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忘れられる前に、最後の願いを。  作者: 寿 明結未(ことぶき・あゆみ)
簪の付喪神、桔梗さんと怨霊と鬼の正体

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第30話 三人の再会と、別れの予兆

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 そう告げた時、小次郎さんの姿が一時的に安定した。

 濁りが薄まり人の輪郭に戻れたのだ。

 今なら――そう思い簪を手にすると、二人が涙を流して現れ、小次郎さんは目を見開き涙を零して言葉すら出ない……。


 桔梗も大椿太夫も、涙を流しながら震え『小次郎様……』と想いを運ぶように名を呼ぶ……。


「……行っていいよ。二人とも」


(だったら今くらい、俺が守らないといけない。 ――たとえ、この先の時間が少し削れたとしても)


 ――俺は覚悟を決めた。

 この二人を、せめて三人を……本来あるべき場所に送り出すのだと。


『小次郎様……っ!』

『わっちは……あちきは恨んでなんぞおりんせん! 来世で、貴方様と結ばれとうて……ずっと、ずっと願うておりんしたんでありんす!』

『ああ……ああ! 大椿っ! わしも、わしもお前と来世では!!』

『あちきも……共に願わせてもらいんす……。大椿太夫と小次郎様が……来世でこそ、きっと結ばれんことを……!』


 抱きしめ合う小次郎さんと大椿太夫。

 その二人に寄り添う桔梗さん。

 今なら――そう思い、俺は静かに手を合わせた……。


 ◇◇◇◇


 まだ小次郎さんの身体は安定したわけじゃない。

 でも、小次郎さんは大椿太夫を抱きしめ、お互い涙を流し長い間会えなかった時間を取り戻すかのように語り始めた――。


『……椿……よう、生きていてくれた……』

『小次郎様……! わっちは……ずっと……ずっとお慕い申しておりました……!』


 ……その言葉に強く抱きしめ合う二人。

 本当に心から愛し合っていた二人なのだと、引き裂かれてしまった二人なのだと、改めて感じることが出来るほど……胸が詰まる思いだった。


『小次郎様と離れて百年あまり……。わっちは、わっちはずっとずっと……』

『わしもだ……わしも……わしもずっとずっと……』

『あちきにはわかりんす……。お二人はずっと想い合っていたのだと……』

『桔梗……』

『小次郎様……大椿太夫。これから先の未来、必ずや二人は来世で結ばれ……そして来世こそ共に……』


 桔梗さんの言葉に二人は強く頷き合う。

 ああ……二人の愛は本物だ。

 本来ならば、本当ならば……決して誰も引き裂かれないはずの二人だった。

 それを許せなかった時代と過去。

 そして……〝鬼という存在〟が二人を更に引き離した。

 過去のことは致し方ないのかもしれない。

 けれど――現世の今。

 小次郎さんの想いにつけこんだ鬼は許せないっ!!


(何が守る力だ! 人の気持ちを踏みにじって笑っているだけじゃないか!)


 ――怪異を生み出してまで、その相手は何がしたかったっていうんだ!!

 その気持ちが強くなる。

 だが、その一方で三人は今まで会えなかった間の昔話。

 そして……互いに守れなかった約束の痛み。

 離れ離れになった年月を埋めるように語り合っていた……。


 黄泉送りすれば、もうこの語らいすらできなくなる。

 来世で出会うまでずっと――。

 全てを共有し、絡まった未練がゆっくりほどけていく。

 絡まっていた未練という糸がほどけて、綺麗に整っていく姿を見つめていた。


 三人共に涙を流し、小次郎さんは愛しげに大椿太夫の涙を拭い、見つめ合う。

 そして、傍で泣く桔梗さんに向き合うと――。


『桔梗……守れず……すまなかった……』

『あちきの事は良いのです。どうか、来世で……大椿太夫と』

『必ずや見つけよう……。わしはもう……椿を手放したりはしない』

『小次郎様っ!』


 強く抱きしめ合う二人。

 小次郎さんの気持ちが安定してきたのか、輪郭が綺麗に映し出され始めたその時だった。


 ――遠くから靴音が聞こえる。

 靴音と同時に、旧校舎の空気が一度だけ冷えた。

 誰かが旧校舎に入ってきたのか!?

 こんな時間に!?

 旧校舎の影が、わずかに震えた気がした。


 ……もしかして……〝鬼〟なのか?


 近づいてくる足音に一瞬気を取られたその時だった。

 小次郎さんの胸から〝黒い濁り〟が、じわり……と漏れ始める。


『う……あああっ! 二人ともわしから離れろ!』

『小次郎様!?』

『〝鬼〟だ! 〝鬼〟が近くに……ぐあああああああ!!』


 ――濁りに呑まれる!!


『安定は長くもたぬ……!』

「覚悟を決めた……決着をつける……!」


 俺はパン! と両手を合わせ……スッと目を細めた。

 途端ドクリ……と心臓に嫌な感覚が起きたが、恐らく桔梗さんまでは……黄泉送り出来ないと身体で判断出来た。


(――黄泉送り出来るのは二人まで……。ならば!!)


「桔梗さんは俺の傍に」

『承知いたしんしたっ!』


 そう告げると桔梗さんは俺のもとに駆け寄り――。

 身体から黒い濁りを吹き出しながらも抑え込もうとしている小次郎さんと、泣きながら彼の名を呼ぶ大椿太夫さんに向き合う。


 大きく深呼吸する。

 もう時間はない。

 途端、俺の額の宝珠は光り輝き――蓮が小次郎さんの胸に咲き誇り濁りを抑える。

 ――今だと感じた。


 二人を……黄泉送りする。

 欠けることなく、二人一緒に!!

 ……胸の奥で、糸が一本ぷつりと切れるような痛みが走った。

楽しんでいただけていたらいいんですが……(;´Д`)


面白いと感じたり、応援したい! と思われたら

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