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忘れられる前に、最後の願いを。  作者: 寿 明結未(ことぶき・あゆみ)
簪の付喪神、桔梗さんと怨霊と鬼の正体

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第31話 鬼の出現

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 いざ〝黄泉送り〟をしようとしたその時だった――。

 背後から首に手をあてられ首を絞められた……っ!!


『主!!』

「ぐぅ……っ!」

「……そんなことされたら困るんだよ……。学校の怪異が無くなっちまうだろう? くっ……〝俺の居場所〟が減るのは、マジでムカつくんだよ」

「お……まえ……はっ!」

『この男……鬼でありんす!!』


 桔梗さんの言葉に、やはり入ってきたのは鬼だったのだと理解した。

 くそっ! これじゃ黄泉送りが出来ない!!

 何とか振りほどこうとするがあまりにも強い力に振りほどけない。

 ……首が……っ締まる!!


「俺はさ~? 楽しみもない生活の中でやっと手に入れた楽しみが〝コレ〟なんだよ……。邪魔されたら困るんだよなぁ?」

「おま……え……っ!」

「あ~? お前も死ねば、学校の怪談のひとつにならねぇ? それ絶対バ(・)ズ(・)る(・)わ(・)」

「その……言い……か、た……」

「そしたら更に盛り上がるよなぁ~! 最高の気分を味わえるよなぁ~!!」

『主!!』

『いやあああああ!!』


 ヒイラギと桔梗さんの叫びが響き渡る。

 俺の意識が朦朧としてきたその時……もうダメだと思ったその刹那――。

 鬼の腕を――誰かが掴んだ。


「それ以上俺のダチに手出しはさせない!!」


 聞こえてきた声は……小林?

 何故小林がここに!?

 鬼に乗っ取られてたんじゃないのか!?


「手をはなせ……この化け物!!」

「化け物だと!?」


 そう叫ぶと小林は鬼の顔面に思い切り拳を入れて俺を庇い突き飛ばした。


「大体何だよ鬼の面なんて被って!! って……お前もしかして」

「――っくそ!!」

「待て!! くそ、あいつ逃げ足早いな!!」

「小林なんで……」

「学校のプリント貰いに来たんだよ。お前こそ何してんだ? それにこいつ等は一体」

「話は後だ! 悪いが少し離れてくれ! 俺が倒れたら運んでくれ!」

「え? ええええ!?」


 小林には悪いが今は説明をしている暇はない!

 俺は何度か咳き込んでから大きく深呼吸をし、もう一度パンッ! と手を合わせる。

 目をスッと細め……思い描くは蝋燭……。


(小次郎さん……大椿太夫……。君たちをあるべき場所に送ろう。そして来世で必ず出会い、幸せを掴んで欲しい)


 フッと眼の前に蝋燭が現れる。

 そして周囲にも……幾つもの蝋燭が灯っては燃え尽きて彼岸花になって散っていく。

 身体が……重い。

 汗が吹き出る。

 額は燃えるように熱かった。

 それでも震える手は合わせたまま、最後に灯った眼の前の蝋燭の火を……フッと短く息を吐いて消すと目を閉じる。


(二人をあるべき場所へ……来世でも手を取り合い生きていけるように)


