60章 ミステリアスな子供
「や、やった!これでラゴウは倒せた…けど?まだ…!」
華凛は一瞬喜んだが、このMr.シルバーに与えられた試練は戦いに勝つだけでなく、Mr.シルバーに論理でも勝らなければならなかった。
Mr.シルバーは倒れたラゴウの元に近寄った。
「ふっ…その通りだ、華凛君。このままでは論理よりも力で捩じ伏せる方法…。圧倒的な力の方が論理より勝る事を証明する事になる…。さて?どうかね、名探偵?」
Mr.シルバーは左手に持った冷却枕を素子に投げ返して挑発して来た。
素子は慌てながら両手で冷却枕をキャッチする。
「か、華凛…。」
颯とミストも華凛の元に戻って来て心配した。
素子と八雲も心配そうに華凛を見る。
「…Mr.シルバー。あなたは問題があった人物とは言え、羽島博士を誘拐しているし、色んな人たちを利用して悪どい事もして自分に必要な情報も調べていた…。それでもあなたはゴーストと同じでこれから待ち受ける悲惨な未来を変えるために動いていたんだ…。」
Mr.シルバーは表情を変えずに腕を組んで華凛の言葉を聞いていた。
「羽島博士が造ったケイトをラゴウとして先に造って、自分のデュラハンにしたのも未来を変えるための一環…。あなたなりの足掻きだったんだ。だから、私はあなたの事を思った程、悪人ではないとさっき評したんだ。だけど…。」
華凛は右手で作った握り拳を見つめた。
「それでもあなたは悪どい事に手を染めてしまっている…!それはこの世界ではご法度で、例外なく罰しなければならない事だと私は思うから…!」
「ふっ、私を裁くか…。人ではない私を?」
Mr.シルバーはにやけながら両手を横に出して見せた。
「来たるべき絶望の未来…。もし、それを避ける事ができたのなら…あなたには償いの道を選んで欲しい。」
「償い…。ふっ、私の元となった人物とは程遠い言葉だな…。」
Mr.シルバーは自身の元になったジェームズ・モリアーティの本を確かめるように右手を胸に当てて見せた。
華凛も合わせて右手を胸に当てた。
「私たちはあなたがくれたこの危機察知能力…。これを活かして今後襲い掛かって来る危険を絶対に乗り越えてみせる…!私たちだけじゃない、この能力で大事な人たちや街に住む人たちも守りたい…!私たちは自身の探究心を人助けのためだけじゃなく、みんなのために使いたいから…!それがこれからの私たち、御頭ミステリー研究会の在り方だ!」
華凛は自分の言葉に込めた自信をMr.シルバーの心に投げるかのように右手で指差してみせた。
「よく言ったぞ、華凛!まるで主人公みたいな啖呵で私ぁっ、羨ましいぞ!」
「うちらも華凛ちゃんの言葉に異論なしや!」
「私は上級生として、先輩として華凛さんたちを守ってみせるでしょうや!」
「やれやれ…。仕方ない、私も付き合ってあげる。」
ゴーストが静かなのが気になったが、颯、素子、八雲、ミストも華凛の言葉に同調してくれた。
「…なるほど、それが君が得た理か…。研究会を解散する気はない、と…。君たちは私の意に背くが、私の意には沿わないという事か…。」
Mr.シルバーはそう言うと華凛をじっと見つめた。
「…良い目だ。見ていて憎たらしい思えるくらいにな…。初めて会った少女がよくぞここまで憎たらしく、眩しく見えるようになるものだ…。」
「Mr.シルバー…。」
「ふっ、何…。元々私のミステリアスさは君たちに全て明かさせるつもりはなかったからね。これで及第点と言ったところか…。いいだろう、今後も…。」
『何だか賑やかだね。』
急に華凛の耳に聞いた事がない声が聞こえて来た。
『何だか妙な力を感じたから来てみれば、変わった来客たちがたくさんいらっしゃる。』
「だ、誰っ!?」
声の主は木の上から飛び降りて着地した。
「こ、子供…?」
姿を現した子供は赤と紫の髪色をしていた。子供らしからぬ邪悪な笑みを浮かべているので華凛は不思議と悪寒が走った。
「ば、馬鹿な…!?どうやって私作った結界内に…!?」
Mr.シルバーも突然現れた謎の子供に対して警戒していた。
どうやらMr.シルバーの知り合いではないようだ。
『今までは気がつかなかったんだ。さっきも言ったけど、妙な力のぶつかり合いを感じたからね。これ、君個人が作った結界だろ?その中に入るくらいなら簡単さ。極亞たちに掛けられた厄介な封印を解くよりもね。』
「お前、一体何者だ…!?何で、そんな見た目をしている…!?」
ゴーストが謎の子供を警戒しながら言葉を投げた。
