62章 偽者はライヘンバッハの滝ではなく、異次元に消える
Mr.シルバーが作った結界が崩壊する中で華凛たちは巨大ゴーレムの動きを警戒していた。
巨大ゴーレムは早速動きを見せ、咆哮した後に華凛たちに対して植物のムチを伸ばして来た。
「レディたちに対して植物のムチを伸ばすなど、私でもしないぞ!」
Mr.シルバーは妙な事を叫びながらクローブーメランラゴウと共に宙に浮く岩場を次々と跳ねながら巨大ゴーレムの元へと向かう。
クローブーメランラゴウは両腕に付いたクローブーメランを着脱して投げた。
クローブーメランは華凛たちに向かおうとする植物のムチを斬りながらクローブーメランラゴウの元へと戻っていく。
「華凛君たち、私たちがこいつの相手をしている間に早く上に行くんだ!」
「う、上って言っても…。」
華凛たちはボロボロになった青空を見上げるが、出口らしきものは見当たらない。
「デュラハン・パークだ!デュラハン・パークが見える空間の裂け目を探すんだ!」
「そりゃっ、あそこから私たちはここに来た訳だけど…!」
華凛はMr.シルバーに言われてデュラハン・パークが見える空間を探す。
「えぇい、何を不安がってるのか、私は…!?せっかく今後も御頭ミステリー研究会を続けていける事になったのにこんなところで躓いてちゃ、かっこつかないっての…!」
「華凛ちゃんの言う通りや!冒険に危険は付き物や!これくらいのピンチ、軽く乗り越えて見せへんとな!」
華凛と素子は意気投合して出口らしきものを一生懸命に探す。
「私が先行して見て来る!」
ミストがそう言うと宙に浮かぶ岩場を次々と跳ねながら上と向かっていった。
「私も式神で探すでしょうや!」
八雲も自分が持っている紙を数枚取り出して式神を作り出し、上空にばら撒いた。
「ボクも探すよ!」
「よし、ルフォーゼ!ゴーストを手伝って!」
華凛はスマホから光の玉を出してルフォーゼを実体化させ、キャンドルゴーストと一緒に上に向かわせた。
颯はその場に残って激!勇者丸を構え、華凛たちに植物のムチが向かって来ないように護衛してくれていた。
「これだけの数で探せば見つかるはずでしょうや!」
「ふっ、頼もしきガールたちだ…!私の試練を乗り越えただけの事はある…!」
Mr.シルバーとクローブーメランラゴウは巨大ゴーレムの植物のムチを何度も斬っているが、数が多すぎて巨大ゴーレムの元になかなか接近できずにいた。
『やれやれ、遅延行為は見逃せないなぁ。』
「どっちが…!」
余裕そうな謎の少年に対してMr.シルバーが突っ込みを入れると巨大ゴーレムは身体に付いた岩から小石のマシンガンを発射し始めた。
「くっ、ラゴウ!」
Mr.シルバーは杖で向かって来る小石を叩き落とし、クローブーメランラゴウは両手のクローで小石を斬り刻む。
「…! 私の式神が見つけたでしょうや!」
八雲の式神がデュラハン・パークが見える次元の裂け目を見つけ出せたようだ。
華凛たちの今いる位置では確認できない。
「よし、機動力のあるデュラハンやミスト、颯ちゃんが素子ちゃんたちを運んで外に出て!」
「わかった!」
『何だ、もう帰っちゃうの?まだ遊ぼうよ。』
謎の少年がそう言うと巨大ゴーレムは一本だけ太い植物のムチを作り出し、華凛たちの元へと伸ばした。
「くっ、しまった…!?まだあんな隠し玉が…!?」
Mr.シルバーがそう言うとクローブーメランラゴウが二つのクローブーメランを投げるが太い植物のムチは斬る事はできなかった。
「わわっ!?」
巨大な植物のムチは華凛の目の前で無数の植物のムチに別れ、華凛を束縛した。
「華凛!」「華凛ちゃん!」
颯が激!勇者丸で華凛を捕縛している植物のムチの切断を試みるが斬り足りず、華凛は巨大ゴーレムの前へとあっという間に引っ張られた。
「おわっ…!?」
巨大ゴーレムは華凛を盾代わりにし始めた。
「レディを盾にするとは見下げ果てた奴…!」
「あ、あなたもそんな変わらない気がするけど…!?」
「私はこんな破廉恥な真似はしない!」
『誰が破廉恥だって?』
華凛がMr.シルバーに突っ込みを入れている間も植物のムチは華凛をきつく縛り付けた。
「う、あぁっ…!?」
「華凛!」
キャンドルゴーストが華凛の元へと飛び、キャンドルブレードを振り回しながら向かって来る植物のムチを焼き斬りながら突き進む。
キャンドルゴーストは霊体なので植物のムチを擦り抜けられる。
しかし、三分経ったのでゴーストとラゴウは元の姿に戻ってしまう。
