第32話 信じたくはないからこそ、憶測で考える
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病院からの道沿いにある高校。
そこから見る夕日は、まるでどす黒く赤い夕日に見える……。
旧校舎には立入禁止の黄色いテープが張られ、入ることはもう無いだろう。
(……確かに俺は〝鬼〟に首を絞められた。顔は見えない。だけど――)
やはり……森田なんだろうか。
あの声、笑い方。
顔は見ていなくとも、あの屈託ない森田が鬼だとは思いたくない……。
それに、どこをどう取っても陽キャラな森田が鬼とは、結びつかなかった。
「……なぁ、小林。森田……今日学校来てたか?」
「いや。まだ休んでるってさ。……でも、ここ最近のアイツ、ちょっとおかしいんだよな」
「おかしい、か」
「普段と変わらないんだ。変わらないのに……時折目が怖く感じる」
小林も感じている森田の違和感。
それが杞憂に終われば良いが、流石にそうも言っていられない気がする。
「小林は鬼を見たんだろ? どうだった」
「あれは人間の皮を被ったバケモンだな。オーラが違った」
「そうか……」
「でも、なんていうか……。お前だから話すけど……」
「うん」
「……森田のような気がした」
「悪い、俺も同意する」
俺の言葉に小林は拳を握りしめ、悔しげに顔を歪ませる。
友人が〝鬼〟だとも、俺を殺そうとした相手だとも思いたくないだろう。
それ以前に、俺と森田はそれなりに仲が良かった……というのもあるだろうな。
「話は一旦戻るけど……お前が黄泉送りってやつをした時……俺、見えたんだよ。……〝黒いの〟が、俺の胸から抜けていくのを」
「……!」
「お前が黄泉送りした瞬間な。なんか……苦しいのがスッと消えて……。頭が軽くなった感じがした」
「それは……小次郎さんの〝濁り〟だ」
『主の言う通りだ。小林は一時期取り憑かれていた。その濁りの残りが出たんだろう』
「ははは、何代も前の爺さんに取り憑かれるなんてな……」
力なく笑う小林には申し訳ないが、小次郎さんは大椿太夫を本当に愛していた。
だが、兄嫁の思惑でこんな結果になってしまったけれど――。
その血を、小林が継いでいる事は伏せたほうが良いだろうな。
言えない秘密が出来た。
だが、それは小林を守るための秘密でもある。
俺だけが知っていればいいだけの話――。
『でも……あの濁り、全部では無いな』
「ヒイラギ?」
『まだどこかに残っている。人の未練や嫉妬、欲に寄り添い、膨らむ……それが濁りの常だ。誰かの〝間影〟に、今もしがみついているはず』
「学校自体が濁りの発生地であり発生源。だとしたら、鬼は複数いる可能性もあるのか?」
小林の言葉に俺が目を見開くと、ヒイラギは首を横に振った。
『最も醜い心を持った者を選り好みして濁りは憑く。それが育ち〝鬼〟となる。それは人間であっても、付喪神であっても変わらない』
「そっか、付喪神も鬼になる場合があるんだな。ヒイラギ先生の言葉はしっかり聞いておかなくちゃ、柳原を守れないからな」
「守るって」
「ぶっ倒れた時俺がいないとダメだろ」
「あ~~ん~~。それは確かに助かるかも知れないけど」
「ところでヒイラギ先生。ヒイラギ先生から見て森田はやっぱり……鬼ですか?」
どストレートに聞いた小林だったが、ヒイラギは俺の肩に止まって暫く黙り込んでから口を開く。
『鬼とは断定は出来ない。だが不気味な違和感だけはあった。奴は常に嫉妬と妬みが渦巻いていた』
「嫉妬と妬みが?」
「あの森田に?」
『人間は色々家庭によってもあるだろう。家族ゆえに歪みやすい、嫉妬もしやすいなどもある家庭もあるだろう』
「……確かに」
「森田の家は……ちょっと特殊なんだよな」
ここに来て小林がそんなことを口にしだした。
なんでも、森田は次男らしいのだが……家は長男を大事にする家系なのだそうだ。
その為、下に生まれた子供は兄のスペア扱いされる事が多く、また、森田は出来の良い兄といつも比べられていたらしい……。
あのいつも明るい森田がそんな扱いを家でされていたなんて……知らなかった。
「だから……鬼になる……っていうなら、森田は……可能性が十分あると思う」
「そう……なのか」
「……柳原。お前、森田の顔……覚えてるか?」
「え? ああ、覚えてるけど」
「昨日さ……俺、森田と別れた時。なんか……〝笑い方〟が違ったんだよ。いつものアイツじゃなかった」
……胸の奥が、ひゅっと細くなる。
言葉にできない寒気が背骨をなぞった。
その言葉を告げた時、突風が吹いて旧校舎の窓がガタッと大きく鳴った。
次の瞬間、空気がぴたりと止まった。
一瞬ビクリと二人身構えてしまったくらいには――鬼の存在は大きい。
「俺達も、もう少し用心深く森田を見ていったほうが良いかも知れないな」
「ああ、ダチが鬼だとは信じたくもねーけどな」
『主……気を付けるのだ。まだ……終わっておらぬ』
――まだ終わっていない。
そう、小次郎さんと大椿太夫の事は終わった。
だが、肝心の〝鬼〟の事は、本当に憶測に過ぎない。
友人が鬼であって欲しくないという気持ちと。
友人に命を狙われたという紛れもない事実。
悲しみと苦しみ、そして言いようのない怒りが湧いてくる。
それでも、俺達は前に進むしか無い。
――こうして俺達は、〝森田の異変〟へ静かに向かい始めるのだった。
楽しんでいただけていたらいいんですが……(;´Д`)
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