『…? アルウス?』
謎の子供は何故かゴーストの本名を知っていた。
「えっ…?」
『こいつは驚いたな…。まさか死んだはずのアルウスにまたこうして会えるなんてね。』
「コイツ、何でボクの死の事を…?」
『ふぅん…。』
謎の子供は華凛たちをじろじろ見て観察し始めた。
地面に倒れているラゴウや素子の隣にいるリスペクトゲールを見始めた。
『そこに倒れているのはデュラハン?おかしいな、まだ現れないはずだけど…。』
謎の子供は不気味な感じを漂わせていて、見ているだけでも華凛は冷や汗を掻いた。
『ひょっとして、君たちはイレギュラー?それはそれで面白そうだけど…。よし、ちょっと試してみようかな?』
謎の子供がそう言うと地面から槍を持った白い首無し鎧武者が五体現れた。
「華凛ちゃん、あれ…!?」
「うん…!色は違うけど、私たちが初めて会った時に遭遇した首無し鎧武者だ…!」
華凛たちは思わぬ形で白霊の寺の肝試しで遭遇した首無し鎧武者と再会した。
「…!? その者たちを率いているという事はあなたは…!?いや、違う…!何かが違う…!」
Mr.シルバーは首無し鎧武者たちを率いた謎の子供に心当たりがあるのか激しく動揺してみせた。
『行け。』
謎の子供がそう言うと五人の首無し鎧武者たちは槍を構えて襲い掛かって来た。
「ふん、良かろう!これも神が与えたリベンジの機会と見た!お相手してやろう!」
颯はそう言うと走り、激!勇者丸の刃で首無し鎧武者の一体の槍を弾いた。
「華凛たちは下がってて!」
ミストは両手から糸を出し、首無し鎧武者の一体を操って首無し鎧武者同士を戦わせた。
「くっ、ゴーストはもうヘッドチェンジできないのに…!」
「できるで、華凛ちゃん!さっき言うたやろ?とっておきのヘッドカードがあるて!」
素子はそう言うとスマホを操作し、リスペクトゲールのヘッドをチェンジさせた。
リスペクトゲールは大きなプラスマークが付いたキャップを被った頭と緑色のエプロンを身に纏った。
「その名をスペアプラスリスペクトゲール!さぁ、華凛ちゃん!スペアプラスリスペクトゲールの前にデバイスを出すんや!」
「う、うん!」
華凛は素子の言う通りにし、スペアプラスリスペクトゲールの前に右手に持ったデバイスを構えた。
「えいっ!」
スペアプラスリスペクトゲールが右手の人差し指と中指を口に当てた後、華凛の持つデバイスの画面に手を当てた。
「これで一回分ヘッドチェンジが回復したはずや!」
華凛は急いでデバイスを確認すると確かに一回分ヘッドチェンジが回復していた。
「このヘッドは制限時間式やなくて、回数式なんや!せやから、後三回使えるで?」
「凄っ…!ありがとう、素子ちゃん!リスペクトゲールも!」
華凛がお礼を言うと素子とスペアプラスリスペクトゲールはウインクしてサムズアップした。
「素子君、すまないが、それをラゴウにも使ってもらえないか?」
Mr.シルバーが華凛たちの近くまで跳んで来て着地した。
「えぇで!敵の敵は味方って奴や!」
「ふっ、お礼にエスコートしよう!」
素子はMr.シルバーに守られながらスペアプラスリスペクトゲールと共にラゴウの元に走る。
謎の子供は妨害するつもりはないようでにやけながら戦っている颯たちを見ていた。
華凛はそれを不気味に思いながらデバイスからカードを実体化させた。
「ゴースト、キャンドルヘッドで行くよ!」
「OK、華凛!」
華凛がデバイスにカードを読み込ませるとゴーストはキャンドルゴーストに姿を変えた。
『へぇっ、デバイスを持ってるんだ…。しかもアルウスとディサイドしてると来たか…。』
謎の子供は邪悪な笑みを浮かべながら華凛とキャンドルゴーストを見ていた。
華凛は謎の子供の冷たい視線を感じてまた寒気を感じた。
「よし、これで完了や!」
素子とスペアプラスリスペクトゲールがラゴウの元まで辿り着く事ができ、回復させられた。
元気になったラゴウはその場からすぐに立ち上がってみせた。
「よし、行くぞ!ラゴウ!」
Mr.シルバーはカードを実体化し、デバイスに読み込ませた。
ラゴウはクローブーメランラゴウに姿を変えた。
キャンドルゴーストがクローブーメランラゴウの横に並び立った。
『へぅっ、面白そうでかっこいいお人形さんたちだ。さぁて、お手並み拝見…っと!』
謎の子供はそう言うと高く跳び、木の上に座った。
足を組み、右手を頬に当ててまるでこちらを品定めするかのような笑みを見せて来た。