「しまった、これじゃ…!?」
これでもうゴーストたちはヘッドチェンジは使い切ってしまった。後はリスペクトゲールに一回分回復してもらえる分だけになってしまった。
この空間でならデュエル・デュラハンはまだヘッドチェンジできるが、華凛は捕縛されているのでスマホを操作できず、リスペクトゲールは戦闘向けのデュラハンではないので機動力は低い。
「待ってろ、華凛!」
「今、助けるから!」
激!勇者丸を構えた颯やナイフを持ったミストが華凛の救出に向かい、向かって来る植物のムチや小石を斬りながら宙に浮かぶ岩場を跳び跳ねて行く。
「華凛君!」
Mr.シルバーは全身をバラバラにして無数の鳩に変え、華凛の元へと飛んだ。
「Mr.シルバー、それだとあなたが…!?」
Mr.シルバーを構成する鳩は向かって来る植物のムチと小石によって破かれ、次々と減っていく。
何とか華凛の目の前で鳩が集まり、Mr.シルバーが姿を現す。
「やれやれ、手間の掛かるお嬢さんだ…!」
「Mr.シルバー…!」
Mr.シルバーは杖とトランプで華凛を捕縛している植物のムチを斬っていく。
『女一人を助けるために敵に背中を見せるとはね。』
「ぐおぁっ…!?」
Mr.シルバーは背後から巨大なトゲで刺され、腹を貫通された。
「Mr.シルバー!?」
「…何、私は元々紙だ…。こんなのは、痛くも痒くもないね…!」
Mr.シルバーは杖を捨てて腹に刺さったトゲを両手で掴んだ。
「華凛君には刺させん…!」
主であるMr.シルバーを心配したラゴウは自分が受けるダメージを厭わず突き進み、Mr.シルバーの元へと駆け付けた。
ラゴウはMr.シルバーの背後に来てトゲを胸の顔の口で噛みつき、両手の爪で何とかトゲを切断しようとする。
その間に華凛はムチから解放された。
「手荒に扱ってすまない!」
「がっ…!?」
Mr.シルバーは華凛を蹴り、近くの宙に浮かぶ岩場に倒させた。
「華凛!」
颯とミストが華凛の近くに着地し、華凛を起き上がらせた。
「…ふっ、探偵を助けるなどと、私の元ネタ的には変な話だな…。」
「Mr.シルバー…?」
ボロボロな姿で寂しそうに華凛たちを見るMr.シルバーを見て、華凛の胸は急に痛んだ。
「華凛君、結局…君は私の全てを解き明かす事はできなかったな…。ま、最初から全部を明かさせるつもりなどなかったがね…!私は君にとって常にミステリアスな存在で居続けたいからね…!ラゴウ、もういいぞ…!私なら大丈夫だ…!」
もう華凛は束縛から解放されたのでMr.シルバーはバラバラになって身体に刺さったトゲから離れた。
しかし、バラバラになった紙はいくつか消滅し始める。
「おっと、身体を構成する紙が大分欠けてしまったかな…?」
Mr.シルバーは所々が欠けた状態で人間の姿に戻った。
「…颯君、ミスト君!華凛君を連れて行け!私が囮になっている間に!」
「老紳士殿…!」
「でも…。」
「いいから行くんだ!」
Mr.シルバーは真剣な眼差しで華凛たちを見ている。今までMr.シルバーは何度か華凛たちに目を向けていたが、瞳に光が宿ったMr.シルバーを見たのは初めてだったかもしれない。
「…ご武運を、老紳士殿。」
「…見直したわ。」
颯は華凛をお姫様抱っこし、ミストと共にMr.シルバーの元から離れる。ミストは向かって来る植物のムチを斬りながら華凛を抱えた颯を防衛しながら後ろに跳び跳ねる。
「待って、颯ちゃん!ミスト!Mr.シルバーが…!?」
華凛は颯に抱えられながら後ろを振り向くが、華凛の視界からどんどんMr.シルバーが離れていく。
「…やれやれ、本物はライヘンバッハの滝の中に消えたと言うのに私はこのままでは異次元に真っ逆さまか…。ま、偽者には相応しい最期ではあって、それはそれで美しいがね…。ラゴウ、偽りの主人にこれ以上付き合う事はないぞ?」
ラゴウはMr.シルバーの言葉を聞いても逃げ出すつもりは全く見せなかった。
「ぞっこんしたいって訳か…。そうなって来ると意地でもお前だけは犠牲にはしたくないがね…!」
Mr.シルバーはそう覚悟を決めると振り向き、離れていく華凛たちを見た。
「…グッドラック、将来有望な名探偵…!これからは精々、多くの難事件を仲間たちと共に解決していきたまえ…!」
「Mr.シルバー!!」
今にも身体がバラバラになりそうなMr.シルバーとラゴウは巨大ゴーレムへと立ち向かっていく。
華凛の目には涙が溜まり、もうMr.シルバーとラゴウの姿は見えなくなっていた。




