↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れられる前に、最後の願いを。  作者: 寿 明結未(ことぶき・あゆみ)
付喪神ーお琴と清さんー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/43

第5話 懐中時計の爺様が壊れた理由と、新たなお守り

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 二人の付喪神に名前を教えてもらったところだが、お琴はあまりにも緊張しすぎて、今にも気を失いそうな顔をしている。

「しっかりしろ」と声をかけても、お琴は首をふるばかりでまるで話にならない。

 しかたなく俺は、二人の付喪神に向き直って頭を下げた。


「先に名乗っていただいてありがとうございます。この付喪神の名はお琴と申します。本体は曾祖母さんの遺品であるハーモニカで、今は付喪神のなりかけ、神(・)格(・)化(・)を(・)目(・)指(・)す(・)者(・)です」

『ほう、神格化を目指すと』

『ふふっ! 光一は年は若いというのにしっかりとお琴を守っておるのだな。お前は小さい頃から正義感が強く面倒見が良かった。だからこそお琴も懐いているのだろうなぁ』


 そう嬉しげに口にしながら、宵様は俺らに近づいてきた。

 ガチガチに緊張しているお琴をそっと俺の腕から受け取る。

 すると仏さまのような、やさしいほほえみでお琴を見つめた。


『そう緊張するで無い。何も光一とお琴を喰ってやろうと思っておるわけではない』

『ほ……本当に?』


 おそるおそるたずねたお琴に、暁様も近づいてきて、やさしく頭をなでてくれた。

 その光景はまるで〝ほんとうの親子〟のようで……どこか切なくて、胸がきゅうっとなるようだった……。

 俺がずっと欲しかった「両親と子ども」の姿に見えたのだ。


『我らはお琴を歓迎する為に呼んだのだよ』

『人から大切にして貰ってこそ、我らは付喪神になることができる。今の世に付喪神は大勢いるが、ここまで純粋で綺麗な心を持った付喪神候補はめずらしい』


 確かにお琴がいろんなものに興味をもつのは純粋だからだと思う。

 どうやら歓迎されているようだし、褒められて悪い気はしない。


『白カラスにお前たちがどんな生活を普段しているのか見て貰い、報告をさせていたのだよ』

『光一から飲み物を与えられ、菓子を与えられ、髪をとかして貰い寝る時は腕枕で眠っている。こんな付喪神候補は他に例がない』

「そう……なんですか?」


 俺にとっては普通のことだった。

 けれど付喪神にとってはすごく特別で、贅沢なことなのだと暁様は教えてくれた。

 付喪神が見える人間自体が少ない故、今の俺とお琴のような関係になれるだけでも珍しいらしい。


『だが、お琴にはそれが一番いいのやも知れん。こんなにも優しい空気を持つ付喪神候補を見るのは久方ぶりだからのう……』

『……それと、もうひとつ』


 今度は暁様が俺の方へ歩いてきて、胸ポケットからチャラリと音をたてて懐中時計を取り出した。

 そして、小さく「ふむ」とつぶやいた。


『最近まで付喪神として生きていた形跡があるな』

『それは爺様です!』

『爺様?』


 お琴がそれまでの緊張した表情から一変して、キリッとした顔で両手をぎゅっとにぎりしめて答えると、二人の付喪神はうなずいた。


『他の付喪神の気を感じていたのだが、それはこの懐中時計からの贈り物か。どうやらこれがお琴を守っているようだ』

『余程お琴の事が心配と見える……どれ、ひ(・)と(・)つ(・)私(・)た(・)ち(・)が(・)直(・)し(・)て(・)や(・)ろ(・)う(・)』


 そう言って、暁様と宵様は両手を重ねて懐中時計にかざした。

 すると時計はやさしい光を放ち、光がしずまる頃には、まるで新品のようにきれいになって、秒針が「カチッ……カチッ……」とリズムよく時を刻み始めた。


「凄い……」


 ――これが神格化した付喪神の力なのか?


 時を刻み始めた懐中時計を見つめながら――。

 暁様は俺と時計を交互に見て、さらに光を時計へと注ぎ込んだ。

 宵様も同じように、お琴と時計を見比べながら、もう一度光をそそいでいく。


『ほれ、光一や』

「はい」

『お前はこれから、この懐中時計を持っている限り、お琴や私達以外の付喪神が見えるように力を付けてやったぞ』


 暁様がほほえむと、今度は宵様が懐中時計をそっと俺の手にわたしてくれた。

 宵様や暁様、そしてお琴――それ以外の付喪神が見えるようになったということは、何か意味があるのだろうか?


