三ヶ星照輝は美の化身
私立夜空学園。
この学園には平民と貴族が差別なく均等に分けられ勉学に励んでいる。
義務教育であるため国から支援を受け、優秀な人材を発掘しているのだ。
三ヶ星照輝はその学園でも一際目立つ有名人である。
三ヶ星グループの御曹司にして文武両道、才色兼備、美形美男。
いずれ国を代表するだろう。頂きに立つことを約束された人物であった。
「照輝さん、学園の清掃お疲れ様です!でもこんなこと照輝さんがやらなくても俺達に任せてくれればいいですよ。」
週終わりの大掃除、それが照輝の日課である。それが床だろうが美しさを第一とする彼にとって掃除とは無くてはならないものであった。
当然、学園の有力者である照輝に掃除させておいて下っ端である自分たちが参加しないのは論外である。
それは三ヶ星照輝の(自称)右腕である王牙一希も同じであった。
「ふふっ、それはナンセンスだよ一希。美しさとは誰かに作ってもらうものでは無い。自らの意思で生み出すものなのさ。」
その掃除を終え、三ヶ星照輝と王牙一希は学園のテラスルームで優雅なひと時を嗜んでいた。
三ヶ星照輝に選ばれる高貴なる学生しか足を踏み入れることができないそこで、2人は上質な葡萄果実飲料を飲み貪っている。
「さっすが照輝さん!美にかけてならこの学園で照輝さんの右腕出るものはいねぇや!!」
「ファーっハッハッハァーン!今更分かりきったことを言っても上質な果実飲料しかでないぞォ~!」
背景に映る湖畔を背に2人は笑う。
さながらそのワンシーンは白鳥が踊る円舞曲の様に見えた。
「そう言えば話があると言っていたが。」
そうなのだ。
照輝は掃除が終えたあと、いつもなら自宅へ戻り舞踏会を開いているのだが今日は後輩である一希に頼まれ残っているのである。
気まぐれの星である三ヶ星照輝にとって予定が変わるなど日常茶飯事なのだ。
「…照輝さん。実は俺、照輝さんにずっと隠していたことがあるんです。」
「隠し事かい?ふふっ…。いい男たるもの、ミステリアスな一面もあるさ。勿論、私もね。」
神妙な顔つきで告白する一希に対して照輝は飄々とワインを口に運ぶ。
しかし言動とは裏腹に三ヶ星照輝の中身は信頼する腹心である一希の告白が気になってしょうがなかった。
人気投票第1位 No.1ハンサムである三ヶ星照輝だろうと気になるものは気になるのだ。
「俺…いや、俺達ずっと照輝さんに内緒で準備していたものがあるんです。」
「準備…?なんの準備だい一希。」
「それは今にわかります。おい!宍戸、例のものを!」
質問に答えない一希。
動揺する照輝の眼前に、学園の奥から巨大な布で覆われた物体が運ばれてきた。
運んできたそれを照輝の前に置くと、一希の隣に眼鏡をかけた宍戸と呼ばれた男が並ぶ。
「照輝さん、実は俺達で照輝さんにサプライズがあるんです。」
「ククッ、きっと照輝さんも気に入ると思いますよ!」
宍戸レオ。
眼鏡に出っ歯。そして丸刈り頭と逞しい名とは似つかわしくない外見だがその持ち前の頭脳から照輝の(自称)左腕と呼ばれる男。
あぁ、なんてことだ!何時もなら味方として心強い友人である彼らが、似つかわしくないほどの邪悪な笑みを浮かべ照輝に迫っている!
美しさとは罪と呼ばれているが、まさか友さえも惑わしてしまうなんて!
恐怖に震える照輝を他所に、2人は覆われた布を剥ごうと手をかけた。
「おぉジーザス!女神よッ……『照輝さん!誕生日おめでとうございます!』……ンハァ?」
照輝が目を開けると、そこには巨大な椅子が置かれていた。いや、これは玉座といった方が良いだろう。全身を黄金に装飾された椅子の座面には照輝の愛する白鳥がプリントされたクッションが置かれていた。
「照輝さん、誕生日ですよね。実は俺達で内緒でプレゼントを作っていたんです。」
「ククッ…誕生日は来週。少し早いですが、王牙くんが待ちきれないと煩いのでね。」
「お、お前達…。」
…なんということだ。
2人は惑わされてなどいなかった、寧ろ私のために手作りの贈り物まで送ってくれたのだ。
なんと恥ずかしい!なんと浅はか!