 そう願いを込めて手を合わせると、小林の声が聞こえてくる。


「何が……起きて……るんだ」

『主の聖なる儀式だ……ああ、なんと美しい』

『大輪の……曼珠沙華(まんじゅしゃげ)……』


 その言葉に周りが柔らかく明るくなる。

 沢山の蝋燭が灯る中、それ以上に沢山の蓮の花が咲いている水の上……。

 蓮はスッと動いて道を作る――光差す方へ。


『この道を辿れば……』

『小次郎様……』

「次の時代では、必ず二人は一緒だ……。必ず出会い、手を取り合い……生きていける」

『――青年、ありがとう!!』

『光一様……本当に、本当にありがとうございます!!』

『お二人とも……お元気で』


 白装束に着替えた二人は手を取り合い、蓮の花の道を歩いていく。

 大きな光が二人を包みこんで消えると……場面が変わり真っ暗な廊下に立っていて――それと同時に俺は崩れ落ちた。


「わあああ!! 柳原!? 柳原!!」

「すまな……家まで……せめ……先生を……」

「待ってろ、すぐ先生呼んでくる!!」


 その言葉を最後に、俺は意識を手放した――。


 ◇◇◇◇


 それから一週間、俺は目を覚まさなかったらしい。

 病院に入院させられたが、体に異常は無かった。

 ただ、首を絞められた跡があり、目を覚ましてからは警察に事情聴取を受けた。

 相手の顔を見ていないことや、小林も力を貸してくれたお陰もあったが――。

 犯人の特定は難しそうだった。


 幸いなことに、俺にしていたことについては、小林は黙っていてくれた。

 余りにも人間離れした光景だったと言うのもあるだろうけれど、黙っていてくれたことにホッとした。

 ホッとした反面――小(・)林(・)は(・)鬼(・)に(・)囚(・)わ(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)こ(・)と(・)が(・)分(・)か(・)っ(・)た(・)。

 恐らく、小次郎さんを黄泉送りしたことで、小林に取り憑いていた濁りが無くなったんだ。


 やっと退院する日――小林が訪れた。

 もしやとは思ったが、小林には、ヒイラギ達が見えるようになっていた。

 恐らく、小次郎さんの力の残骸が残っているのだろう。

 一時的なのか、ずっとなのかはわからない。

 ただ、小林は俺のしたことについて、そして学校で自分自身がどうなっていたのかを問いかけてきた。


「なるほど。俺はその小次郎……つまり、俺の何代か前の爺さんに取り憑かれていたのか」

「そうなる……な」

「それで学校での記憶がなかったんだな」

「俺が小林の家に行った時、花魁の絵を見せてもらっただろう? その時、絵から大椿太夫が現れて、ようやく……小次郎さんと大椿太夫は再会することが出来た」

「で、お前のした……えっと、黄泉送りだっけ? それで天国に行ったのか?」

「さぁ? 天国かどうかはわからない。ただ、輪廻(りんね)には乗れたと思う」

「そっか……。いや……お前すげぇな」


 そう語り合う病院からの帰り道。

 そういえば、森田の姿は見えなかった。

 まぁ、そこまで親しいと言う訳では無いから別にいいんだけど。


「鬼の面をかぶってたアイツ……。ア(・)イ(・)ツ(・)が〝鬼〟なんだよな?」

「ああ、学校に巣食う鬼だ」

「〝学校自体が鬼を生み出す〟……と言うヒイラギの考えには俺は同意するんだよなぁ」

「ははは」

「俺も、見える間は手伝うよ。片足突っ込んじまったしな」

「危険だぞ。相手は誰かもわからない鬼だ」

「……正直、まだ全部は飲み込めてねぇけどさ。だからこそ、二人の方が安全だろ」

「……ありがとう小林」

「何代か前の爺様を救ったお礼だ」


 ――こうして、不思議な縁は続くもので、小林が黄泉送りをする際の手助け相手として仲間になってくれた。

 問題は……逃げていった鬼だ。

 最初、小林が鬼だと思っていたが違った。

 では……誰が一体鬼なんだ。


 ――あの時の声。

 ――あの時の言葉。


 何かが警戒音を木霊させるように鳴っている。

 信じたくない。

 信じられない。

 でも、確証はない。

 小林のような件もある。


(森(・)田(・)……お前なのか……? ……〝あの時〟も変に笑ってたな)


 ……心臓の奥で、嫌な音がひとつ鳴った気がした。

 今日だけで、もう何年分も疲れた気がする。

 言い出せない言葉を飲み込み、俺は家路へと向かうのだが――。

楽しんでいただけていたらいいんですが……(;´Д`)


面白いと感じたり、応援したい! と思われたら

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