『清らかな心を持つ者ほど、〝邪念を抱えた付喪神〟に狙われやすくなる……』

「邪(・)念(・)を(・)持(・)っ(・)た(・)付(・)喪(・)神(・)……ですか?」


 その言葉を聞いて、俺は思わず眉をひそめた。

 すると、暁様と宵様は深くうなずいたのだった。


『根が清らかな者ほど、邪念に染まりやすい。光一、お前もそうじゃろう? 傷つきやすいほどに、悪意は深く刺さる』


 だから、懐中時計をお守りのように持っていてほしいと言われたのだった。


『使い方は、懐中時計に元々宿っていた付喪神の想いが教えてくれよう』

『爺様はまだ生きておられるのか!?』


 お琴は希望に満ちた顔で宵様にたずねた。

 でも、宵様は首を横に振って静かに言った。


『そうではない』

『お前が光一に見えるようになったのも、この〝爺様〟と呼ばれる付喪神のおかげなのだよ。そうでなければ、人の目に付喪神が見えることなどないのだから』

『我々が力を与えたのは、懐中時計に宿っていた元の付喪神の〝心〟を受け取ったからにすぎぬのじゃよ』


 ――きっと〝爺様〟は、最後の最後で力を使って、俺がお琴を見ることができるようにしてくれたのだろう。

 それだけ、お琴のことを大事に思っていたんだ。


「だとすれば、俺はお琴をもっと守らねばならないということですね?」


 俺が真剣に口にすると、二人は力強くうなずいてお琴をそっと返してくれた。

 正直、今の俺のままでお琴を守りきる自信は……あると言い切れない。

 けれど――守らなければ、そう思っていた時だった。

 暁様が俺の頭に手を置いて、苦笑いを浮かべた。


『光一、今後お琴にはいろいろな危険がふりかかるだろう。お琴が神格化した付喪神になりたいのなら、お前は守りきらねばならない。私たちの加護を授けていても、何が起こるかはわからぬのだからな』

『ゆえに、お前の周囲だけでも守ってやろうと思うのじゃが、どうだ?』

「俺たちの周囲を……ですか?」


 首をかしげる俺に、暁様はまっすぐ手を伸ばした。

 綺麗な指先に呼ばれるようにして、森の中から昨日の夜に窓を叩いた白いカラスが舞い降りてきた。


『白いカラスは我らの〝遣い〟のような存在だが、これをお前たちの周囲を守るための〝結界〟として役立てよう』

「そこまでしていただく理由はなんです?」


 あまりの厚遇に戸惑った俺がたずねると、二人は顔を見合わせて、くすくすと笑った。


『単純に、お前たち二人が気に入ったのだよ』

『お琴に何かあれば、我らがかけつけられるように、懐中時計には細工をしてあるし、白カラスにも命じてある。これほど清らかなこの子を守らずして、何が神社の狛犬か』


 二人の声や表情はとてもやさしくて、嘘や冗談を言っているようには思えない。

 けれど、まっすぐに俺を見つめる目に、不思議と少しだけ不安を覚えてしまう。

 本当に信じていいのだろうかと――でも、それでも。


『そう思い悩むな光一。我らにとっても、お琴が神格化した付喪神になるということは幸福なのだ』

『ゆえに、お前にひとつ頼みたいことがある』

「頼みたい事というのは?」


 暁様は、問いかけた俺の肩に白カラスをとまらせて、頭上に手をかざした。

 すると、何かが心に流れこんできたような感覚があった。


『白カラスはこれより、光一、お前の分身であり、二人の〝守り神〟でもある。故に、この者に名を授けてほしい。他の人間にはこの子の姿は見えぬから安心せよ』


 俺が肩の白カラスを見つめると、カラスは「カーッ」と鳴いて、頭を下げた。

 しかし、名前をつけろと言われてすぐに思いつくほど、博学なわけではない。


「お琴、付けたい名前はあるか?」


 こんなときはお琴の出番だろう、と抱えていたお琴に聞いてみた。

 けれど……。


『それは光一が決めるべきことじゃ!』


 と、一蹴されてしまった。

 一応、性別をたずねてみると、どうやらカラスはオスらしい。

 男の子の名前で考えるとすれば――。


「……ヒイラギ、お前の名はヒイラギだ」


 俺が名を伝えると――。

 白カラスはまばゆい光を放ちながら羽を広げ地面に降り立った。


『ヒイラギ……名をお受けいたした』

「喋った!」

『喋った!』


 俺とお琴が同時に叫ぶと、ヒイラギは頭を下げてくれた。

 名前を選んだ理由はひとつ。


「お前に〝邪を払う〟という意味をこめて名をつけた。お琴を守ってやってくれ」


 ヒイラギは俺の肩に止まり、俺はヒイラギと一緒に暁様と宵様に深く頭を下げた。


『それともうひとつ、これはとても大切なことだ』

「何でしょう?」


 暁様と宵様は少しだけさみしげな顔でお琴を見つめてから、こう言った。


『付喪神とて、壊(・)れ(・)る(・)時(・)は(・)あ(・)っ(・)け(・)な(・)く(・)壊(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)……』

『守りたいという想いが強ければ、その懐中時計のように』

『そして邪にとらわれれば、より簡単に崩れ去ってしまう』

『だからもし、お琴に何かが起こったときには、こ(・)の(・)神(・)社(・)で(・)弔(・)お(・)う(・)と(・)思(・)う(・)……』


 思わぬ言葉に目を見開いた俺を、二人はやさしく撫でてくれた。


『そうならないためのその子じゃ。ヒイラギよ、お琴を守ってやってくれよ』


 宵様の声に、ヒイラギは深く頭を下げた。


『そして――もし神格化を目指すのなら〝心残りを抱えた付喪神〟を導いてやるとよい』

「心残り……」

『その願いがかなったとき、お琴は〝徳〟を得ることができるじゃろう』


 その後「もう昼になるから帰れ」と言われ、俺たちは急いで家へと戻った。

 肩にとまったヒイラギの姿は、祖父母にも見えていない。

 どうやら本当に、俺にしか見えないようだ。

 ヒイラギが俺の分身であるなら、きっとお琴を守ってくれる。

 ならば、俺自身も覚悟を決めなければならない。


 その夜、懐中時計を強く握りしめるお琴の髪を櫛でといている間、ヒイラギは静かにそばに寄り添っていた。

 暁様と宵様に道を示された俺たちが、最初の「心残りがある付喪神」と出会うのは……。

 それからそう遠くない日のことだった――。

面白いと感じたり、応援したい! と思われたら

ポチッとお気持ちを押して頂けると嬉しいですm(_ _)m


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。