友を疑うなど、この三ヶ星照輝一生の不覚!
「照輝さんが涙を流しながら微笑んでいる…。」
「私達の努力が報われたのですね…王牙くん。」
「ふふっ…ありがとうお前達。さて、私のために作ってくれたのだ。座ってもいいかな?」
「勿論ですよ!ささっ、どうぞどうぞ!」
玉座に腰をかける。
なんという座り心地!
「ディ…ディベルティメントォ!黄金の塗装を惜しげも無く使用した外装!座ってこそ分かる確かな品質!これが…これこそが私の求めていた、本物の、玉座ァ!」
天にも登る気分!
大自然の中にある玉座などミスマッチ極まりないはず…それなのにこれ以上の美しさを私は知ることがない!
今こそ、三ヶ星照輝は頂に立つものとして完成し。この学園の王として君臨した!
さぁ、築き上げよう!私の為の帝国を!
美の女神の帝国〈ビューティフル・インペリアル〉を!
「照輝さんが喜んでくれて俺も嬉しいです!そうだ、椅子の手元にあるスイッチを押してください!」
「おぉ、これかな!」
ポチッ
ギュインギュイン
照輝が椅子に付けられたスイッチを押すと、椅子が回転し始める。
それはまるでミラーボールの様で照輝自身が世界を照らすため回っていた。
「おお…なんと素晴らしい!回転する玉座等。世界を隈無く探そうと2つとないだろうな!」
「当然ですよ!なにせ照輝さん専用の玉座ですからね!」
「ふははっ!まるで仮面舞踏会に紛れ込んだ妖精の気分だ!悪戯に輪舞曲を踊るこれこそ栄光のシルクロード!天にも登る気分だ!」
ギュインギュインギュインギュイン
椅子が回転を続ける。
段々と加速し始める玉座に流石の照輝も焦り始める。
「ところで一希、これの止め方はどうすればいいのかね?」
「あぁ、それなら宍戸が付けたので…」
「えぇ?回転部分を付けると言ったのは王牙くんでは?」
「「「…………」」」
ギュインギュインギュインギュインギュギュギュギュギュギュイイイイイイイイイイイッ!
玉座の回転は続く。
止まることを知らないそれはまるでフィギュアスケートのプリマドンナの様に加速していく。
「あ、あぁ~~!とめてくれぇ~!」
「照輝さーんッ!!」
「回転数が上昇しています!王牙くん、このままだと照輝さんが!」
既に玉座の回転は限界を迎えていた。
もはや残像すらも見えるそれは照輝の三半規管にダイレクトで攻撃を仕掛けているだろう。
このままでは学園1のハンサムの口から煌めく希望が溢れてしまうかもしれない。
「宍戸、玉座を止める!照輝さんを助けるぞ!……あ゛ぁッ!」
「待ってください王牙くん。そんなに焦っては!……あ゛ぁッ!!」
哀れ。
照輝を止めようと自らを顧みず突貫した2人は。照輝によってピカピカに磨かれたフローリングに足を取られ、宙を舞ってしまった。
そしてそのまま玉座を弾き飛ばすようにぶつかる。
「「照輝さぁん!!」」
「んあ゛ぁあああ~~~ッ!!!!!!」
玉座ごと弾かれた照輝はそのまま美しさ弧を描きながら、学園の外にある湖畔へと向かっていく。そして飛翔した。
「あっ」
スキージャンプという競技がある。坂を加速しながら降りてきて、踏み切り台から飛び出し、飛んでいる間のフォームの美しさや距離を争う競技のことだ。
今回は場こそ整ってはいなかったが、美しいそのジャンプこそ。スキージャンプがオリンピック競技に選ばれた要因だろう。
2人はそれを確信した。
そしてそのまま、『何故か黄金に光り輝く湖』へと落ちた。
「照輝さァあ゛ああああ~ッんんんんんんん!!!!!?」
急いで駆け寄る2人。
そこにはもう照輝の姿はない。
恐らく湖の底を探そうと三ヶ星照輝は見つからないだろう。
彼はもう既に、世界を跳躍した。
「陽月アカリさん、貴女は選ばれました。どうか、私達の世界を救ってください。」
スキージャンプってかっこいいですよね