに戻って行った。
「華凛、ヘッドチェンジをお願い!ボクにヘッドを!ボクがキミたちの元に無事に帰れるような、心強いヘッドを…!」
「うん…!」
華凛は次元の裂け目から右手を抜き、デバイスを操作して何のカードを実体化させるか考えた。
『ディサイドディサイドディサイドディサイドディサイドディサイド。』
「な、何…?」
デバイスが今まで聞いた事のない音声を鳴らし始めた。
『セカンドディサイド、解放。』
華凛の左手に急に新たなカードが実体化した。
「これは…?」
「華凛!このタイミングで出て来たカード、それはもう起死回生の切り札しかあり得ぬだろう!」
颯は何故か自信満々に華凛を指差して来た。
「起死回生のカード…。それならお願い、ゴーストのための力となって…!」
華凛は左手に持ったカードをデバイスに読み込ませると画面から光が飛び出し、ゴーストに向かっていった。
「ボクらは今、愛すべき者たちを守るための剣となる!」
ゴーストは羽のような両耳と二本角が付いた頭を装着し、羽飾りがたくさん付いた胸当てや両肩、両膝パーツが足された。
「開け、ペンデュラムウイング!」
ゴーストがそう言うとひし形の形をした大きな羽が付いた。茶・赤紫・青・紫・金色のまるで華凛たちをイメージしたような五色で彩られた水晶の翼だった。
ゴーストは同じく五色の水晶の剣を右手に持ち、『ペンデュラムナイトゴースト』となった。
「さぁ、ボクが相手だ!化け物!華凛たちにはもう指一本触れさせない!」
ゴーストはそう言うと飛行し、ペンデュラムウイングを着脱した。ペンデュラムウイングにはストリングが付いており、巨大ゴーレムへと向かっていく。
「ボクの三つの刃、受け切れるかっ!?」
ペンデュラムナイトゴーストも突撃した。両手に剣を持ち、二つのペンデュラムの刃と共に巨大ゴーレムに対して振り下ろした。
「まだだ、フィフス・ミステリックシャワー!」
ペンデュラムナイトゴーストが胸から五つの光のビームを照射し、巨大ゴーレムに直撃させた。
『へぇっ、アルウスがあのような変化を…。これもディサイドの力か…。』
謎の子供はそう言うと右手を顎に当てて考え始めた。
『うーん…。正直、今の時系列であの力が現れるのは危険だな…。バランスブレイカーだ…。アルウス、残念だけど、もう君は放置しておけない存在となった。』
謎の少年はそう言うと華凛たちが映っている次元の裂け目に右手を伸ばした。急に次元の裂け目が閉じるスピードが速まった。
「えっ…!?急に…!?」
『バイバーイ。』
謎の少年はそう言って手を振ると姿を消した。
華凛は大慌てで次元の裂け目に頭を突っ込んだ。
「ゴースト、ゴースト!」
「華凛ちゃん、気持ちはわかるけどあかんって!」
「ゴースト…!」
華凛は両手を颯と素子に掴まれ、次元の裂け目から頭を抜いた。どんどん次元の裂け目は閉じていく。
「…もうボクに付き合わなくても大丈夫だよ、ルフォーゼ。」
「あら?」
ペンデュラムナイトゴーストはそう言うとルフォーゼを分離させた。
「あなた…。」
「まさか新たなヘッドチェンジに発現するとは思わなかったからさ。キミを連れて来ちゃったけど…。この姿なら攻撃は問題なくできる。このまま付き合わせたら君を傷つけちゃうしね。何だかもう次元の裂け目も閉じていくみたいだし…。お願い、ボクが帰るその時まで…キミが華凛を守って!頼んだよ?さ、早く!」
「…わかった。素敵ね、あなた…。ご武運を…。」
ルフォーゼはそう言うと光の玉に戻り、閉じそうな次元の裂け目を通って華凛のスマホに戻った。
「…!? ルフォーゼ…!?ゴースト!?」
「…華凛…ボクは必ずキミたちの元に帰って来るよ、きっと…。きっと…。」
デバイスから聞こえて来ていたペンデュラムナイトゴーストの声はもう聞こえなくなった。次元の裂け目は完全に閉じ、もう巨大ゴーレムがこの世界に入って来る恐れはなくなった。
「…ゴースト…!」
華凛はその場で膝をつき、両手を地面に当てて涙を流した。




